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小説「ジブンのみち」 part2

1 :トミー・ボンバー:04/01/26 14:20 ID:2pZ/8Y/+
前スレがdat落ちしてしまってたので立てました。
辻豆さん、続きをどうぞ宜しくお願いします。

「前スレ」
ジブンのみち
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1063597955/


2 :ヽ(O^〜^)ノMIYAKO ◆YOSSIEfUzw :04/01/26 20:37 ID:tA52WPfo
2げっと

3 :名無し募集中。。。 :04/01/26 20:41 ID:DxauSDDL
n日ルールか


4 :ニィニィ♪豆ちゃんよ♪:04/01/26 20:44 ID:BcsrdpCY
    _, ,-;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::,.
   /;:;:;:;:;:;;:;:;:;:;:;:ミミ;:;:;:;:;:;;:;:;`、__
  /;:;::;:/ /;:;:;:;:彡―ー-;:;:;:;:;:;;|:;:;:;:;:;:;ヽ
 /:;:;:;:;:|;  |ノ、      `、;;:;:;:;i |:;:;:;:;ヽ
/:;:;::;:; ;| /_=  ====  |;:;:;::;! |:;:;:;:;:;:ヽ
|;:;:;:;:;: ;| | ' ゚ '  ┌。-、  |;:;:;:;:/ |:;:;:;:;:;:;|
 |:;:;:;::/ |`  (。。     ソ  |ノ:;:;:;|:;:;:;|
_,-ー | /         ノ<糞スレ立てんなクソが!
 | :   | ヾ三ニヽ   /ヽ、_   ヽ:;:;:;::;| 
 ヽ   `、__ ー'  |   `ー ――、
  |    | \   / |
  \   |___>< / ヽ


5 :名無し募集中。。。:04/01/26 20:58 ID:sqe2vEnQ
>>1

あの時間によく立てられたなw

6 :名無し募集中。。。:04/01/26 21:12 ID:llG/A18S

从*・∀.・从<…アーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ…。

小説「ジブンのみち」

HTML版 http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955.html
かちゅ〜しゃdat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955.lzh
かちゅ〜しゃdat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955.zip
Janedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-jane.lzh
Janedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-jane.zip
ホットゾヌ2dat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-zonu.lzh
ホットゾヌ2dat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-zonu.zip
ABonedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-abone.lzh
ABonedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-abone.zip

7 :名無し募集中。。。:04/01/27 06:37 ID:8P+itnkY
辻豆さん、意外な出来事で保全できなかったッス…

8 :名無し募集中。。。:04/01/27 20:02 ID:SFDQ+3Hn
辻豆さん此処分かるかな

9 :名無し募集中。。。:04/01/27 21:26 ID:8P+itnkY
総合スレからリンクあるから
大丈夫っしょ‰

10 :名無し募集中。。。.:04/01/28 20:26 ID:LavOhkVw
ノノ*^ー^)<死守!

11 :名無し募集中。。。:04/01/29 03:10 ID:vFpnkapH
>>10
そうか、即死判定があったな・・・忘れてた

12 :名無し募集中。。。:04/01/29 08:31 ID:X8b2Czx7


13 :名無し募集中:04/01/29 08:52 ID:6xo07mTM
待ってる

14 :名無し募集中。。。:04/01/29 15:53 ID:bgHVezzV
復旧した鯖の即死判定はどうなってるのか?
連投なんかも数値が変わってるらしい
ともかく保全

15 :名無し募集中。。。:04/01/29 23:05 ID:p+qFh9q3
保全協力。
容量が危ないんだったら、前スレの最後の更新をコピペするとかどうだろう?
今回は落ちませんように。

16 :名無し募集中。。。.:04/01/29 23:28 ID:8hbQ/1gj
とりあえず40レスを目指しつつ、辻豆さんの登場を待ちつつ、本編でのあの人の登場を待つ。










☆ノハヽ
ノノ*^ー^) <ん〜?

17 :名無し募集中。。。:04/01/30 07:50 ID:m4qIR4Q5
このペースでは危ない気が…

18 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 08:29 ID:dzPkZSmg
このスレはわれわれ辻豆保全隊。。。が保全します!

19 :名無し募集中。。。:04/01/30 09:45 ID:4qAB+2UV
協力します。保全。

20 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 10:11 ID:dzPkZSmg
(〜^◇^)<ヤグイエロー!保全します!

21 :名無し募集中。。。:04/01/30 11:32 ID:l9Ic2vGH
辻豆さんIE派って事はないよね?

22 :名無し募集中。。。:04/01/30 11:47 ID:NgC0R3Mo
可能性が無いとは言えんな。

23 :名無し募集中。。。:04/01/30 14:41 ID:UaFLkJcX
揚げてみるのはどかな?

24 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 15:09 ID:dzPkZSmg
川o・ー・)ノ<紺野ブルー保全します!

25 :名無し募集中。。。:04/01/30 21:10 ID:hzNsZ6WM
あいぼんぬさまと共に復活を

26 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 21:31 ID:m4qIR4Q5
(‘д‘)<加護グリーンやでぇ! 保全したるわぁ!

27 :辻豆保全隊。。。:04/01/31 00:17 ID:Anc/fO6X
( ^▽^)<石川ピンク!保全しま〜す!

28 :名無し募集中。。。 :04/01/31 04:37 ID:K+/yJEOq
>>21
ありうるかな。
ここ1ヶ月の辻豆さんの更新ペース
03/12/29
03/12/31
04/01/04
04/01/06
04/01/10
04/01/12
04/01/15
04/01/18
04/01/22
04/01/25
たしかにちょっと開いてるな。
ところで25日ってまだIEでアクセス出来たっけ?


29 :名無し募集中。。。:04/01/31 07:25 ID:KeB34FZs
26日の2時頃に飛んだはず

30 :名無し募集中。。。:04/01/31 11:12 ID:8ClOvvU/
( ´D`)<即死回避まで残り10なのれす

31 :名無し募集中。。。:04/01/31 12:55 ID:rbKTOr9C
IEだったらage進行でいかないと気付かないのでは?

32 :名無し募集中。。。:04/01/31 14:04 ID:CxVfm1LO
そういう問題ではない

33 :名無し募集中。。。:04/01/31 18:41 ID:igYi2W39
hozen

34 :名無し募集中。。。:04/01/31 19:06 ID:fIRDqW5U
>>32
IEだと上位20スレしか見れないんじゃないの?

35 :名無し募集中。。。:04/01/31 20:42 ID:C1OjgqQz
見れたってかきこめないんだからいっしょだろ

36 :名無し募集中。。。:04/01/31 20:48 ID:qQcAd6qS
>>34
なんか事態の認識の仕方を間違えてるぞ

37 :名無し募集中。。。:04/01/31 21:11 ID:27u9y8sX
とかなんとか言いつつ40レスを目指して爆進中

38 :名無し募集中。。。:04/01/31 21:13 ID:fIRDqW5U
今、IEは上位20スレしか見れなくて書き込めないって言う認識なんだけど
なんか間違ってる?
いや、辻豆が専用ブラウザ使ってたら関係無いけど

39 :名無し募集中。。。 :04/01/31 21:15 ID:K+/yJEOq
40まであとひとつ


40 :名無し募集中。。。 :04/01/31 21:15 ID:K+/yJEOq
40GET


41 :名無し募集中。。。:04/01/31 22:02 ID:4dEZob+7
取り敢えずこれで即死は無くなったのか?

42 :名無し募集中。。。:04/01/31 22:23 ID:XAGjYFIi
ソウンドノバル読もうと思うのだが、あれって1から読まないといけないものなのか?

43 :名無し募集中。。。:04/01/31 22:24 ID:XAGjYFIi
○サウンドノベル
最近誤字多いな・・・

44 :名無し募集中。。。:04/02/01 02:23 ID:Ecvt1kX2
>>38
IEでも上位20なら書きこみできるよ

45 :ただすん:04/02/01 11:54 ID:lZka8jYd
あややの新曲のプロレスラーみたいなカッコ、この小説のあややとダブって見える。

46 :名無し募集中。。。:04/02/01 19:40 ID:dijpxENx
辻豆氏、書き込みできないようですな。
(羊)小説案内所のBBSに書いてあった。
ttp://f25.aaacafe.ne.jp/~nanashi/

47 :名無し募集中。。。:04/02/01 20:46 ID:u4N53R00
そこのサイトの人がんばってるなあ

48 :ねぇ、名乗って:04/02/02 00:21 ID:NhW8jIkg
IE規制はまだしばらくは続く感じだね
運用情報スレを見ると、新鯖次第という雰囲気もある
羊や狼のスレ立て規制や名無しも変わったし・・当分は苦労しそうですな


49 :名無し募集中。。。:04/02/02 00:29 ID:FD4CGdN8
>>44
そういう意味でageた方がいいんじゃないって言ってたんですけどね
ま、連絡できる場所があるんならいいか

50 :名無し募集中。。。:04/02/02 01:05 ID:chAu2c6P
(´-`).。oO(何で2chブラウザ使わないんだろ…)

51 :名無し募集中。。。:04/02/02 12:21 ID:DehM5K1c
>>49
上がってるときに見てるとは限らないからね

52 :名無し募集中。。。 :04/02/02 17:31 ID:YdM+zdFL
そろそろ禁断症状がっ!

53 :辻豆保全隊。。。:04/02/02 17:33 ID:8vYxOEjG
(ё)<新垣ブラック保全します!

54 :あげ:04/02/02 21:30 ID:sqYLr5zw
あげ

55 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:31 ID:U8zZ6iIk
石黒の視界に次々と信じられない光景が入り込んでくる。
殴られている。
あの飯田圭織が…。最強の女が…。殴られている。
まだ十代の小娘に。
いやそれは殴るなんて生易しいものじゃない。削れらてゆく。
圭織が…ここまで積み上げてきたもの全てを…削ってゆく。
(松浦亜弥…)
(お前は何だ…)
(やめろ!やめてくれ!もう…)

「やめろぉーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

叫んだ。その声は松浦亜弥の耳に届きはしなかった。
ジョンソンバスターから起き上がった後の松浦は、もう石黒の知る松浦ではなかった。
これまで幾多の怪物を見てきた石黒の背筋が冷たく凍りつく程に彼女は…。
さっきまでガードもできなかった圭織の攻撃を難なく避ける。
当てることもできなかった攻撃を軽々と圭織の顔面に叩き込む。
一方的な試合が…反対に一方的な殺戮へと変わった。
圭織の顔面はボコボコに腫れ上がり、全身が血に染まっている。

「だから…」

こんな鬼気迫る圭織の表情を見たのは…いつ以来だろう?
唇を噛み締めて、言葉をの一つ一つを紡ぎ出す。目の前の死神に…。

56 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:32 ID:U8zZ6iIk
「だから…お前を出す訳にはいかないんだっ!」

圭織は長い腕をナタの様に振り下ろした。
起死回生、逆転の祈りを込めた必殺ジョンソンチョップ!
しかし、プロレス界最強の攻撃力は、死神の脳天スレスレでその動きを止めた。

「髪をなでてよ」

松浦は掴み取った飯田の腕を、まるで撫でさせる様に自分の髪にすりよせる。
同時に下から物凄い勢いで競り上がってくる物体があった。松浦の爪先。
爪先は飯田圭織のアゴと首の間を思いっきり蹴り上げた。
長身が宙を舞い、やがてズドンと地に落ちる。
飯田圭織が地に落ちた。
歴史が止まった。

「さようなら。憧れのジョンソン飯田さん」

大の字に倒れる圭織に向けて、クリクリと指差して松浦は微笑んだ。
それからクルリと石黒の方に向き直る。

「終わりましたよ」
「松浦。お前、相手が誰だがわかって言ってるのか?」
「はい?」
「ジョンソン飯田だぞ。そいつをわかって終わったと言っているのか?
 相手がジョンソン飯田ならば…ここからが本番だろう」

57 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:32 ID:U8zZ6iIk
「うううううううううぅぅぅぅ…」

夜の帳にうめき声があがる。
声の主は、かつて女帝と称され栄華を極めた女。
今はただの廃人。
もう何年も寝たきりの生活を続けている彼女の姿は、まるで別人と化していた。
毎晩、自分を地に貶めた女の夢でうなされる。

「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ところが今夜のソレは尋常では無かった。
全身を掻き毟り、ベットの上で荒れ狂い、大声で叫び続ける。
住み込みのお手伝いがいくら止めても、もう手に負えるものではなくなっていた。

「来る…」

彼女は何度も「来る」「来る」と怯え続けていた。

――――――――――――神が来る

58 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:32 ID:U8zZ6iIk
松浦亜弥は振り返った。
飯田圭織は仰向けで倒れたままだ。ただ、その右腕だけが天に向かって伸びていた。

(交信!!)

淡い光がジョンソン飯田の体を包み込む幻想に陥り、松浦は思わず目を閉じた。
再びまぶたを開けたとき、ジョンソン飯田はその場に立ち上がっていた。
焦点の合わない虚ろな表情で。

「アハ、アハハ…これが噂の交信ってやつですか〜?」
「よせ!もうやめろ松浦!!」
「石黒さん。私、そういうの信じないんで」
「やめろーーー!!!」

石黒はもう一度叫んだ。
(あの状態の圭織と闘った相手が、今どうしているか知らんだろ!)
(お前まで!お前までそんな目に合わせる訳には!)

死神の鎌が狙いの首をもぎ取ろうとした瞬間、神の両目がまっすぐに開いた。
それから数秒の記憶が松浦にはない。
5,6個の技を同時にもらう様な不思議な感覚と途方も無い絶望感。
どんな闇も、どんな狂気も、一手に飲み込んでしまう力。
まるで本当に神様を相手にしている様な…。

59 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:33 ID:U8zZ6iIk
本当にいたんだ…。
プロレスの神様。
あぁ、私、今、それと闘っているんだ。
凄ぇじゃん。
今度、愛に自慢してやろう。
『私、神様とケンカしたんだぞ』って。
それだけじゃない。私は勝つんだ。
だって約束したよね。
『宇宙一強いプロレスラーになる』って。
愛は宇宙にプロレスなんか無いって言っていたけど、神に勝ったら認めるでしょ。
宇宙一だって。
そしたら決着つけようぜ!
宇宙一強いプロレスラーより強い格闘家が夢の、あんたとね。
でっかいでっかい舞台で。みんなが見てる前で。
どっちが強いか!?
ね〜え?聞いてる?愛。
ちょっと待ってってば、何処に行くの?置いてかないでよ。
愛!待ってよ愛!
私はここだよ!ここにいるってば!
暗い!何にも見えない!どうして?愛!

「愛!!」

60 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:33 ID:U8zZ6iIk
ドンッ!!

それは素人が見てもわかるくらい危険な一撃だった。
圭織の手が松浦の胸にめり込み、松浦の頭がカクンと下に揺れた。
圭織が手を抜くと松浦は、全身の穴という穴から鮮血を噴出し崩れ落ちた。
それでもプロレスの神様は攻撃の手を緩めようとしない。
崩れ落ちた松浦をボールの様に蹴り上げる。

「もしものことがあったときは…頼む」

試合の前、圭織が告げた台詞の意味がようやく理解った。
石黒彩は駆け出した。

「圭織ぃ!!」

全力を込めて、プロレスの神様の背を羽交い絞めにした。
だが物凄い圧力で石黒は吹き飛ばされそうになった。
(こうなった圭織を止められるのは相棒の私しかいない。そう思って圭織は託したんだ)
離すものか!石黒は声の限りに叫んだ。

「おい!プロレスの神!出て行け!こいつは私の相棒!飯田圭織だ!!」

その瞬間、圭織の体が急に軽くなり、勢いのつき過ぎた二人は後ろに倒れた。
神は去った。
――――――同時に、血の海の中、松浦亜弥はその鼓動を止めた。

61 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:37 ID:U8zZ6iIk
数日後、ハロープロレスは記者会見を開く。
飯田社長とエース松浦が、予定されていた全スケジュールをキャンセルした件について。
ところが、この会見に姿を見せたのは副社長の石黒彩一人だけであった。
不穏な空気が流れる中、彼女の口から次々と衝撃のニュースが語られる。
『飯田圭織、体調不良により緊急入院』
あのジョンソン飯田が…と驚く声が多数あがったが、次のニュースがあまりに
衝撃的であった為に疑問の範疇から消し飛んでしまった。
『松浦亜弥のハロープロレス退団』
想像もしえないことだった。人気絶頂のスーパースターがあまりに突然すぎる。
しかもその発表会見に本人が姿を見せないのだ。
ブーイングが飛び交う中、石黒彩は最後にこう締めた。

「安倍なつみのトーナメント。ハロープロレスからは私、石黒彩が出場する。
 飯田圭織と共に作り上げたハロープロレスこそ真の最強であること、
 この私が全力をもって証明してみせたいと思う」

ただ一人。
飯田圭織と松浦亜弥の死闘を眼にした彼女だけが知っている。
ハロープロレスこそ最強の格闘技!
この身を賭けてそれを知らしめることこそ、ジブンの道だと石黒は心に誓った。

第12話「プロレスの神様」終わり

62 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:37 ID:U8zZ6iIk
【某格闘技誌にて行なわれた優勝予想アンケートの結果】

1位 吉澤ひとみ(UFA世界ヘビー級王者)
やはりと言うべきか。ボクシング世界チャンプの肩書きはあまりにも強力。
破壊力も安定性も兼ね揃えたパーフェクトファイター。堂々の優勝候補一番手。

2位 藤本美貴(夏美会館空手全国王者)
1位とは数票の差で惜しくも2位となるも、空手最強崇拝者からは絶大なる支持。
安倍なつみに匹敵するとまで噂されるその実力が、いよいよ披露されるのか!?

3位 石黒彩(ハロープロレス代表)
今大会最年長。プロレスファンの期待を一身に受け見事ベスト3入り。
あのジョンソン飯田の相棒として長年培った経験が最大の武器。

4位 柴田あゆみ(東日本予選優勝)
未知の新人ながら、吉澤・藤本に並ぶ身体能力の持ち主として票が急上昇。
必殺のキック「フリージア」は威力・精度・リーチとも今大会随一との評価。

63 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:38 ID:U8zZ6iIk
5位 矢口真里(オリンピック柔道金メダリスト)
経歴と知名度の割に票が伸び悩んだのは、小柄な体格と打撃経験の有無によるものか?
だがファンは「ヤグ嵐」による奇跡を待望しているぞ!

6位 高橋愛(18歳以下トーナメント優勝)
スピードとテクニックは全出場選手中でトップクラスも、ややパワー不足は否めない。
ただ、冬の大会から半年間の成長次第では、台風の目となる可能性も十分ある。

7位 田中れいな(西日本予選優勝)
今大会最年少。若干15歳にしてボクシングミニマム級王者ミカを粉砕する快挙。
超一流の怪物達を相手にどこまで健闘できるか期待したい。

8位 ***(館長推薦枠)
発表は組み合わせ抽選会当日に行なうとのこと。

64 :名無し募集中。。。:04/02/02 22:16 ID:gmGFNgLy
辻豆たんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

65 :名無し募集中。。。:04/02/02 22:19 ID:s+7nfYKv
 

66 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 22:22 ID:U8zZ6iIk
次回予告

それぞれの道を歩んできた娘たちが、いよいよ一同に会す。
安倍なつみの口から告げられる『8人目』の名。
そしてトーナメント全対戦カードの決定!
最強に手を掛けられるのはこの中でたった一人だけだ!

67 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 22:22 ID:U8zZ6iIk
すいません。ずいぶんと心配かけました。
新スレまで立ててもらって、本当にありがとうございます。
辻豆さんに内緒でヤグチが勝手に作った辻豆保全隊の皆さんもありがとう。
小説の方もいよいよ大きな山場を迎えて参りました。
期待に応え、良い意味で裏切れる様に、またがんばっていきます。
これからも宜しくお願いします。

68 :ねぇ、名乗って:04/02/02 22:45 ID:rmAUSwsk
辻豆さん久々の更新乙です。
まさか二人とも出場しないとは、
これからも楽しみに待っていますので
マイペースで良いので良い作品をお願いいたします。

69 :名無し募集中。。。 :04/02/02 22:50 ID:Em3KPwFz
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


70 :名無し募集中。。。:04/02/02 23:41 ID:JaonXfsy
どんな形であれジョンソン飯田が勝ってよかった・・・
辻豆さん乙です

71 :名無し募集中。。。.:04/02/02 23:56 ID:VyzzhTlj
待ってました!と。お疲れさんです。

72 :ただすん:04/02/03 00:33 ID:Gvjxb3T0
奇跡の香りダンスキタ━(゚∀゚)━!!

>某格闘技誌にて行なわれた優勝予想アンケートの結果
一瞬、現実の格闘技誌でアンケート集計されたのかと勘違いしてしまいました…

73 :名無し募集中。。。:04/02/03 07:38 ID:Cp6YWbPN
辻豆さん乙です

74 :名無し募集中。。。:04/02/03 07:54 ID:2RBrOeDn
まってましたー!飯田が勝ってよかったです。
あとは推薦者だれなんだろ?

75 :辻豆保全隊隊長。。。:04/02/03 10:08 ID:F9Xbgc54
辻豆さん更新乙です!
一時はどうなることかとひやひやでした!
これからも保全隊頑張って保全します!
辻豆さんも頑張ってください!

76 :辻豆保全隊。。。:04/02/03 17:35 ID:F9Xbgc54
川'ー'川<ラブリーレッド!保全するは〜

77 :名無し募集中。。。:04/02/03 17:57 ID:Cp6YWbPN
>>74
推薦者は前スレ読めば書いてあるけど
辻なんじゃない?

78 :辻豆保全隊。。。:04/02/03 21:56 ID:F9Xbgc54
川=v=从<藤本オレンジ!保全します!

79 :名無し募集中。。。:04/02/04 03:28 ID:tP6vmJuF
正直、保全はもういらないわけなんだが・・・まあいいか

とりあえず辻豆キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

80 :あげ:04/02/05 01:18 ID:9dSPUKhV
更新あげ

81 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:18 ID:H6nUw8C8
第13話「抽選会」

「アテになんないランキングだねぇ」と言って、市井は読んでいた雑誌を放り投げた。
床に落ちたそれを拾い上げてパラパラとめくる。
冒頭の『1位 吉澤ひとみ』の欄で石川の視線は止まった。

「どうしてぇ?よっすぃーが1位だよ?」
「バァカ。そんなもん吉澤を世界チャンプとしか、見てない奴の評価だ」
「じゃあ実際は違うの?」
「大違いだね」

市井の言葉に石川はコロコロ表情を変化させる。
今は眉間にしわを寄せて唇を持ち上げている。たいそうな不満顔だ。

「わかってねえなぁ。本当の吉澤を知ったらそんなランキング成り立たねえんだよ」
「ちゃんと説明して下さい」
「本当の吉澤を知れば、その全員が間違いなく吉澤の優勝に票を入れるってことさ」

不満顔がたちまち甘い微笑みに変わった。

「2〜8位が成り立ってる時点で、アテにならないランキングなんだよ」
「じゃあ今日の抽選もよっしーにはあんまり意味ないんですね」
「そういうこと。あいつには通過点でしかない…」

市井の言葉の先にあるもの―――そう、その先であの娘が待っているのだ。

82 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:19 ID:H6nUw8C8
大会二週間前。
東京の某ホールにてトーナメント組み合わせ抽選会が開かれる。
出場選手は全員参加。いよいよ選び抜かれた7名が揃い踏むことになる。

(ぬ、脱ぎてぇ〜)
選手控え室の中、着慣れない正装姿に吉澤は早くもダウンしかけていた。
石川に無理矢理仕立てられたスーツがどうにも体を締め付けて、居心地が好ましくない。

「似合ってるじゃないか。どこのイケメンかと思ったぞ」
「ん?あー、あのときの」

ネクタイを緩めながら、吉澤は声のした方に顔を向ける。
数ヶ月前、攫われた石川を救うために戦った敵チームの一人がそこにいた。
大人びたジャケットを纏った柴田あゆみが、相変わらず表情の薄い顔で立っていた。

「意外だったぜ。お前らがこういうのに出てくるなんて」
「メロンは関係ない。私個人の意思だ。あいつと…約束したからな」
「…あいつか」

吉澤と柴田の脳裏に一人の娘が思い浮かぶ。
ここに来るはずの彼女は、未だ姿を見せてはいない。

「それより、石川梨華とはまだ一緒にいるのか?」
「何?あんだけヤラレテまだ懲りねえ?次梨華ちゃんに手ぇ出したらマジ殺すよ」
「無事ならいいさ。こっちももう関わりあう気は無い」

83 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:20 ID:H6nUw8C8
吉澤は少しムッとした。
もう数ヶ月近く一緒に暮らしているというのに、まだ吉澤は石川の素性を知らない。
詮索する気はないし、トレーニングでそれどころじゃなかったのも事実だ。
そういう関係でいいと思っていたが…

「お前、梨華ちゃんのこと、何か知ってんのか?」
「話せない。そういう決まりになっている。本人から直接聞け」
「あっそ」

何故か吉澤は自分に腹が立った。気にしていないつもりだったのに。
自分以外の誰かが自分の知らない石川梨華を知っている。
そんなことでこんなにもイライラするなんて思ってもいなかった。

「アニキィーーーーーーーー!!!」
「っぬお!」

場違いな大声に、吉澤の考え事は彼方へ吹き飛ばされてしまった。
アニキなんて呼び方するのはあのヤロウしかいない。

「ピーピーうっせーぞ!ピーマコ!」
「な〜に言ってんすか。アニキに会わせたい人がいるんですよ!」
「あん?会わせたい人?」

次の瞬間。吉澤は実に久しぶりに寒気というのを感じた。

84 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:20 ID:H6nUw8C8
「講道館の先輩で矢口真里さんっス。知ってますよねオリンピックの…」
「バカ、知らねえ訳ねえだろ!」

CMにも出演している国民的女柔道家、通称ヤグチ。
子供からお年寄りに至るまで、彼女の名を知らない国民なんているのだろうか?
だが吉澤が驚いたのはそんな所では無い。
150cmにも満たぬ小さな体から発せられる圧倒的威圧感だ。
(おいおい、安倍・飯田級じゃあねえか?)

「矢口さん。中学の先輩だった吉澤ひとみさんっス。ボクシングのチャンピオンの…」
「あぁ聞いたことあるなぁ」

小川の紹介を聞いた矢口から発せられた台詞はそれだった。
(聞いたことがある?その程度?この吉澤ひとみの名を、聞いたことがある程度?)
(おもしれえ!矢口真里!完全に自分の方が格上だと思ってやがる!おもしれえぞ!)

「よろしくね」

矢口真里は握手を求める手を差し出した。
だが吉澤はその求めに応じようとはしない。

「ごめん。ワクワクしちゃったから。握手はしないよ」
「?」
「あんたの手に触れちまったら、もう我慢できなくなりそうだ。だから…しない」

85 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:21 ID:H6nUw8C8
「お前の先輩、なかなかおもしろいこと言うじゃん」
「エッヘッヘ〜」

目的を失った右手を下げて矢口が言うと、
小川は自分が褒められた訳でも無いのに何故か照れてみせた。
吉澤はさらに続ける。

「安心したよ。本気出しても良さそうな相手がいて」
「そいつはどうも」

二人のやり取りを脇で聞いていた柴田も、体温の上昇を感じていた。
(強い奴はいっぱいいる。あいつの言った通りだ。確かにおもしろい)
裏世界にいた頃は感じたことのない興奮。本物たちの世界に柴田は震えた。
ここにもまた、新たな修羅が生れ落ちたのであった。

「騒がしいな」

視線が入り口に集まる。
ハロープロレス副社長、石黒彩の登場であった。
流石に他の選手達と比べても風格が段違いである。
彼女は誰とも口を聞こうとせず、一人奥のベンチに腰掛けた。
それを機に、吉澤と矢口も会話を止めそれぞれ壁際に離れていった。

抽選会開始の時間はもうすぐだ。
選手集合時刻も過ぎているというのに、まだ半数しか控え室にはいない。

86 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:25 ID:H6nUw8C8
そのとき、ドタドタドタッと大きな足音を立てて彼女は現れた。

「ハァハァハァ…間に合ったぁ〜!」
「遅え!お前、いっつも遅刻だよなー!」
「いやぁ〜渋滞でタクシー止まってもたで走ってきたんやって」

小川の突っ込みにこれまたノーテンキに方言丸出しで答える娘、高橋愛である。
しかもその格好はあまりに酷い。まるで地下街に住まう浮浪者の様だ。

「…ったく、バッチリ決めてきたこっちが恥ずかしくなる」
「ああ!吉澤さんじゃねえですか。どっかのホストみたいでわからんかったわ」
「くく…」
「おおー!あゆみちゃんもいるわ!やっぱり来たんやの〜良かった良かった!」
「てゆうか愛!あんた、着替えは?」

小川がもう一度つっこむ。愛はきょとんした顔で答えた。

「山から直接来たで何ももっとえん。だって抽選会の話も今朝知ったんやし」
「TVに映るんだぞ!あーもういい!私の貸してやるからとっとと着替えろ!」

小川が強引に愛の背中を押した。その際、愛の視界にまた懐かしい顔が映った。

「おお!石黒さんも出るんや!知らんかったわ!亜弥は元気か?」

が、目を伏せたままの石黒から返事はない。
そのまま小川に押し切られ、愛は已む無く趣味の悪いドレスに袖を通すこととなった。

87 :ただすん:04/02/05 02:00 ID:tLpKWZ1Z
抽選キタ━(゚∀゚)━!!

88 :名無し募集中。。。:04/02/05 21:25 ID:/bRAqYz8
辻豆さん乙です
早く抽選の結果が知りたいです


89 :ねぇ、名乗って:04/02/06 01:16 ID:QHefQESS




90 :名無し募集中。。。:04/02/06 17:04 ID:w/j5A/ez
アヤカはどう使うんだろう?

例えば
クイーンオブゲージチャンピオンで
格闘ヲタクで
決め台詞は
「ツキニカワッテオシオキヨ!」
なんてのかな?
つまらなかったらスマソ

91 :辻豆保全隊。。。:04/02/07 17:40 ID:oHU3gcDE
( ´v`)<辻ホワイト!保全するのれす!

92 :あげ:04/02/07 20:34 ID:3auNpCaw
あげ

93 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:35 ID:0ieD6Y28
ホールにはおおぜいの大会関係者、マスコミが陣取る。
いよいよ抽選会の始まり。
一斉にフラッシュが巻き起こる。両脇に藤本と辻を従えて、安倍なつみの登場。

「お待たせ!」

マイク越しの一声で、場は静まり返った。
皆、大会主催者の次の言葉を待っているのである。
なっちは両隣の藤本・辻に目配せし、息を吸うと大声で言った。

「始めるぞっ!出て来い!なっちの首を狙う無謀なチャレンジャーども!」

呼応する様に会場右側の分厚いカーテン開いた。
その奥に六人がバラバラと立っていた。再びフラッシュの嵐。

「吉澤さん。うちら無謀やって」
「言わせとけ」

矢口。高橋。吉澤。柴田。石黒と無造作に前へ歩み出す。
最後に、いつの間にか居た田中れいなが面倒臭そうに表へと顔を見せる。

「これで藤本を含め7人。それじゃあ早速、8人目の発表といく?」

誰に尋ねるでもなく、なっちが勝手に話を進めていく。
6人が現れた右のカーテンの反対、左のカーテンを指差しなっちは続けた。

94 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:35 ID:0ieD6Y28
「これから、あのカーテンの向こう側に8人目が登場するよ。
 なっちの推薦だからね〜。とびきり強いよ〜」

まるで子供を脅す様な言い口で、なっちはニコニコと微笑む。
安倍の後ろで藤本と辻が顔を見合わせる。

「おい辻、お前。誰か知ってるか?」
「教えてくれなかったのれす」
「私たちにまで内緒で、一体どんな奴を用意してやがったんだ?」
「さぁ〜」

出場選手も、報道関係も、なっちを除く会場中の全員が息を呑む中――カーテンが開く。

「吉澤さん」
「なんだ高橋」
「これは手ごわいよ」
「んん?」
「相手は透明人間やわ」
「んな訳あるか!」

カーテンの向こうには…誰もいなかった。
「どういうことだ?」という眼で全員が安倍なつみを睨む。
しかしなっちは少しも悪びれずまた微笑んだ。

「言ったでしょ。これからって」

95 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:36 ID:0ieD6Y28
するとなっちは隣にいた小さな娘のヒョイと持ち上げ、ツカツカと歩き始めた。
シャツの背中を掴まれた辻希美はまるで借りてきた猫の様にされるがまま、
なっちが手を離すとポトンと床に落とされた。

「え?え?え?え?」

落とされた場所はカーテンの向こう側であった。なっちが呟く。

「8人目の登場」

驚愕が会場中を包む。驚きの中カメラを回す報道陣達。
しかし一番驚いたのが辻希美本人であることは疑いない。

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

とがった八重歯を少しも隠さず大きな口を開けて、反応する辻希美。

「き、き、き、聞いてないのれす!」
「言ってないもん!」
「ションナ!」
「地上最強になりたいからなっちのトコ来たんでしょ?」
「う〜」
「なってきなよ」
「…なちみずるい」
「コラ、館長って呼べ」

96 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:36 ID:0ieD6Y28
8人目は辻希美。これでトーナメント出場者のメンバーが決まった。

「吉澤さん、あの子知ってる?」
「前にハロープロレスにいた奴だろ。テレビで見た顔だ」
「あぁ、思い出した!亜弥と試合してたあの子か!なんで夏美会館にいるんや?」
「さぁな。けど安倍なつみが推薦するくらいだ、油断はできねえよ」

吉澤と高橋以外の選手も新たな敵、辻希美を見定めていた。
ただ、ハロープロレスの石黒だけは興味なさ気に目を閉じている。
突然の出来事に辻は、胸を押さえて元の位置まで駆ける。
どうすればいいか困ってテレていると、藤本に背中をきつく叩かれた。

「シャッキとしろ!お前も夏美会館の代表だぜ」
「ミキティ…」
「呼び捨てすんな。行くぞ」
「へいっ!」

藤本美貴と辻希美が並び立つ6人の元へと歩み出す。
迎え撃つ6つの視線に向けて藤本は言い放った。

「最初に言っておく。お前たちの誰も、あそこへは辿り着けねえ」

あそこ――――藤本の親指の先は安倍なつみを差している。
最強には辿り着けない!

97 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:36 ID:0ieD6Y28
「上等!」

吉澤と高橋は同時に言い放った。矢口と柴田も無言でにらみ返す。
石黒はまだ無関心に目を閉じていた。田中はアクビを噛み潰していた。
そこに辻が元気に飛び込み、藤本が横に加わる。
ついにトーナメント出場者8名が並び立った。
高橋愛。吉澤ひとみ。矢口真里。柴田あゆみ。田中れいな。石黒彩。藤本美貴。辻希美。

「はいはい!本日のメインイベントいきますよ〜!抽選だぁ!」

闘志剥き出しの選手をよそに、なっちは着々と進行を進める。
前面の巨大なスクリーンボードにトーナメントが浮かび上がった。

「この箱の中に1から8の数字が入った球が入っているから順番に一個ずつ取って。
 それと、抽選の順番だけど、これの下位の子から順にするから。文句無いよね」

強引な司会なっちが手に持つのは、先日優勝予想アンケートを実施した某格闘技雑誌。
予想順位の低かった娘から順に抽選させようと言うのだ。
何の意味があるかはわからないが、あえて不平不満を言う選手はいなかった。

「順番なんかどうでもいいって。誰が相手でも投げ飛ばすだけだし〜」
「同感」

矢口のコメントに石黒が賛同する。
よって、なっちの提案どおりの順番で抽選は行なわれることとなった。

98 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:37 ID:0ieD6Y28
1.館長推薦者
2.田中れいな
3.高橋愛
4.矢口真里
5.柴田あゆみ
6.石黒彩
7.藤本美貴
8.吉澤ひとみ
優勝予想アンケートの下位から順にすると、こうなる。

「あっ!ののが一番だ!」
「わかったから、とっとと行け」

藤本にせっつかれて、辻はトコトコ前へ歩み出した。

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な〜?」
「どれでも一緒だ!早くしろ!」

藤本に野次られながら、辻が引いた数字は「2」
第一試合!「1」の球を引いた選手との対決ということになった。

「アーイ!ツージーの2なのれす!」
「…1だけは引かねえようにしねえとな」

冗談交じりに藤本が呟く。最初から夏美会館の潰しあいでは格好が付かない。

99 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:41 ID:0ieD6Y28
続いて田中れいなが前に出る。
ところが彼女は抽選の箱を素通りすると、一直線に安倍なつみの前にまで進んだ。
この謎多き最年少の選手になっちは優しく微笑みかける。

「なあに?」
「もうすぐ消える人ん顔、よく見ておこう思ったばい」
「あら、どういう意味かな〜?」
「そのままたい」

会場中に戦慄が走った。
あの安倍なつみにこんな無礼な口をきいた奴がかつていただろうか!?
ふと、田中は背中に殺気を感じて振り返った。
すぐ傍に辻と、その体を抱え込む藤本の姿があったのだ。

「気ぃつけろよ。私は出さねえがこいつは手を出すからな」
「心配なかと。うちも手は出さん。今はまだ…」

間近で睨みつける辻を尻目に、田中はプイッと抽選箱の方へ戻った。
安倍なつみはいつもの微笑を崩さずに言う。

「なかなかおもしろい子じゃない。ぜひののと闘らせたいけど…」

「1」を引けば即座に辻希美との対戦が決定する。
しかし田中が引いた数字は「7」。第四試合となったのであった。
無礼を詫びることもなく最年少の娘は元の位置へ戻っていった。

100 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:41 ID:0ieD6Y28
「おっし!待ってましたぁ!」

無言で下がった田中とは好対照に、大声をあげながら高橋愛が飛び出す。
小川直伝趣味の悪いドレスを振り乱し抽選箱へと腕を差し入れる。

「二ヒヒ〜相手は誰やろ?」

「1」を引けば辻。「8」を引けば田中。それ以外なら保留となるが…。
注目の中、愛が取り出した球に描かれた数字は?

「うげ〜、なんか縁起悪ぅ」

愛の手には「4」と描かれたボール。第二試合の出番となった。
トーナメント表に名前が記される度に会場中が興奮に沸く。
だが未だ対戦が決まったカードはない。
そろそろ出てもよさそうだが…と注目が高まる中、いよいよあの娘が前に出る。
オリンピック柔道金メダリスト。国民栄誉賞にまで選ばれた国民的英雄。
矢口真里だ。
誰が一回戦でこの柔道王と試合うのか?皆が固唾を呑んで見守った。
辻か…?田中か…?高橋か…?それともまだ保留となるか?
矢口の腕がボックスの中に入る。

「そう見つめんなって。おいら照れちゃうよ。誰でもいいじゃん」

冗談交じりで矢口は箱から球を一つ取り出した。その数字は――――!!

101 :名無し募集中。。。:04/02/07 22:26 ID:dvYAZi8A
更新終わりかな?
辻豆さん乙です
矢口の相手は誰になるのか楽しみです


102 :名無し募集中。。。.:04/02/07 23:37 ID:2l4IpU1n
いったんCMでーす。って感じな終わり方ですな。続きがきになるぅぅ!!

103 :ねぇ、名乗って:04/02/07 23:51 ID:fuFa1pHR
( ^▽^)<ドキドキ

104 :名無し募集中。。。 :04/02/08 00:19 ID:K1xEu77/
辻豆さんも見てたのね
『ミニモニ。でブレーメンの音楽隊』感想などなど
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1075597825/150
150 名前:辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU 投稿日:04/02/07 19:57 ID:0ieD6Y28
とりあえず2月のブレーメンは永久保存決定

全シーンよかったけど一番よかったシーンは
ミカのフォーク聴いてるとこ
ののは表情だけで演技できると再確認


105 :名無し募集中。。。:04/02/09 22:55 ID:cT3uIKE/
どきどき

106 :辻豆保全隊。。。:04/02/10 23:53 ID:pZUnRo60
||゚皿゚)‖<ツジマメホゼンタイ、ハイジョ、ホゼンホゼン

107 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:42 ID:D+YnbBQB
「きたっ!」と誰かが叫んだ。
矢口が手にした数字は「8」。矢口の視線が無愛想な少女と重なり合う。

『第4試合は田中れいな対矢口真里だ!!』

続いて壇上に上がるのは柴田あゆみ。
ここでもまた対戦カードが一つ決まる。柴田の引いた数字は「1」。

『第1試合も決まった!柴田あゆみ対辻希美だ!!』

ビクンと辻の体が反応した。柴田の視線と辻の視線が一瞬交わる。
物言わず壇上を降りる柴田に続き、石黒が前に出る。
残る枠は3つ。「3」なら第2試合。「5」か「6」なら第3試合だ。
愛は緊張しながら石黒の引く数字を待った。
まだ対戦相手が決まっていない。
残るはこの石黒、そして藤本と吉澤だけ。いずれも強敵ばかりだ。
そして石黒が引いた数字は――――――!!
「3」。

『第2試合は石黒彩対高橋愛に決まったー!!』

ここで、とんでもない事実に気付き、会場は騒然となる。
残る数字は「5」と「6」のみ。いずれも第3試合。
つまり必然的に最後の組み合わせも決定してしまうということ。
しかもその残る二人というのが…。

108 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:42 ID:D+YnbBQB
藤本は微笑を浮かべたまま箱の中から残りのボールを取る。数字は「5」。
「ほらよ」と最後の一つも取り吉澤に投げた。吉澤が受け取った数字はもちろん「6」。

『これはとんでもないことになりましたっ!!第3試合は藤本美貴対吉澤ひとみ!!』

まさかこの対戦をいきなり眼にすることができようとは!?
なんと一回戦で優勝候補最有力の二人が激突することになったのだ!
藤本美貴と吉澤ひとみ、格闘技の産み落とし二人の天才がついにその拳を交えることに!

藤本の視線が吉澤を捕える。
吉澤の視線が藤本を捕える。

「いいねぇ〜うらやましいべさ」

抽選の行方を見守っていたなっちもニコニコと喜ぶ。
こうしてトーナメント全対戦カードが決定した。

第1試合 柴田あゆみ(フリー)vs 辻希美(夏美会館空手)
第2試合 石黒彩(ハロープロレス)vs 高橋愛(高橋流柔術)
第3試合 藤本美貴(夏美会館空手)vs 吉澤ひとみ(UFAボクシング)
第4試合 田中れいな(八極拳)vs 矢口真里(講道館柔道)

109 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:43 ID:D+YnbBQB
抽選会は終わった。
ヒト気のなくなった通路を、愛は石黒を探して走り回った。
亜弥の様子を聞こうと思っていたのだ。てっきりこの大会に出ると思っていたし。
しかし一向に見当たらない。どうやらもう帰ってしまった様だ。
結局、この日は一度も会話を交わすことができなかった。
(久しぶりに亜弥の様子、聞こうと思ったんだけどな…)

一方選手控え室では、帰り際の吉澤を藤本が呼び止めていた。

「最高の組み合わせだ。吉澤ひとみ」
「1回戦で負けるのにか?」
「お前ならトコトンつきあってくれるだろう?」

藤本は拳を突き上げ、吉澤の顔の前で止めてみせた。
吉澤は表情一つ変えず藤本を睨みつける。

「まあね」
「柄にも無くワクワクしてるんだよ。久しぶりに本気で闘れそうだから」
「その言葉、そのまま返してもいい」

二人の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。

「どっちでもいいけどさ〜。なるべく潰し合いはよしてよねぇ〜。
 おいらの楽しみがひとつ減っちゃうからさぁ〜」

110 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:56 ID:D+YnbBQB
矢口真里!二匹の野獣の間に小さな巨人が割り込む。
藤本と吉澤の視線が同時に動いた。

「ご心配なく。潰れる前に倒しますんで。藤本も、あんたも」
「吉澤ひとみに矢口真里。あ〜豪華な食事になりそうだ。待ちきれないよ」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜どっちでもいいって。どうせおいらが勝つんだしぃ〜」

三人の猛者がにらみ合う。そこへ場違いな声が飛んだ。

「嫌たいね〜。年増のひがみ合い…」

ギン!
三人の強烈な視線が、部屋の隅で肩肘つく少女に飛んだ。

「アララ、聞こえとー?悪か悪か」

田中れいなは少しも悪びれず、そそくさとその場を逃げ出した。
廊下を出た所で、キョロキョロしながら駆けていた愛とぶつかってしまう。

「おっと!」
「あ、ごめんなさい!私、余所見してて」
「いや平気たい。それより、あんたが闇の武術の高橋さん?」
「え、ええ?」
「ふぅ〜ん。意外と普通たい」
「??」

111 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:57 ID:D+YnbBQB
それだけ言い残し田中れいなは去っていった。
(何だろあの子?)
振り返りまた前へ進もうとしたそのときだ。
愛は今まで感じたこともない程、異質な闇の波動をその背に受ける。

「なっ…!」

愛が振り返ると、そこにはもう誰の姿もなかった。

「今の…あの娘?…まさか、ね」


対戦相手の決まった8人はそれぞれトレーニングの仕上げに入る。
全員が大会当日に最高のコンディションになる様、完璧な調整を行なっていた。
このまま何事も無くトーナメントは行なわれると思われた。
大会前日。
ところがこの日、8人の内の1人に予期せぬ事件が降りかかる。
あまりにも悲しく…残酷な…事件が。

第13話「抽選会」終わり

112 :名無し募集中。。。.:04/02/11 02:43 ID:xutUPn5o
更新乙です!!毎回毎回ひっぱりかたが上手いですね〜。

113 :名無し募集中。。。. :04/02/11 04:22 ID:w4ihcoN3
石黒・・・死んだな

114 :名無し募集中。。。:04/02/11 09:27 ID:vTclAEis
辻豆さん乙です
>>112さんも言ってますけど引っ張り方がうまいです
毎日パソコンつけたら確認しに来てます
これからも頑張ってください

115 :名無し募集中。。。:04/02/11 10:13 ID:1RlYgPRq
石黒・・・

116 :名無し募集中。。。:04/02/11 15:19 ID:KZMRDlke
クロエ・・・

117 :名無し募集中。。。:04/02/11 15:30 ID:TOf0UXRS
        ┌─ 柴田あゆみ
    ┌─┤
    |  └─ 辻希美
┌─┤
│  |  ┌─ 石黒彩
│  └─┤
│      └─ 高橋愛

│      ┌─ 藤本美貴
│  ┌─┤
│  |  └─ 吉澤ひとみ
└─┤
    │  ┌─ 田中れいな
    └─┤
        └─ 矢口真里

118 :名無し募集中。。。:04/02/11 23:03 ID:yaRD/3Za
石黒って毎回出る前にやられてきたよな

119 :名無し募集中。。。:04/02/12 00:04 ID:QTDDyCXQ
石黒だとあたりまえすぎるんで、ここは田中とかやられちゃってたら意外性あって・・・

120 :名無し募集中。。。:04/02/12 00:20 ID:wtUFY4HX
いや、ヤグに変わってあいぼんさんで

121 :名無し募集中。。。:04/02/12 00:27 ID:64lMWYpc
ネタ潰し?(w
辻豆さん乙です

122 :名無し募集中。。。:04/02/12 05:42 ID:utuRyWNv
いいところでとめると
どうしてもネタつぶしがでてくるなw

テレビドラマとかじゃないから
そんなにいいところで「続く」にしなくても
読者はちゃんとついていくけどね

123 :名無し募集中。。。:04/02/14 00:23 ID:oaD/cgzk
なぜみんな石黒だと思うのだろう


124 :名無し募集中。。。.:04/02/14 01:51 ID:H+nv2duc
一人だけ組織のナンバー2だから

125 :名無し募集中。。。:04/02/14 02:48 ID:/8I1DG5p
この大会 空手は優勝できるのか

126 :ねぇ、名乗って:04/02/14 03:39 ID:2Xzhndvl
確か最初の頃

藤本は後に
紺野&高橋&加護&松浦の内の1人と
激闘を繰り広げる
と書いてたので

このトーナメントにいる高橋で確定ランプ(しかも高橋vs藤本のファイナルのカードまでのおまけつき)がついたとおもったのだが…


悪魔に目覚めた松浦か?
それとも隻腕の加護か?
何も進展のない紺野か?

相手は
作者さんの傾向から
辻&柴田&高橋&吉澤&田中&藤本は残す
と勝手に判断

残るは矢口&石黒か?

まさかこの期に及んで新キャラ?
残るハロメンは亀井&道重…ん?アヤカが残ってる?

後藤はどこで使うのだろうかまだ見えてこないし…
ますます楽しみなお話を期待してます。



127 :名無し募集中。。。.:04/02/14 13:55 ID:H+nv2duc
かませ犬は強いほどインパクトがあるからなあ。バキのガーレンみたいに。
仮に藤本がやられたら、皆ビックリすると思うし。
まあ、俺は柴田だと思ってるんだが。

128 :名無し募集中。。。:04/02/14 15:46 ID:lcm37TnK
うーん。なんか辻と藤本早く消えそう

129 :名無し募集中。。。:04/02/14 15:59 ID:eKF4caGc
無粋な予想はよそうぜ

130 :名無し募集中。。。:04/02/14 17:34 ID:p7PRwiY7
>>129 ……

131 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:21 ID:cNTuPt+j
第14話「来ないで」

まるで寝付けない。
(あいぼんも…見てくれたかなぁ)
地上最強へのトーナメント出場が決定した晩、辻希美は言い知れぬ不安に襲われた。
消息を絶った加護の最強を証明する為に負ける訳にはいかない。
だがそれには、あの出場メンバーの顔ぶれはあまりに手強すぎた。
辻はベットを抜け出すと、夜の道を道場へと走った。

バゴォン!バゴォン!

不安をかき消す様にサンドバックを叩く。
何回も…何回も…。
パンチが当たる度にサンドバックは大きく揺れ動く。
だが不安は一向に解消されない。自分だけがひどく矮小な存在に思えてならなかった。
他の出場選手は皆、何らかの栄光や結果を残して選ばれた人ばかりだ。
自分だけが何一つもっていない。

「本当に勝てるのかなぁ…」

サンドバックに額を打ち付けてつぶやいた。そのとき背後から微かな気配を感じとる。

「ののでも悩むんだねぇ」
「なちみ!」
「館長でしょ」

132 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:22 ID:cNTuPt+j
安倍なつみだった。
突然の登場に辻は大きな口をあんぐり開けてうろたえる。

「どうして…ここに?」
「深夜の秘密特訓でもしよっかなって思ったら、先客で君がいただけ」

そうだ。普段、安倍なつみのトレーニングを目にすることは少ない。
彼女は別格で練習しなくても強いのだと誤解していた。
いつも人知れず、こんな夜中まで特訓していたとは少しも知らなかった。

「のの、うちに来て約2ヶ月…少しは空手覚えた?」
「うぅぅ…型とか技とか結構むずかしくってまだあんまり…」
「積み重ねが大事だしね。とりわけ、ののは覚えが悪そうだし」
「どうせののは頭悪いのれす…」
「そんな辻希美でもすぐできる空手を一つ、教えてあげよっか?」
「へ、へい!」

安倍は辻の右手を持つと、指一本ずつ正確に折りたたんでゆく。
そこに「正拳」がひとつ完成した。

「これを全力で相手に打ち込む。それだけでいい」
「詐欺なのれす」
「わかってないね。ののは確かにパワーはある。多分なっちより、誰よりも。
 でもそれを活かしきれてないの。ただ力まかせにブンブン振り回しているだけ。
 今まではそれで良かったかもしれないけど、さらに上を目指すならそれじゃ勝てない」

133 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:23 ID:cNTuPt+j
言い終わると安倍は、自らの正拳を目にも止まらぬ速さでサンドバックに叩き込んだ。
信じられない事が起こる。サンドバックは揺れず、中央に拳大の穴が開いたのだ。
中から零れ落ちる砂を見つめながら、辻はポカンと固まった。

「こんな風に、拡散する力を一点に集中させる訳。
ただ力任せに殴るのとは速度も威力も格段に違う」
「やっぱりなちみは凄い…」
「ちなみに、美貴もこれができる」

最後の台詞が辻の闘志に火をつけた。

「ののも練習する!なちみやミキティには負けたくない!」
「バカね。言ったでしょ積み重ねって。なっちや美貴でもこれができる様になるまで
3年はかかったんだから。ののはとりあえず形だけでも覚え…」
「大会までに!二週間でやる!」

辻の瞳が燃えていた。
正直無理だろうけど、それでも辻の不安を取り除くことにはなる。

「ま、がんばんな」
「へい!」

辻は正拳を作ると別のサンドバックに打ち込み始めた。
微笑みながら、不器用な拳の音がこだまする深夜の道場をなっちは後にした。

134 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:28 ID:cNTuPt+j
抽選会の後、高橋愛は再び紺野あさ美と共に山に籠もった。

「やっぱり強い奴との実践が一番の修行やの」
「そうね。どうだった、実際に対戦相手を目の当たりにして」
「どいつもこいつも本気で強ぇえなって思った」
「そう」
「…でも、届かないとは思わんかったわ」

愛がニィっと笑うと、紺野は自分の拳を手近な木の幹に叩き込んだ。
穴が開く…とまではいかないが、幹が拳大で凹んだ。
紺野あさ美の「正拳」は完成に近づきつつある。

「おぉ!凄っ!」
「この山篭りで私も強くなった。多分、自分が思う以上に…」
「そやの」
「そんな私と一日中闘えているんだ。愛、尊敬するよ」
「いまいち誰を褒めてるんかわからんの」

二人は、食事と睡眠以外のほとんどの時間を実践に当てた。
天才柔術家高橋愛との闘いの日々が確実に紺野あさ美を進化させていった。
その進化する空手家紺野あさ美との闘いの日々が高橋愛を進化させた!
この相乗効果が二人のレベルを限りなく押し上げていたのだ。

135 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:29 ID:cNTuPt+j
「言っておくよ。反対のブロックは間違いなく藤本さんが上がってくる」
「なんで分かるの?吉澤さんや矢口さんもいるんやよ」
「館長が選んだ人だからよ。あの人は本当に強い!」
「紺ちゃんがそこまで言うなら、よっぽどなんやの」
「ええ…」
「いいんか。倒しちゃっても?」
「え?」
「私が夏美会館を倒しちゃってもええんか?」

愛の問いかけに紺野はしばらく動きを止めた。そして言った。

「私が愛に負けた試合、何処に差があるのかって考えたんだんだ。そしてわかった。
 私は館長を目指していた。愛は館長を倒そうとしていた。その差だと思う」
「うん、よう分からん」
「だから私も変わる。館長を目指すんじゃなくて、いずれ超えるんだって」
「安倍なつみと闘うの?」
「仮に今度の大会、夏美会館以外の人が優勝したら、私は夏美会館の為にその人を倒す。
 そして館長に挑む。最強を掛けて!」
「優勝が私でもか?」
「もちろん。だから夏美会館を倒せるものなら倒してみろ!」

実に久しぶりに紺野の顔に笑みが浮かぶ。
紺野の決意を聞いた愛も、喜んで言い返したのであった。

「おーし!私が大会優勝して!もう一度紺ちゃん倒して!安倍なつみも倒してやるわ!」

136 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:30 ID:cNTuPt+j
1週間が過ぎる。
出場選手はそれぞれの方法で最後のトーレーニングに入る。
矢口真里もまた講道館をあげての最終調整段階へと入っていた。
1回戦の相手田中れいなを想定し、八極拳の名士を呼んでの模擬戦。
さらに次を見据えて、空手家やボクサーとの模擬戦。
だが誰一人として「倒れない女」矢口真里を倒すことはできない。
格闘家矢口真里のコンディションは最高潮にまで達していた。

(いける。オリンピック前より遥かに調子がいい。まるで負ける気がしねえ)
稽古後の帰り道、矢口は自分の体を確かめ、気を高ぶらせていた。
超有名人の矢口はいつもひと気のない道を選んで帰る。この夜もそうだった。
(ん?)
いつもは人っ子一人いない道に、中学生くらいの少女が立っていた。
少女は矢口を認めると小走りに近寄ってきた。
(なんだぁこんな時間に?もしかしておいらのファンの子?)

「かわいい?」
「ハァ〜?」

その見知らぬ少女は自分を指差して、いきなりこう尋ねてきたのだ。
矢口が呆れて聞き返すのも無理はない。にも関わらず、少女はまた問いかけてきた。
冗談でもふざけてる訳でもなさそうなその瞳に、矢口は不気味なものを感じる。

「ねぇ、私ってかわいい?」

137 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:30 ID:cNTuPt+j
>>118
石黒…「モームス最大トーナメント」のイメージが強いのかなぁ。
今回はまともな役なのに。高橋とも第一話以来の絡みもあるし。

>>122
こういう締め方はもう趣味みたいなもので…
今回もまたやっちゃいました。

>>126
「藤本vs4人の誰か」結構重要な伏線です。
もう誰も覚えてないだろうなと思ってました。ふってくれてありがとです。
そして、この期におよんで新キャラ出してしまいました。
(まだ名前は出してないけど…わかるだろうなー)

>>127
今まで一番インパクトを受けたかませ犬は愚地克己

>>129
・・・・・・

138 :ただすん:04/02/14 21:51 ID:4EBfC6yA
たぶん道重キタ━(゚∀゚)━!!


(゚-ン。oO(キタイノエリリンハマダカナ…)

139 :名無し募集中。。。:04/02/14 22:11 ID:IwRpk7mk
辻豆さん乙です
もしや田中と残りの6期のどっちかが
戦うことになるのかな?
マジ楽しみです

140 :名無し募集中。。。:04/02/14 23:03 ID:oaD/cgzk
私ってかわいいキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


141 :名無し募集中。。。:04/02/15 01:43 ID:94cX2S5a
辻豆さん乙です
このままいくと矢口が・・・

142 :名無し募集中。。。:04/02/15 12:39 ID:Jia1n9uy
ヤグ・・・・

143 :名無し募集中。。。:04/02/15 22:37 ID:hiE7VJYj
悲しく、残酷な事件…

( ^▽^)<ドキドキ

144 :辻豆保全隊。。。:04/02/15 23:48 ID:7ZzLhLR0
辻豆さん更新乙です!
さゆキタ━━(゚∀゚)━━━!!
ヤグーチ!

145 :名無し募集中。。。:04/02/15 23:50 ID:MWPsm4Vd
(* ^▽^)<ワクワク♪

146 :ななしんぼ:04/02/15 23:50 ID:ImfeDRqD
今回のタイトルが気になるな

誰が誰に対して使うのか

147 :名無し募集中。。。.:04/02/16 00:33 ID:hBkJbaJG
ただ一番ひっかかるのは石川なワケで。

148 :名無し募集中。。。:04/02/16 18:12 ID:4XwhC8h1
夏美会館禿げしくイイ!!
館長サイコーっす

149 :名無し募集中。。。:04/02/16 19:31 ID:L3MI3W4x
なっち館長イイ!

150 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/17 00:27 ID:aeFTx6K7
「なんか知んないけど、ファンの子じゃないんなら、そこどいてくれる」

相手にしない方がいいと判断、矢口は手で少女を追い払った。
少女はプ〜ッとほっぺを膨らませてむくれる。

「かわいいっかって聴いてるの!」
「やれやれ、そんなに答えて欲しいんなら言ってやるよ」

ポリポリと頭を掻きながら、矢口は面倒くさそうに振り返って言った。

「おいらの方がかわいい、以上!」

ニィっと笑って、そのまま矢口はダッシュで走り去ってしまった。
完全に虚をつかれた形で、少女はその場に取り残された。
ほっぺを膨らませたまま少女は呟いた。

「ムカつく」

151 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/17 00:28 ID:aeFTx6K7
「さゆ、あんた昨日の夜どこ行ってたと!」
「れいなの対戦相手を見に」

ガツンと頭突きをくらい、少女は頭を抱えてしゃがみこんだ。

「ひどいよ〜れいな」
「まさか手ぇ出してなかとね?うちの獲物たいよ」
「出さないもん!私はれいなやえりと違って凶暴じゃないから」

ガツン!また頭突きをもらって少女はしゃがみ込んだ。
ここは人里離れた修練場。田中れいなが武術を学び育った場所である。
しゃがんで泣きまねをしている少女の名は道重さゆみ。
田中れいなと共に武術を学んできた少女である。
今は、田中に黙って矢口真里を見に行ったことで怒られている所だ。

「誰が凶暴ばい。うちから見たらあんたの方がよっぽど危なかよ」
「そんなことないもん」

ポンッと立ち上がると、道重はごく普通の表情で危ない発言を口にした。

「れいな。あの矢口って人ギタギタに潰しちゃっていいよ。私あの人嫌い」
「そげんこつ知らなか。それよりさゆ、大会のこと何処で聞いた?」
「師匠がれいなに話してるの聞こえちゃった」
「やっぱり盗み聞きか」
「テヘ」

152 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/17 00:29 ID:aeFTx6K7
「テヘじゃなか!あんたまさか、えりには言っとらんたいね?」
「ううん」
「えりに知れたらメチャクチャになるばい。言ったら殴るけん」
「言わないよ。その代わり大会の日、私も見に行っていい?」
「…師匠に聞けば?」
「そうする」

道重さゆみはトコトコと師匠のいる建物に向けて走っていった。
切れ長の目をした女―――師匠は条件付きで道重の頼みを了解した。
「何があっても決して手を出さないこと」

「大丈夫。さゆは大人しくていい子だから」

快諾すると道重はルンルンとスキップで戻っていった。
(もう少しの辛抱だよ。ククク…)
師匠と呼ばれる女は、切れ長の目をさらに細めて微笑んだ。
視線の先には一人の女性を映した写真がある。写真は幾数もの傷で切り刻まれている。

「もう少しでお前の時代が終わる」

長く尖った爪で、写真の女の首筋に新たな傷を刻み込む。
写真の女性は安倍なつみであった。

「この私が…保田圭が、終わらせる!」

153 :名無し募集中。。。.:04/02/17 01:11 ID:o/mbwH3G
更新乙です!!
六期いいですねー!そしてよーやく、よーやく彼女が登場しました!
名前だけですが・・・。



ノノ*^ー^)<んー?

154 :ただすん:04/02/17 02:45 ID:Buyo9Ftk
『ジブンのみち』をコツコツ印刷していましたが……本日、その印刷総枚数がなんと200枚突破致しました!

ちなみにモームス最大トーナメントは約190枚でした。(どちらも学校で印刷してるので私のフトコロはまったく痛みませんw)


以上、特に意味はない報告でした。よい子は真似しちゃダメだよ(・∀・)

155 :名無し募集中。。。.:04/02/17 13:00 ID:Ck0zoVQs
へえ〜!?
もう、そんなに続いてるのか。まだようやく開催したばかりだというのに。
ちなみに、モームス最大トーナメントの俺的ベストバウトは「藤本vs石川吉澤」。
藤本と吉澤は、つくづく縁があるな。

156 :ねぇ、名乗って:04/02/18 16:22 ID:leCuhAhX
“狂気の満月(フルム-ン)”
藤本美貴のファイトを早く見たいです。

まさヲロチ克己なんて…

157 :名無し募集中。。。:04/02/20 19:17 ID:1X37RJep


158 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:26 ID:vyl5ZnDp
そして大会前日。
吉澤ひとみは市井紗耶香の家を訪れていた。
待ち望んだニュースが海外から飛び込んで来たからである。

「Maki Goto won the victory in overwhelming ability」
「へぇ、結構きえいに英語しゃべれんだ」
「あの〜、私ずっとアメリカ暮らしだったこと忘れてんすか?」
「そうだった」
「ったく」
「…にしても、いよいよだな」

吉澤が頷く。
市井が手元のマウスを動かすたび、吉澤はピリピリとした感触に遭遇する。
ネットで海外のホームページを検索して手に入れた。
ブラジルで開かれた柔術のトーナメント速報。「後藤真希が圧倒的な実力で優勝した」
ピリピリした。
まるで肌が焼け付く様であった。
英語で記されたその文章を目にするだけで、たまらなく熱い。

「今や世界の格闘技の最高峰はブラジル柔術にある」

愛用のPCに目をやったまま、市井が言った。
その頂点に後藤真希が立った――と言いたいのだ。
吉澤は思わず唾を飲み込んだ。

159 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:27 ID:vyl5ZnDp
「いったい、どのくらい強ぇんだろうな」
「この日本格闘議界の、勢力構図が一変するくらいだろう」
「簡単に言いますね」
「真希は大会が終わり次第、すぐに日本に戻ると言ってた」
「…ってことは?」
「明後日か?早ければ明日の夜にも…」

明日の夜には…後藤真希がこの日本の地に降り立つ!
熱が炎になって燃え上がる様であった。

「明日の大会が…ちょうど終わる頃ですかね?」
「吉澤」
「はい?」
「最低でも…優勝だぞ。それが後藤真希へのボーダーラインだ」

誇張でも冗談でもない。市井の顔はいたって冷静である。
燃え上がる炎を内に収束しつつ、吉澤は笑みでそれに答えた。

「帰ります。家で梨華ちゃんがうまい飯作って待ってる」
「ああ。たらふく食ってよく休んどけ。明日は私も応援に行く」
「はいっ」

とびきりの笑顔で、吉澤は市井の家を後にした。

160 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:27 ID:vyl5ZnDp
窓の下には淡い街の光が広がる。
高級ホテル、その最上階にあるバー。

「美貴と二人で、こういう所来るの。初めてだっけ?」
「あんたが酒飲めねえからだろ」
「美貴が強すぎるのよ」

バーボンを氷で割ったものを藤本はグイッと飲み干した。

「同じもの」

無表情なバーテンに空のグラスを差し出す。
もう6杯目だ。安倍はまだ1杯目が半分以上残っている。

「大会は明日よ。あんまり飲みすぎちゃ…」
「明日だから飲むんだ。酔いたいんだよ」
「どうして?」
「吉澤ひとみのせいさ。楽しみで、気が狂いそうになる」
「へぇ」
「それと、安倍なつみのせいだ」
「あら、なっちも?」
「ようやく明日、あんたに辿り着くとかと思うと…」
「フフ…」

出てきたグラスを、藤本はまたグイッと喉に流し込んだ。

161 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:37 ID:vyl5ZnDp
「もう何年になるかなぁ」
「何が?」
「美貴が夏美会館に入門してさ」
「3年半だ」
「そんなになるか。いやぁ…なつかしい」
「フン」
「創設以来、何万人という入門者を迎えたけどさ。今だに美貴だけだよ」
「…」
「入門初日に、なっちに殴りかかってきた奴はね」
「…フフン」
「あの日、なっちは確信したんだ。夏美会館は地上最強になるってね」

酒が入っているせいか。安倍がいつになく饒舌だ。
新たなグラスも飲み干した藤本は、微笑を浮かべたまま窓の外に目をやった。
満月が夜空に浮かんでいた。

「美貴は満月みたいだね」
「どうして?」
「なっちが太陽だから」
「ケッ!自分で言うな」

しかし“満月”という呼称が確かに合っている気もした。
太陽に様に熱く燃え輝き続ける存在ではない。
淡い美しさの中にどこか狂気を秘めた、闇に浮かぶ満月。

162 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:38 ID:vyl5ZnDp
「じゃあ、さしずめあのガキはスッポンってとこか」

藤本がスッポンと例えたのは辻のことだ。
太陽と月とスッポン…というジョークである。

「アハハ…ひどいわよ。美貴」
「笑ってんじゃん。スッポンは今日誘わなかったのか?」
「あの子はまだ未成年でしょ」
「もう19だろ」
「どっちみち入れてもらえないわ。どう見てもお子様じゃん」
「あんたも人のこと言えねえけど」
「美貴!」
「可哀想だし、呼んでやっか」

藤本は携帯を取り出すと、ピピッと辻のアパートに電話をかけた。
『はい、こちらミニモニ留守番電話サービスセンターなのれす』と音声。

「留守だ。大会前に遊びに出てんのか?」
「まさか…まだ道場だったりして」
「そういえば、この2週間あいつずっと道場にいたらしいじゃん」

沈黙が流れる。
安倍と藤本に共通の想像が浮かぶ。二人は同時に席を立った。

「はっぱ、かけすぎたかな?」

163 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:39 ID:vyl5ZnDp
大会前日のこんな夜遅くだというのに、道場には明かりが付いていた。

「やっぱり」
「世話のかかるガキだ」
「なっちがあんなこと言ったから…」
「とにかく行こうぜ」

藤本が道場の扉を開いた。
その中の光景に藤本、そして安倍の表情も変わる。
床にうつ伏せで辻は寝息を立てていた。
注目すべきはその手前、拳大の穴が開いたサンドバックの残骸が吊るされていたのだ。
(まさか、あの子…本当に正拳を)

「こいつ、本気で2週間、サンドバック叩き続けてたのか?」

藤本がしゃがんで辻の寝顔を覗き込む。
精も根も尽き果てた…だが満足気な表情の寝顔であった。

「…美貴」
「ん?」
「なっちは今、3年半ぶりに改めて確信したよ。夏美空手は地上最強だ」
「…ああ」
「明日、スッポンが奇跡を起こすかもしれないべさ」

164 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:39 ID:vyl5ZnDp
>>153
今6期が書いていて楽しい。
実は「僕とえり」の方でもう結構書いているんだけど。

>>154
もう、そんなに書いたのか。まだトーナメントも始まってないのに。
登場人物ひとりひとりに焦点当てると、やっぱりこうなっちゃうんですかね。

>>155
「藤本vs石川吉澤」
あの闘いは作者もお気に入りです。藤本のキャラが良かった。

>>156
“狂気の満月(フルム-ン)”
かっこいいんで使わせて頂きました。

165 :名無し募集中。。。:04/02/21 22:58 ID:v1AqsH3Z
辻豆さん乙です。
すっぽんは月や太陽を超えることができるのか
すごい楽しみです

166 :名無し募集中。。。:04/02/22 12:40 ID:S4crnmsU
すっぽんすっぽん
楽しみに待ってます。

167 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:41 ID:h+te92nV
「よっしー、おそいなぁ」

何度も確かめた、時計の針は午後7時を回っている。
「勝負にカツ」と寒い願いを込めて作ったトンカツが、冷えかけている。
石川梨華は部屋に一人、ため息をおとした。
(市井さんの所、千葉だし…遅くても仕方ないよね)
自分自身に言い聞かせる。
そして、はりきって造りすぎた料理の数々を眺めまわす。
(ウフフ。このご馳走見たら、どんな顔するだろ)
幸せだった。
石川は今、幸せだった。
吉澤と共に暮らし、彼女を応援するだけの生活が。
(うん、悪くない…)

コンコン…

そのノックの音は唐突だった。
最初はよっしぃーが帰ってきたんだと思った。
立ち上がって、扉に駆け寄る。
ドアノブが静かに回る。

「よっしぃー!おかえ…」

石川の顔に張り付いていた笑みが、次の瞬間、消えた。

168 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:42 ID:h+te92nV
異質な男だった。
スーツも、ズボンも、靴も、顔つきも、金髪の髪も、その存在自体が異質であった。
この平穏でありふれた日常の中に、ひどく似つかわしくない男だった。
その男がズカズカと部屋に入り込んできた。

「あ、あ、あ、あ…」
「えろうひさしぶりやのぅ」

男の口から出た関西弁、それさえも異質であった。
石川は小刻みに震えていた。それは尋常な怯え方では無かった。

「お、上手そうなトンカツや無いか。どら、一個もろた」
「あ、あ…」

よっしーの為に作ったトンカツ…。
それさえも言葉にはならなかった。
男は、勝手に部屋に上がり込むと、テーブルのおかずを勝手に物色しだした。
トンカツを口に含むと、勝手に眉をしかめる。

「イマイチ…いやぁイマサンってとこやのぅ」
「…どうして、ここに?」

ようやく石川が吐き出した言葉が、それであった。
男は口端を持ち上げ、嫌な笑みを浮かべる。

169 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:42 ID:h+te92nV
「どうしてやあらへんがな。俺が梨華をほっとく訳ないやろ」
「寺田さん…私は…もう」
「そや、俺は寺田や。そしてお前は石川梨華や。よもや忘れたとは言わさへんで」

寺田と名乗る異質な男は、馴れ馴れしく石川の肩を抱き寄せた。
石川はどうしようもないくらい震えていた。

「今の生活、楽しいんか?」
「…はい」
「幸せですか?」

目にいっぱいの涙を溜めて、石川は大きく頷いた。
すると寺田は石川の肩に腕を掻けたまま、アハハハと笑い転げた。
大粒の涙が、石川の目から今にも溢れ出そうになる。
耳元に触れるくらいの距離で、寺田は囁き変えた。

「忘れたんか?お前は、一生、幸せになったらあかん女やろ」

涙が石川の頬を伝い落ちた。
掻き消えそうな声で、石川は言った。
「…忘れてません」と。

寺田は、憎らしい笑みを浮かべると、石川の腕をとった。

「よっしゃ!ほな、行くで」

170 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:43 ID:h+te92nV
玄関の向こうには黒塗りの高級車が止まっていた。
運転席に黒いスーツの男。そして助手席には世にも美しい女性が座っていた。
石川はその美女を知っている。美女は車を出ると、後部座席の扉を開けた。

「どうぞ」
「ほら梨華。乗りいや」

寺田に背中を押され、石川は思わず前につんのめる。
ズンと、重いナニカが背中に圧し掛かった。
(この重圧…私はまた…またあの生活に…)
後ろを振り返ると、吉澤と共に過ごした家が見える。想い出の数々が蘇る。
たまらなくなり石川の頬にまた、涙が落ちる。
それを見た寺田が嬉々として言う。

「なんや?吉澤ひとみが恋しいんか?」

寒気が走った。何よりもこの男の口からよっしぃーの名が出たことに。

「なんなら、吉澤も連れてきたろか」
「ダメ!それだけは…それだけはやめて!お願い!」
「おい」

寺田は美女を呼び寄せ、ナニカを耳打ちした。美女は首だけで返事する。

「ダメ!連れてきちゃダメ!よっしぃー!来ないで!」

171 :名無し募集中。。。:04/02/22 23:06 ID:S4crnmsU
うあおおおお 更新来てた!
美女?誰でしょうか?気になるう

172 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:09 ID:0g1vNJK2
(ちぃっと遅くなったかな?梨華ちゃん、怒ってるかも)
駅から続く商店街の道を、吉澤ひとみは大きな紙袋を抱えてニヤニヤと闊歩していた。
(でも、これ見たら喜んでくれるだろ?)
紙袋の中には、白いブラウスといっぱいの幸せが詰まっている。

「明日はこれ着て応援に来て、…なんてね」

髪を掻き、どうにもだらしない笑みをこぼす。
とてもボクシング世界チャンピオンには見えやしない。
商店街をこえて住宅街に入ると、もう家はすぐそこだ。
吉澤はいつもの調子で、いつもの様に、いつもの家の扉を開けた。

「たっだいまぁー!遅くなってごめん!いやー腹減っ…」

吉澤は一瞬、家を間違えたのかと思った。
見たこともない美女が居間に立っていたから。
(梨華ちゃん)(違う)(知らない人)(知らない家?)(いや…ウチだよ)
混乱する吉澤を尻目に、美女は懐からナニカを取り出してテーブルに載せた。
札束であった。

「これはマスターから。お世話になった分だそうです」
「ハァー?お世話?」
「ええ、石川梨華さんが、こちらでお世話になりましたから」

吉澤の目つきが変えるには、十分な台詞であった。

173 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:10 ID:0g1vNJK2
「梨華ちゃんは…何処だ?」
「マスターの元に帰りました。ですから、これは、そう…」
「…」
「手切れ金」

美女が妖艶な笑みを浮かべる。
手にしていた紙袋が落ちると同時に、吉澤は前に飛び出ていた。
空を裂く様なジャブが、妖艶な美女の顔面スレスレにて止まる。
美女は表情ひとつ変えることなく、言った。

「噂以上ですね。反応できませんでした」
「何者だお前。金なんかいらねえよ。とっとと梨華ちゃんを返せ」
「それは無理な相談…と言いたい所ですが」
「いいから。私が本気でブチぎれる前に、言う通りにしろ」

押し殺した声で囁く吉澤。美女の顔から笑みが消える。

「たいした殺気だ。私では、とうていあなたには太刀打ちできないでしょう」
「…早く」
「賢明な判断を。私を殴れば、永遠に石川梨華は戻らないでしょう」
「…!」
「ウフフ」

美女はツッと後ろに下がると、玄関の方へ歩き出した。
吉澤はずっと彼女を睨み続けたまま目を離さない。

174 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:11 ID:0g1vNJK2
「あなたに許された選択は二つ。
石川梨華のことは忘れ、表社会で今の輝かしい栄光と共に生きてゆくか?
石川梨華を追って、栄光も命の保証すらもない裏の世界へと飛び込むか?」

玄関を背に、美女は再び妖艶な笑みを浮かべ問うた。

「メロンを知っていますわよね。マスターに依頼されて石川さんを攫った」
「全部お前らの仕業だったのか」
「あれは裏社会のほんの表面に過ぎない存在。一緒にしてもらっては困ります」
「…」
「さぁ、どうします?吉澤ひとみさん」

吉澤は立ち尽くした。
色々なことが、頭の中を駆け巡った。
ボクシングで手に入れた栄光のこと…
日本一を掛けた明日の大会のこと…
対戦相手の藤本美貴のこと…
頂点に立つ安倍なつみのこと…
そして、帰ってくるごっちんのこと…
これまでの人生のすべてを…

(すべてを…私は…捨て…)

「そうそういい忘れてました。石川さんからあなたへの伝言」

175 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:11 ID:0g1vNJK2
妖艶な美女の言葉で、吉澤はハッと顔を上げる。
梨華ちゃんからの伝言…

「『来ないで』…だそうです」

まるで殺気の消えた、赤子のような顔で吉澤は動きを止めた。
(バカ、大バカ…私は何を迷っている)
自分の両の手を見た。
(何のために鍛えた手だ。栄光を掴む…じゃないだろう)
(梨華ちゃんはきっとたった一人で、苦しんでいる、泣いているんだ)
(誰かを守るための…手だろ)
二つの拳を強く握り締める。答えは決まっている。

「行くよ」

美女は今までで一番艶やかな笑みで、玄関の扉を開いた。
(私は戻る。梨華ちゃんと一緒に…戻ってくる)
(決着をつけてない奴はまだいっぱいいっぱい残しているんだ)
(藤本美貴!高橋愛!安倍なつみ!それと…)

「間違ってないよな。ごっちん」

静かに、吉澤ひとみはその一歩を踏み出した。
テーブルの上の冷え切ったトンカツに、気付くこともなく。

第14話「来ないで」終わり

176 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:12 ID:0g1vNJK2
次回予告

トーナメント始まる!
この日にすべてを賭けてきた出場者達が集まる。
ただ一人を除いて…。

「あいつは必ず来る!」

追う者。待つ者。闘う者。それぞれの想いを胸に…
――――熱戦の火蓋は切って落とされた!!

To be continued

177 :名無し募集中。。。.:04/02/22 23:16 ID:Gk8kbUAP
お疲れ様です。物語の幅が広がりまくりですね。

178 :名無し募集中。。。:04/02/23 20:08 ID:2k41bh45
辻豆さん乙です。
今回は更新の感覚が早いですね。
嬉しい限りです。
でも無理はせずゆっくり更新してください。

179 :名無し募集中。。。:04/02/23 21:54 ID:o5apVwjb
最近更新早くてうれしいです!
辻豆さんのペースでがんばってください!

180 :名無し募集中。。。:04/02/25 01:32 ID:Cklw4Zd9
( `_´)<誕生日に保全は恥ずかしいことではありません

181 :名無し募集中。。。.:04/02/25 15:27 ID:5os09yK1
金髪美女・・・・
女装したはたけだったりしてw

182 :名無し募集中。。。:04/02/25 20:12 ID:OG5VlUJX
今までに出ていないのって誰だ?


183 :名無し募集中。。。:04/02/26 02:45 ID:1iYMenTi
夏美会館 安倍、藤本、辻、りんね、里田、みうな、紺野
ハロープロレス 飯田、石黒、松浦、ソニン、新垣
プロレス 中澤、稲葉、小湊、信田、ルル
講道館 矢口、小川
八極拳 保田、田中、亀井、道重
ボクシング 吉澤、ミカ
日本拳法 前田
メロン 柴田、村田、大谷、斉藤
高橋流柔術 高橋
柔術 後藤
市井道場 市井
? 加護
? 石川

あと誰?


184 :名無し募集中。。。.:04/02/26 03:00 ID:4QzC/kkh
|◇´)

185 :J:04/02/26 08:59 ID:n2KMkHmX
福田とアヤカとあさみだけ?

186 :辻豆保全隊隊長。。。:04/02/26 15:05 ID:hR2Kufdz
平家姉さんキタ━━(゚∀゚)━━━!!

187 :名無し募集中。。。:04/02/27 19:17 ID:rIDzpalQ
ほしゅ

188 :名無し募集中。。。:04/02/28 01:23 ID:4jFR35KZ
石井ちゃん?


189 :名無し募集中。。。:04/02/28 22:08 ID:Cy3NF5Hw
ふぉーくふぉくふぉーくー

190 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:17 ID:k/rJ99BH
第15話「開幕」

この日、武道館は超満員に膨れ上がっていた。
最強の女を決定する、夢の異種格闘技トーナメント当日である。
格闘技ファンのみならず、一般層までが期待と波乱に胸を高鳴らせている。
ところが…波乱は思わぬ所で実現していた。

「吉澤が来ていないって!」
「押忍、家や知り合いに連絡しても繋がらないそうです」

大会の主催者でもある夏美会館長、安倍なつみが顔をしかめた。
運営を手伝う夏美会館の戸田の報告は、まさに寝耳に水だった。

「嘘でしょ、あの吉澤がぁ。一体どうしたっていうんだよぉ」
「館長、いかが致します?」

戸田が尋ねる。
時計の針はすでに開幕10分前を差している。
溜息をついて、安倍は答えた。

「…やれやれだよ」

191 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:17 ID:k/rJ99BH
『選手入場!!』の合図で、暗闇に包まれた武道館に一点の光が差す。
入場ゲートに、モデルの様にスラリと立つシルエットが写された。
待ちわびた歓声が響く。

『戦慄のハイキック再び!柴田あゆみ!!』

入場ゲートから幾筋ものスポットライトを浴び、柴田入場。
これまでの無表情に、鋭い眼光が加えられていた。
闇に生きた女の、人生を変える戦いが始まる。

『元プロレス!今は空手!!安倍なつみの切り札!辻希美!!』

小さなシルエットから元気印の娘が飛び出してきた。
観客に投げキッスを振る舞い、柴田とはまるで好対照な入場。

『打倒夏美館!ハロープロレスからの刺客はなんとあのクロエ!石黒彩!!』

風格。その佇まいにはそんな物すら感じさせる圧力が備わっていた。
派手なコスチュームを纏い、高々と拳を上げる。
早くも勝利宣言、優勝宣言である。

『実践柔術が生んだ華麗なる天才!!いざ頂点へ!!高橋愛!!』

端正なマスクを惜しげもなく崩した笑顔で、高橋入場。
まだあどけなさが残った前大会と比べ、少し大人びた印象を受ける。
それは時間のせいだけでは無い事が、この後証明される。

192 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:18 ID:k/rJ99BH
『向かう者は全員返り討ち!夏美館最強の象徴!!藤本美貴!!』

空気が変わった。
現れた藤本の表情が、今まで見たことも無い程の怒りに満ちていたからだ。
そしてその理由はすぐに明かされる。

『ダークホースとなるか!今大会最年少!若干15歳!田中れいな!!』

勘のいい観客が戸惑いの色を見せ始める。
抽選番号順でコールされていたはずが、何故か一人飛ばされたからだ。
当の田中は我関せずといった面持ちで入場ゲートをくぐる。

『あのYAGUTIがついに総合格闘技参戦!!矢口真里!!』

柔道着を着込んだ火の玉娘が飛び出す。
最年少の田中よりさらに一回りは小さく見えた。しかし声と態度は一番大きい。

こうして中央のリングにズラッと7人が並び立つ。
だが会場はまだ騒然としていた。
――――吉澤ひとみがいない!!
誰もがそのことに気付いていたのだ。

「――皆さんに、残念なお知らせがあります」

そのときであった。入場ゲートから安倍なつみの声が聞こえたのは。

193 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:19 ID:k/rJ99BH
「どうやら吉澤ひとみは…夏美会館に負けるのを恐れて逃げ出したみたいです」

一斉に不満の声があがる。当然だ。
藤本vs吉澤は1回戦最注目、事実上の決勝と語る専門家すらいる夢のカードだ。
選手たちの中にも動揺を浮かべる者がいる。

「嘘やろ、あの吉澤さんが…」

高橋愛が呟く。
直接拳を交えた公園で、そして摩天楼で、吉澤の勇敢さを見た。
(あの人が、逃げ出す訳ない!)
しかしなっちは残酷にも続ける。

「本当に残念だけど、リザーバーを使うことに決め…」
「待て!!」

突然、なっちのマイク音を掻き消す程の大声があがった。
その主が観客席から入場ゲートへ強引に上る。
警備の男たちがただちに取り押さえにはいるが、声の主はそれを軽くいなす。片腕で。

「あれって、市井」「柔術の市井だ」

観客がざわめく。
かつてその類まれなる柔術の技で格闘技界を席巻した女、市井紗耶香であった。
その市井が安倍なつみの前に立ちはだかったのだ。

194 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:19 ID:k/rJ99BH
「あら、懐かしい顔」
「安倍…」

この二人、因縁があった。
市井が全盛期で勝利を収め続けていた頃。
安倍が夏美館を設立し名をあげていた頃。
激突したのである。
柔術vs空手。壮絶な戦いであった。
敗者は名声を失い、日本を去った。
勝者は自分とその組織を一気にメジャーへと押し上げたのだ。
敗者が市井紗耶香。勝者が安倍なつみであった。
その二人が、実に数年ぶりに顔を合わせたのである。

「ウフフ。もしかして、リザーバーでも申し込みに来た訳?」
「そんなもんいらん。戦うのは吉澤だ」
「でも、いないんじゃ無理よね」
「あいつは必ず来る!」

市井が吼えた。

「そいつの言う通りだ!アニキは逃げたりしねえよ!!」

すると、別の所からも声があがった。
講道館の小川麻琴だ。彼女もゲートに登ってきた。
吉澤の後輩である彼女も、吉澤という人物をよく知っている。

195 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:26 ID:k/rJ99BH
「私からもお願いします!!もう少し待ってあげて下さい!」

今度はリングの上から声。
高橋愛だ。我慢できずに前へ進み出ていた。

「やれやれ、ずいぶん人望があるのね」

なっちは困った笑みを見せる。
市井、小川、高橋の真剣な眼差し。そこへまた新たな声があがった。

「第三試合が始まるギリギリまで、猶予をくれ。館長」

藤本美貴!彼女の口から出たトンデモナイ台詞に皆が驚く。
対戦相手が直々に願い出たのだ。
なっちまでもが目を丸くして驚いた。そしてその驚きを笑みへと変える。

「しょうがないわね。ギリギリまで待つことを許可します」

喜びの声は会場全体で聞こえた。皆、吉澤ひとみの闘いを見たいのだ。
市井はなっちに軽く礼をすると、すぐに会場を飛び出していった。小川も続く。

(ミキティが「館長」って言った)
辻だけひとり違う所に感想を浮かべた。藤本が真剣な所、初めて見たからだ。
(吉澤って人、来てほしいな。ミキティの本気の試合、見てみたい…)

196 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:27 ID:k/rJ99BH
開会式が終わり、愛はすぐに会場を飛び出した。
関係者出入口付近で小川は携帯電話をいじりまわしていた。

「どう?」
「ダメだ、くっそ!アニキの携帯ずっと圏外だ。何処行ったんだぁ?」
「何かあったんじゃ…」

そのとき、青いスポーツカーが物凄い勢いで前に止まった。
片腕で器用に運転する市井が、窓から顔を出す。

「お前も乗るか!?吉澤の家に行く!」
「は、はい!」
「私も…」
「馬鹿!愛は選手だろ!!任せとけ!!」

麻琴が愛の胸をドンと叩き、青いスポーツカーに乗り込んだ。

「愛!負けんなよ」

そう言い残し、二人を乗せた青いスポーツカーは物凄い速さで走っていった。
残された愛は、空にまだ決着を付けていないライバルの顔を浮かべた。
(吉澤さん、何してるんやって!)

――――――――ここで時間は昨夜に遡る。

197 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:27 ID:k/rJ99BH
>>177
ありがとうございます。
拡げた風呂敷はいかにまとめるか…これからが勝負です。

>>178>>179
更新はできるだけ早くしたいんですけど。仕事が…
あー作家になりたい!

>>181
金髪は美女じゃなくて、寺田さんの方です。

>>185
あれ、あさみ未登場だっけ?
と思って読み直したら、序盤に登場してはいるが名前を書いてなかった…。
何処に属しているかは大体予想つくとは思うけど。

>>189
やっと見つけたジブンの道ぃ〜♪

198 :名無し募集中。。。:04/02/29 04:18 ID:UQ0j+pNM
>>197
序盤に登場してはいるが名前を書いてなかった…。
前スレ54の
>「紺野ちゃーん。本部からお客さんだよー」
>先輩の呼ぶ声にようやく少女は足を止めた。
この先輩があさみ?


199 :名無し募集中。。。:04/02/29 10:03 ID:GzrrXZym
辻豆さん乙です
あの藤本が本気になったんですね
吉澤は果たして試合に出れるのか
楽しみにしています

200 :名無し募集中。。。:04/02/29 12:46 ID:UQ0j+pNM
>>176
>To be continued
これってやっぱりブレーメンから?


201 :名無し募集中。。。:04/02/29 16:59 ID:wX4FMbCU
娘。トーナメントか何かでも使っていた様な気がしないでもないみたいな

202 :名無し募集中。。。:04/02/29 18:07 ID:kZKHmIEO
元ネタを探すとかそういう次元なのかい?

203 :名無し募集中。。。:04/02/29 19:18 ID:R4RCDI+u
この展開じゃ藤本が負けちゃいそう・・・

204 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:20 ID:LM6ClB34
美しい満月の夜、国道を黒塗りの高級車が走る。
車内には三人の男女が乗っていた。
運転席に座る男は寡黙で、一言も声を漏らさない。
後部座席に二人の女性、妖艶な美女と、中性的美しさを持つ娘が座っていた。
中性的美しさを持つ娘――吉澤ひとみの目元にはアイマスク付けられていた。

「到着まで一時間くらいです。申し訳ないですが、我慢してくださいね」
「構わねえよ。お前らは信用しねえけど、あんたを信用する」
「それはありがとう」

この妖艶な美女に誘われ家を出ると、この高級車が止まっていたのだ。
「行く」と決めたのだから、迷う必要も無い。吉澤は車に乗り込んだ。
行く先も、そこで何が待つのかもわからない。
ただ…梨華ちゃんが待っている。
その想いがどんな不安も凌駕する。

「開会式が13:00。そっから試合が始まって、私は第3試合だから…
 どんなに遅くてもリミットは15:00ってところか」
「なんです?」
「明日の大会だよ。何時なら間に合うかなって」
「まだその様なことを言っているのですか?」
「当たり前だ。梨華ちゃんを取り戻して、明日の昼までには戻るから」
「怖いもの知らずも、あなたくらいになると気持ちがいい」

やがて車はカーブし、坂を下る感覚を吉澤は感じた。
(…地下か?)

205 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:20 ID:LM6ClB34
「アイマスクを外していいですよ」

妖艶な美女の言葉を受け、吉澤はただちにマスクを外す。
ただっ広い地下駐車場の一角に車は止まっていた。
(何処だここ?)

「降りて下さい。こちらです」

妖艶な美女が車のドアを開け、呼ぶ。
運転席の男は結局一言も声を漏らさず、じっと座っていた。
おそらくここまで載せることだけが彼の仕事なのだ。余計な事は一切しない。
吉澤は車を降りて美女の後に続く。
(まるで人の気配がしねえ。不気味な場所だ…)
駐車場の片隅にエレベーターがあった。それに乗る。
エレベーターのボタンは上行きしかない。ここが最下層なのだ。
すると、妖艶な美女はおもむろに緊急と書かれたボタンを押す。
カチッとマイクが繋がる音、そこへ美女が美しく告げる。

「アヤカです」

マイク音が切れると、ガクンとエレベーターが揺れ、下降を始めた。
(最下層…より下があるってこと)
二人を乗せたエレベーターは下降を続ける。

206 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:21 ID:LM6ClB34
「怖くなってきました?」
「少しね」
「ウフフ…」
「それより、あんたさ。アヤカって名前なんだ。可愛いじゃん」
「おだてても何も出ませんわよ」
「チェ」

エレベーターが止まった。
短い通路、その先に鉄の扉と数字の並んだボタン。
アヤカがピピッと数字を推してゆく。10桁は操作していた。
とても覚え切れそうにない。

「たいしたセキュリティだ」
「さぁ、どうぞ。マスターがお待ちです」

マスター。梨華ちゃんを攫った張本人。一体どんな人物か?
吉澤は大きく唾を飲み込んだ。
そして扉の先に待ち受ける光景に、吉澤は思わず目を疑った。
豪華な装飾の数々が、磨かれた柱や壁を包む。
床の赤い絨毯にはチリ一つ落ちてやしない。
まるで…中世ヨーロッパの王宮にでもタイムスリップした感覚。

「…マジかよ」

207 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:22 ID:LM6ClB34
「マジやで」

吉澤は再び目を見張る。
王様みたいな衣装の金髪男が奥から姿を現したのだ。
アヤカが深々と頭を下げる。

「吉澤ひとみを連れて参りました。マスター」
「ごくろうやったな。ようこそ吉澤君。会いたかったで」
「あんたが…マスター?」
「せや」
「あんたが梨華ちゃんを…」
「アレは元々わいのもんやで」

アレ。まるで人とも思っていない口ぶりに、吉澤は奥歯を噛み締めた。
だがここでキレル訳にはいかない。
確実に、梨華ちゃんと二人、戻る方法がわかるまでは。

「石川梨華を取り戻す方法を知りたいんやろ」

まるで心を読んだかの如く、マスターはそう言い切った。
吉澤は素直に頷いた。マスターはニヤリと笑う。

「わいがこの財をどうやって築き上げた思う?」
「さぁ」
「コロシアムや」

208 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:30 ID:LM6ClB34
コロシアム。
古代ローマ帝国において、剣闘士たちが命を掛けて闘った競技場の名前。

「現代に蘇らせたんや。お前らの大好きな格闘技ちゃうで。殺し合いや。
 これが馬鹿な金持ちどもに受けとんのよ」

悪。その一言を見事に体現した笑みを浮かべる。
そして彼が何が言いたいのか、何となくわかってきた。

「私に、そのコロシアムに出ろってこと」
「話が早いのぅ」
「誰を倒せば、梨華ちゃんを返してくれる?」
「決まっとるやろ。チャンピオンや」
「マスター!それは…」

アヤカが突然叫んだ。ここまでずっと冷静だったあのアヤカがだ。
(チャンピオンってのはそれほどの者なのか)

「どや、やるか?」
「約束は守るんだろうな」
「守らなコロシアムは成り立たへんやろ。ここでは勝者が絶対や」
「私が勝ったら、梨華ちゃんを返してもらうぞ。そして二度と近づくな!」
「命の保障はないで」
「上等」

209 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:31 ID:LM6ClB34
マスターは誓約書を取り出す。
彼の各印はすでに押されてある。
吉澤はアヤカが用意した朱肉に親指を押し付けると、そのまま誓約書に押し付けた。
こんな裏社会では公的に意味のない代物だが、気持ちの問題だ。

「よっしゃ、交渉成立やな」
「で、試合は何時からだ?私は今すぐでもいいぜ」
「そう焦らんでええがな。こっちも準備がある」
「急ぐんだよ」
「しゃーないな。明日の昼12時ジャスト試合開始でどうや。それ以上は無理やで」

吉澤は脳内で計算を始めた。
(12:00か。秒殺して、速攻戻れば、ギリギリ大会に間に合うか…?)

「勝ったらすぐに帰ってもいいんだよな?」
「言ったやろ。勝者は絶対やて。好きにすればええで」
「OK!12時だな」
「よかったで。吉澤ひとみが意外と話の分かる奴で」
「こちらこそ」

マスター寺田と吉澤ひとみは互いに笑みを浮かべる。
アヤカだけが複雑な表情のまま、その場に取り残されていた。

210 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:32 ID:LM6ClB34
「おーフカフカ。気持ちいい〜」

用意された部屋のベットにゴロンと倒れ込む。

「大物なのか…鈍感なのか…。あなた、ご自分の状況がわかってないみたいね」

ベットで横になったまま、吉澤は入り口に立つアヤカを見上げる。

「わかってるさ。勝てばいいんだろ」
「ルールもあって審判がいる格闘技とは違いますのよ」
「それでも、こいつに変わりはない」

吉澤はグッと拳を自らの顔に近づけた。

「どつき合いなら、世界中の誰にだって負けねえ自身があるからよ」
「…チャンピオンを知らないから」
「なんだって?」
「いえ、何でも。最後の夜をせいぜい楽しむことね」
「何だよ行っちゃうの?話し相手いなきゃ、楽しめねえだろ」

アヤカはその美貌をわずかに崩す。
この吉澤を相手にしているとどうも調子が狂う。

「話すことなどありません」
「あるよ。アヤカのことが知りたい」

211 :名無し募集中。。。:04/03/01 18:34 ID:lNXOK1qk
まだ、更新途中だといいんだけど・・・・ネタバレしそうで・・・石川・・・わかんないけど・・・

212 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:47 ID:LM6ClB34
変な奴だ…とアヤカは思った。
明日死ぬかもしれないのに、こんな屈託ない顔で話しかけてくる。
自分はこちら側の人間なのにだ。

「まぁいいでしょう。冥土の土産に」
「だから私は死なねえし、負けねえっての」
「それで、どんな話をするのです?」
「チェ。クールな奴。そうだなぁ…アヤカの昔話が聴きたい」
「そんなものありません。私は物心ついた時からここにいましたから」
「えっ?」
「あっ!…今のは忘れてください」
「ずっとこんな所に?友達とかいなかったの?」
「…いるにはいましたが、負けて動けなくなった子や去った子ばかりです」
「それって…」
「その内の一人に、あなたも知っている子がいます」
「誰?」
「柴田あゆみ…聞いたことがあるでしょう」
「嘘!メロンの?」
「ええ、メロンになる前、彼女はここで共に育った」
「そうなんだぁ。確かにあいつだけ…何か違ったもんなぁ」
「あなた達との戦いのときは、まだ殻を被っていた」
「え?」
「殻を破った柴田あゆみは…強いですよ」

アヤカは妖艶な笑みを浮かべ、言った。

213 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:47 ID:LM6ClB34
時間は再び大会当日に戻る。

「今まで、ありがとうございました」

控え室のひとつ、柴田あゆみが頭を下げていた。
下げられた三人は思わぬことに、苦笑を浮かべあう。

「顔、上げろよ」
「こっちが照れるじゃねえか、なぁ」

斉藤と大谷の言葉を受け、柴田は静かに頭を上げる。
村田もメガネをつまみながら語る。

「私たちも嬉しいのです。あなたの晴れ姿が見れることがね」
「はい」

吉澤達に敗れた後、格闘技に挑戦したいと言う柴田に反対する者はいなかった。
むしろ3人は積極的に協力したものだ。
斉藤の関節技、大谷の打撃、村田のトリッキーな技術、全てを柴田に注ぎ込んだ。
だが、柴田が感謝しているのはそれだけではない。
(アソコを逃げ出した私を…ここまで育ててくれたのがあなた達です)

「いってきます!」

地の底から光輝く場所へと辿り着きし娘、柴田あゆみ出陣!
相手は夏美会館の辻希美である。

214 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:48 ID:LM6ClB34
>>198
はい。その夏美館北海道支部の先輩が「あさみ」です。
いろいろ活躍の予定あったのに、作者の都合で全部お蔵入りに。

>>200
ブレーメンの影響です。
ラッキーチャチャチャでTo be continuedの流れが気に入ってしまって。

215 :名無し募集中。。。.:04/03/01 21:29 ID:WkJek5HT
更新お疲れです。
今回の感想は、「そーいう方向か!!」
って感じです。

216 :名無し募集中。。。:04/03/01 23:18 ID:noDZuMZZ
辻豆さん乙です
ここからどういう風に展開していくのか
楽しみで堪りません
頑張ってください

217 :名無し募集中。。。.:04/03/03 00:58 ID:P+FnSBmy
>>211
俺もそう思う

218 :ただすん:04/03/03 22:08 ID:UsVBACk7
寺田ってつんく♂の本名だったんですか…はじめて知りましたyo!

219 :ねぇ、名乗って:04/03/03 23:30 ID:dsEvVQQ4
辻豆さん乙です。
今後の展開がむっちゃ楽しみです。

>>211
チャンピオン候補は4人思い付いたけど、
Aはいまいちキャラが合わなそう。(世俗を離れて独り山奥で修行していそう)
Bはありそう。ただ、自分はこの人のことあまり知らないので実はキャラが合ってないのかも。
Cは最初、この人しか無いと思ったけど矛盾が生じる(何か設定があるのかもしれないけど)
Dはこの人であって欲しいけど無理があるかなぁ?
てな感じ。
チャンピオンが明らかになったらA〜Dが誰なのか書きます。

220 :名無し募集中。。。:04/03/05 01:42 ID:+9mJ7buC
>>218
知らない人多いみたいだな。


221 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:09 ID:yemCz5A/
>>215
はい、こういう方向です。
結構前から色々張り続けてきた伏線がようやく回収できそうです。

>>216
ありがとう、頑張ります。
この先どうなってしまうのか作者自身もワクワクしていますので。

>>218
つんくファンの方、ごめんなさい。今回は悪役にしてしまいました。

>>219
まさか、こっちが推理させられることになるとは…。
推理させるのも好きだけど、推理するのも好きなんで考えました。
メール欄にA〜Dの予想を載せておきます。

222 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:10 ID:yemCz5A/
入場口に辻希美は立っている。
周りには誰もいない。安倍なつみは主催者で、藤本美貴は選手だ。
思えば、夏美会館に入ってからこの二人以外との交流はほとんどなかった。
自分が夏美会館代表として選ばれたことに不満を持つ者も、少なからずいるであろう。
もうすぐ名前が呼ばれる。
足が震えていた。
さっきからずっとだ。
試合というならばハロープロレス在籍時に幾度かの経験がある。
だが、今日のそれは今までのどれとも違った。
負けたら終わり。
やり直しはきかない。その人間に敗北の烙印が下されるのだ。
地上最強…その道が閉ざされるのだ。

「くふぅ」

息を吐いた。同時に声が漏れた。
柄にもなく緊張している。こんなにも怖いものだとは思わなかった。
そう、敗北の洗礼を受けるのは自分だけではない。
自分が所属する夏美会館の敗北、自分を選んだ安倍なつみの敗北に繋がる。
それが怖い。
館長推薦者がみっともない負け方をする。安倍なつみは見る目が無いと人々に罵られる。
それが怖かった。
足の震えが、どうしても止まらなかった。逃げ出したくなった。
(そうだよね。ミキティがいるんだし…ののなんかいなくても…)
辻希美は回れ右をしかけた。その振り向いた先に、空手着の女性が数人立っていた。

223 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:10 ID:yemCz5A/
「なんて声を出している」

先頭の女が言った。辻は振り向きかけたまま固まった。
里田。一昨年の夏美会館全国王者である。
その横にも知っている顔が二つ。本部の戸田と北海道支部の木村。
いずれも全国大会では毎年ベスト4かベスト8には食い込む強豪である。
さらにその後方には若い顔が見える。
この所メキメキ腕をあげていると評判高い静岡支部の斉藤だ。

「み、皆さん。どうしたんれすか…?」
「お前に言いたいことがあってな」

木村が言った。続いて戸田が口を開く。

「お前の出場は館長が決めたこと、我々が口を挟むことではない」
「だがな、私達は認めないぞ」
「…里田さん」
「もしここで負けたら、私達はお前を絶対に認めない」

…認めない。里田の言葉が辻の胸を強烈にえぐった。
そして、里田の拳がきつく握り締められていることに、辻は気付く。
(あぁそっか。出場したかったのは自分だけじゃない。みんな、みんな…
最強を目指して夏美館にいるのれす。なのに…ののは…選ばれたくせに…逃げようと…)
唇を噛んだ。
みんなの気持ちに応える為できることはひとつ…勝つことだけ。

224 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:11 ID:yemCz5A/
「ののを殴ってくらはい!」

目にいっぱいの涙を溜めて、辻は叫んだ。その勢いに戸田や木村は思わずたじろぐ。
すると後ろから、まだ一言も発していなかった若き空手家が身を乗り出してきた。

「そういうことでしたら、わたくしにお任せあれ」
「おい、みうな」

止める木村の声にまるで耳を貸さず、右から左へ流れる様な正拳突きを放つ。
遠慮のない一撃であった。辻の頬が赤く膨らむ。
右を向いた辻が正面に顔を戻し、また吼える。

「まだまだぁ!」

ブゥンと、今度は左から右で裏拳を当てる。みうなの拳には少しの容赦もない。

「入りましたか?」

コクンと頷く。正面を向いた辻の頬は両側とも赤く腫れあがっていた。
気合が…入った。

「行きましょうか。私がセコンドをしてさしあげますわ」

戸田と木村と里田はホウと思った。決して他人に媚を売らぬあの斉藤が自分から。
辻希美はニコッと笑んだ。そして歩き出した、前へ。

225 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:11 ID:yemCz5A/

一回戦第一試合

柴田あゆみ(フリー)21歳



辻希美(夏美会館空手)18歳

226 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:11 ID:yemCz5A/
怒号の様な大歓声。その中を、二人の娘が向かい合い立っていた。
柴田あゆみと辻希美だ。
身長差は約5cm。柴田が高い。だが間近で並ぶと数字以上の開きを感じる。
柴田は無地の胴着を。辻は夏美会館と記された空手着を着用していた。
互いに言葉を交わすことはない。

試合場は、プロレスのリングとは違いコーナーもロープも無い。
ルールはバーリ・トゥード。ポルトガル語で「何でもあり」を意味する。
禁止されているのは「目突き」と「噛み付き」だけ。
敗北条件はダウンしての10カウント、ギブアップ表示、ドクターストップ、
セコンドからのタオル投入、以上の4つである。
試合時間は無制限。引き分けや判定は無い。
そういうトーナメントである。

柴田あゆみのセコンドがメロンのボス斉藤瞳。
辻希美のセコンドが夏美会館の斉藤みうな。
奇しくも同じ姓を持つ者同士となった。
二人とも余計な口出しは無用と感じていた。試合場に立つ選手を信じるのみである。

主催者特別席で、安倍なつみが見ていた。
その隣で、藤本美貴が見ていた。
観客席最上段で、田中れいなと道重さゆみが見ていた。
選手控え室のモニターで、高橋愛と石黒彩と矢口真里が見ていた。

ゴングが鳴った。

227 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:22 ID:yemCz5A/
まず柴田が動いた。
辻を中心に円を描くよう、ゆっくりとゆっくりと動き始めた。
それに合わせて辻が体を動かす。常に正面を向くように。
――ッ!
突如、柴田の右足が消えた。同時に辻の小さな体が後方にぶれた。
蹴りだ。消えたと錯覚する程の速度。柴田の右足が辻の脇腹を狙ったもの。
腕でガードしていなければ倒れていたであろう、物凄い威力であった。
続けざまに柴田は左足で蹴りを狙う。
それを悟った辻はすぐにガードを固める。
これが罠であった。
蹴りの振りをした左足をすぐに戻すと、柴田は低空姿勢で前に出た。
タックル!
気付いた辻が、すぐに拳を横になぎ払う。
が、それよりもさらに低く、柴田は辻の左足を抱え込んだ。
辻が倒される。
柴田が左足を抱えたまま、辻の左手首を掴み取った。
開始早々、寝技の攻防。柴田の作戦通りに進んでいた。
辻のグラウンド技術はハロープロレス在籍時に学んだものが全てだ。
それも短期間であった為、万全であるとは言いがたい。
逆に柴田は上手かった。身近に関節技のスペシャリスト斉藤瞳がいたのが大きい。
十秒、二十秒、リング上で二人はもがき合った。
完全に左腕を取ろうとする柴田、取られまいとする辻。
腕を取られればその時点で試合終了である。ギブアップするか、折られるかだ。
腕が折られたら…もう試合にはならない。
――――――――――その腕を、柴田がついに捕えた。

228 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:23 ID:yemCz5A/
腕ひしぎ十字固め。
完全に決まった。どんなにもがこうともう外せない。
ミリィという音がした。骨が軋む音だ。辻の顔が激痛に歪む。

「あっけない幕切れだったな」
「やっぱり柴田か」

客席からの声。開始からまだ1分も経ってない。
これほどまで実力に差があるとは誰も予想していなかった。
いや、ここは柴田を褒めるべきだろう。
打撃から、フェイント、タックル、寝技、決め、全てにおいてムダが無い。
辻が何もさせてもらえなかったのだ。

柴田のセコンド、斉藤瞳は勝利の笑みを浮かべる。
辻のセコンド、みうなは対照的に顔をしかめた。タオルを握る手に汗がこびり付く。
まだ辻はギブアップをしない。
辻を攻めることはできない。柴田が強すぎた。想像以上に強すぎたのだ。
もう選択肢は残っていない。ギブアップするか、ギブアップをせず腕を折られるかだ。

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃ…」

苦悶の声。歯をむき出しに辻の苦悶の声が響く。
ミリミリィミリィという音。骨と骨が軋みズレル音。想像を絶する激痛。
それでもまだ辻はギブアップをしない。
「もう勝負はあったのに何故?」と、会場中の観客が疑問を浮かべた。

229 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:23 ID:yemCz5A/
ここから数十秒の間に起きた出来事を、のちに人々はこう呼ぶ。
奇跡、と。

体が浮いていた。柴田あゆみの体がだ。
何事か?と柴田は思った。
間接技を掛けられている左腕だった。辻希美の左腕だ。
その左腕が柴田あゆみの体を持ち上げようとしているのだ。
理屈では分かる。無理だ。
しかし現実、柴田は確かに左腕一本の力で持ち上がっているのである。
腕力が強い、というレベルの話ではない。
そんなことがあってはいけないのだ。
少なくとも自分が教わってきたグラウンドの技術には、存在していない。
関節技を完璧に決める――――そこが終着駅なのである。
(こんなことがあって…)

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

不可能が現実になる。左腕がその腕力のみで、自分より大きい人間を持ち上げた。
そのまま辻は左腕を柴田あゆみごと、反対側の床に叩き付けた。
そして右の拳を握り締め、振り下ろした。
柴田は慌てて腕を放し、間一髪で辻の突きをかわした。
同時に立ち上がった二人は、再び向かい合う。
辻は左腕をブランと垂らし右腕のみ構えをとっている。
柴田は叩き付けられたダメージがまだ残っており、全身が重く感じた。
いやそれはダメージのせいだけではない。そう、恐怖だ。

230 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:23 ID:yemCz5A/
(馬鹿な…私が…恐怖を感じている…)
(そんなはずはない。そんな感情はあそこで、あの場所で捨ててきた!)
柴田あゆみの表情が変わった。気の質も変わる。
それは「試合に勝つ」というより「相手を叩き伏せる」という感情に近い。

『殻を破った柴田あゆみは…強いですよ』

アヤカが吉澤に言った。その殻を…今、破った。
あの無表情な柴田あゆみが、牙を剥き出しにして辻希美に迫る。
来る!誰もが悟った。柴田あゆみ最高最強の必殺技!
フリージア!
回避不能。一撃必殺。試合序盤の蹴りとは速さも、破壊力も、歴然に違う。
そのフリージアに一筋の閃光が立ち向かう。
(拡散する力を一点に集中…)
あの夜、安倍なつみに一本一本指折り、教わったもの。
辻希美の正拳!
そいつが柴田あゆみのフリージアに真っ向から挑みかかった!

「ああああっ!!」

赤き純潔と一筋の閃光の激突。
もの凄い強度の物体が砕ける音。その音が会場に響き渡った。
正拳を突き出したままの姿で固まる辻。
ハイキックの体勢で固まる柴田。
場内に静けさが満ちる。

231 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:24 ID:yemCz5A/
ガクン。
膝から崩れ落ちたのは―――柴田あゆみであった。
さっきの音。あれは柴田の脛が破壊された音だったのだ。
倒れた柴田に向かって、さらに辻は拳を振り上げる。
まだ向ってくる!辻の闘争本能がそう反応させたのだ。

「そこまでーーーーーーーー!!!!」

レフリィーが間に入って、辻を止める。
見ると、柴田側のセコンドからタオルが投入されていたのだ。
もう闘えない。斉藤瞳の判断であった。そしてその判断は正しかった。

「勝者!!辻希美ぃぃぃぃ!!!!!」

高らかにコールされる自分の名前を聞いて、ようやく辻は我に返った。
強く握り締められた自らの拳を見つめると、今度はそれを高々と振り上げる。
それに呼応する様に、会場全体から辻希美の名が何千何万となって叫ばれた。
人々の興奮は早くも最高潮に達していた。
そう、彼らはその目でまのあたりにしたのだから。
辻希美という名の「奇跡」を。

一回戦第一試合 勝者 辻希美 1分27秒 TKO

第15話「開幕」終わり

232 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:24 ID:yemCz5A/
次回予告

一回戦第二試合、始まる
高橋愛の前に立ちはだかるのは、かつて高橋流の門を叩いたプロレスラー石黒彩。

「お前では、私には勝てない」

一方、石川梨華を救うため吉澤ひとみはコロシアムに入る。
対峙するは裏世界最強のチャンピオン。
果たして、吉澤はトーナメントに間に合うのか!?

To be continued

233 :名無し募集中。。。:04/03/05 04:16 ID:5gEQpEL3
辻豆さん夜遅くまで乙です

234 :ねぇ、名乗って:04/03/05 05:30 ID:7EuDkoPz
いや〜
手に汗握る激闘でした。
辻ゆえに柴田のフリージアを素手で掴んでその化け物的な握力で握り潰すなんて結末だったらどうしようかとw

で、闇のチャンプはGかKかFかIの4人しか思いつかないのですが
まさかキッズの誰かなんてヲチは…

これからも期待してます。

235 :名無し募集中。。。:04/03/05 13:35 ID:3XlmEbus
辻豆さん乙です
辻が勝ちましたね高橋もてこずった
柴田のフリージアを破った正拳すごいですね
すっぽんがこれからも奇跡を起こしていく
と思うとすごい楽しみです

236 :ねえ、名乗って。:04/03/05 19:46 ID:PfFvedv9
四月から海外出張で(´・ω・`)ショボーン ジブンのみちが見れなくなっちゃいます。
このペースですと…準決勝がはじまるオイシイときに丁度離国かな・゚・(つ∀`)・゚・

237 :名無し募集中。。。:04/03/06 01:21 ID:boB4kYGw
>>234
死亡説の流れてるあの人が闇のチャンプだったらいいな〜って思ってる・・・。
一応、裏主人公だし・・・BBみたいにならないかな〜って。

238 :名無し募集中。。。:04/03/06 01:25 ID:cGjyL8A+
>>237
きまりでしょ。それしか思い浮かばないもん。悪い意味じゃなくてね

239 :名無し募集中。。。:04/03/06 05:56 ID:2j5nNKIz
では、なぜアヤカは止めようとしたのか…

240 :名無し募集中。。。:04/03/06 07:38 ID:cGjyL8A+
では石・・・・

241 :名無し募集中。。。:04/03/06 14:30 ID:4M1m+6EN
そこでmisonoの登場ですよ。

242 :名無し募集中。。。:04/03/06 17:24 ID:2j5nNKIz
それとも、メカあいぼnゲホゴホ

243 :名無し募集中。。。:04/03/06 18:44 ID:4ZxLWGWb
尾見谷・・・


244 :名無し募集中。。。:04/03/06 23:50 ID:xWXr0zqM
(  `◇´)

245 :名無し募集中。。。:04/03/07 11:08 ID:19wKqiCD
梨華さんは二重人格。とか…
戦闘モードに入ると、指で何かするメチャ強キャラに豹変!だったり

246 :ねぇ、名乗って:04/03/07 12:05 ID:PqQesFKW
そう言えば石川って
間接技の達人(これも驚きw)斉藤の首を貫く指の持ち主だったな…
男塾で言う羅刹みたいなものかな?



247 :名無し募集中。。。:04/03/07 13:37 ID:jWjTsEfv
オレも(  `◇´)が見たいな

248 :名無し募集中。。。:04/03/07 14:27 ID:oXD/UtOK
ガキサンをうまくつかってほしかった・・・

249 :名無し募集中。。。:04/03/07 17:19 ID:3PLrR2AM
(  `◇´)<アルバム発売記念にうちを活躍させたってな〜

250 :ねぇ、名乗って:04/03/07 21:03 ID:oX9v9i5O
>>248
眉毛ビーム最高だったじゃないか
なつみ会館でなくハロープロレス所属なのが不憫でたまらなかったけど

251 :名無し募集中。。。:04/03/09 05:56 ID:uX/Zz1hk
>>246
あれって貫いてたの?
俺はてっきり、デコピンか何かかとw

252 :名無し募集中。。。:04/03/10 00:05 ID:l0N/doAt


253 :名無し募集中。。。:04/03/10 05:10 ID:YwJs220/
>>251
>このとき石川梨華の中指に血が滲んでいたということ。
としか書いてないな
石川って二重人格?


254 :名無し募集中。。。:04/03/10 07:50 ID:tGURlZHk
チャンピオンより先に
あややの行方が明かされるヨカーン

255 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:50 ID:mUC1t4V1
諸事情によりトリップ変えました。
それでは、更新いきます。

256 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:51 ID:mUC1t4V1
第16話「もっとも恐れる者」

今大会は危険なルールである為に、怪我人も必須と予想される。
それ故になかなか立派な医務室と医師達が準備されていた。
敗者の柴田はもちろんのこと、勝者である辻も治療を受ける。
その様子を安倍なつみが見に来た。
(なにが…奇跡だ)

「右手にヒビが入っています。左腕の損傷も激しいですね」

医師による辻希美の診断結果であった。
あのフリージアとまともに撃ち合ったのだ、右拳がただで済むはずが無い。
同様に間接を決められたまま強引に持ち上げた左腕、これも正常なはずがない。
(奇跡なんかじゃない。自分の体を限界まで酷使して、ようやく掴めた勝利だ)
(そうしなければ…とても勝てなかった)
安倍が心配そうに見ていると、辻が弱々しく微笑んだ。

「医師の立場としては、これ以上の試合はお勧めできない」
「だってさ。のの」

辻はブルンブルンと首を大きく横に振る。彼女は止めても出るだろう。
自分の立場として、どうするべきだろうか?なっちは考えた。
(ののの気持ちを酌むべきか…今後の選手生命を考えて、止めるべきか)

257 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:51 ID:mUC1t4V1
10分足らずの休憩時間を挟み、一回戦第二試合が始まる。
ハロープロレスの石黒彩と高橋流柔術の高橋愛の試合である。
今大会は選手一人一人に専用の控え室が準備されている。
愛は自分の控え室で、ソワソワと動き回っていた。

「少し落ち着いたら」

紺野あさ美が言う。
彼女は夏美会館の門下であるにも関わらず、今回愛のセコンドを引き受けてくれた。
打倒安倍なつみ、という彼女なりの意思表示なのかもしれない。

「だってだって、吉澤さん来てえんのやよ。心配でしょ」
「人の心配をしている場合じゃ無いよ」

オーバーアクションで愛が訴えるも、紺野の方が正論である。

「他の事に気を取られながら勝てる相手ではないよ。ハロプロの石黒さんは」
「そんなの…よく知ってる」

石黒彩は、愛がまだ高校生の頃、よく道場へ柔術を学びに来ていた。
何度か組手もしたが、まったく歯が立たなかった。道場生の中でも一番であった。
あれから数年の月日が流れている。

「集中しなきゃ…勝てないよね。うん、わかった」
「うん。吉澤さんのことなら、小川さん達がきっと何とかしてくれるよ」

258 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:52 ID:mUC1t4V1
青いスポーツカーが車道を飛ばす。
運転席に市井紗耶香、助手席に小川麻琴が乗っていた。
二人とも吉澤ひとみに関係を持つ娘である。
開会式に吉澤が来ていないことを知り、安倍なつみに第三試合まで待つという条件を付け、
吉澤ひとみを探すため、こうして飛び出してきたという訳だ。
スポーツカーが急ブレーキして停車する。目的の場所、吉澤の家に到着したのだ。
飛び出して玄関に駆け寄った小川がまず異変に気付く。

「あれ、玄関の鍵かかってないっすよ」
「開けろ」

家の中に入ると、異変はさらに拡大していった。
無造作に落ちてある買い物袋、その中から白いブラウスが顔を出している。
テーブルには作ったままのトンカツが、手付かずのまま置かれてある。

「何だ何だ何だぁ〜?メシも食わねえでどっか行ったんすかね?」
「そんな単純じゃなさそうだ。見ろ」

市井が床を指す。カーペットに靴の後が残っていた。男物と女物だ。
吉澤以外の誰かが土足で上がり込んだと思われる。

「もしかして、誘拐事件っすか?」
「あいつがその辺のコソドロにやられるとは思えない。もっと嫌な予感がする」
「石川さんもいないっすね」
「ん、ああ、そういえば」

259 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:53 ID:mUC1t4V1
自分で口に出して小川は思い出した。

「あっ!石川さん!前に変な奴らにさらわれたことあったなぁ」
「誰に?」
「あのメロンって奴等。ほら、大会に出てる柴田あゆみとその仲間達っスよ」
「そんな大事なこと、今頃言うなよ!」
「だってメロンの奴等、全員会場にいたし…あれ、じゃあ違うのか?え〜?」
「ちょっと落ち着け」
「落ち着けねえよ!アニキが心配じゃないんスか!?」

市井が苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。ここで口論したところで何も始まらない。
だが、吉澤達の身に何かが起きているのは間違いないようであった。

「…あいつを信じよう」
「信じるって、アテはあるんスか!」
「アテか…」

市井の脳裏に一人の娘が浮かぶ。限りなく儚いアテではあるが…。
(吉澤があいつとの約束を破る…はずがない)

「大会間に合わなかったらどうするんすか?アニキはこの日の為に…」
「そのときは…吉澤ひとみはそこまでの女だったということだ」

市井の言葉はきつく、しかし信頼に満ちた言葉であった。
時計の針は午後2時を回っている。

260 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:59 ID:XVy7uQ9m
約2時間前。
時計の針が12を指そうとしている頃。
地上の武道館では、まさに最強を掛けたトーナメントの幕が上がろうとする頃だ。
地下深く、コロシアムの前に彼女はいた。
動き易いシャツとボクシングパンツに身を包んでいる。
吉澤ひとみである。
両の手はグローブに包まれてはいない。完全な素手だ。
ヘビー級ボクサーの素手の拳は、それだけで人を破壊しうる凶器となる。

「準備はいいですか」

隣に立つ、世にも美しい女性が言った。
吉澤をここに案内したアヤカという女性だ。
吉澤は軽く頷いて応える。
するとアヤカは頭部全体を覆う黒いマスクを取り出した。

「コロシアムの決まり。全てのファイターがこれの着用を義務付けられています」
「ふぅん、変な決まりがあるんだね」

文句を言いながらも吉澤はそれに従う。
目と鼻と口と耳の箇所に通気の穴が開いていた。
思った程、被り心地は悪くない。
これなら戦闘にはほとんど影響は無さそうだ。

261 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:00 ID:XVy7uQ9m
「どうぞ」

アヤカが鏡を用意していた。
そこに映る自分を見て、このマスクの意味が何となく理解できた。
通常の試合の場合、相手の顔や経歴はたいてい事前に知ることができる。
対戦相手を心から憎むというケースは少ない。
むしろ、同じ道を志す同士として共感や尊敬を抱くことの方が多い。
さんざん殴りあった選手同士が試合後、互いを賞賛し抱き合うシーンはよく見られる。
だが、ここは違った。
マスクで顔を隠した自分が、まるで人では無い様に映った。
相手の素性も知らない。
互いにマスクを被ることによって、顔すら知ることはできないのだ。
対戦相手に、情も尊敬の念も持つことは無い。
ただ倒すだけの、ただ破壊するだけの、ただ息の根を止めるだけの、敵でしかないのだ。

「怖いな」
「向こうもあなたのことを知りません。条件は同じですよ」
「そんな素性も知らぬ相手を倒し続けた、チャンピオンなんだろ」
「…ええ」
「やっぱり怖い…が、やり甲斐はある」
「やり甲斐?」
「一番嫌いなタイプなんだよ、そういうこと平気で出来る奴」

そう言って、吉澤は足を踏み出した。
闇の最も深遠たる血塗られた死闘場(コロシアム)へと。

262 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:01 ID:XVy7uQ9m
「レディースアンドジェントルマン、ようこそおいで下さいました。皆様」

コロシアムのマスター寺田の挨拶。
そこに集まった人々は尋常な者たちではなかった。
身に着けている物がすべて億の価値ではないかという風貌であった。

「驚いたぞ。昨夜、急に開催の連絡が入ったときは」
「しかも挑戦者が世界チャンプのヨシザワだというではないか」
「私は、ありとあらゆる予定を全てキャンセルしてきましたよ」
「ハハハ、俺もだ。決まっとる」
「見逃せる訳がなかろう。こんな贅沢なイベントを、のぅ」

彼らは口々に好き勝手言っていた。いずれもが裏社会に名を轟かす名士達である。
寺田は、この様な者達を相手にのしあがってきたのだ。

「ご承知のとおり、本日の対戦はコロシアム創立以来、最高のカードです。
我等が誇る無敗のチャンピオンに、挑むはご存知、表社会のチャンピオン!
 UFAボクシング世界ヘビー級王者、吉澤ひとみ!」

舞台調に寺田が名士達の気持ちを高ぶらせる。
この一戦で何十億、ヘタすれば何百億という金が動くのだ。
声のトーンを落とし、寺田は続けて囁く。この上なく闇に満ちた表情で…。

「さらに、本日は、特別な趣向もご用意しております…」

263 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:02 ID:XVy7uQ9m
「レディースアンドジェントルマン、ようこそおいで下さいました。皆様」

コロシアムのマスター寺田の挨拶。
そこに集まった人々は尋常な者たちではなかった。
身に着けている物がすべて億の価値ではないかという風貌であった。

「驚いたぞ。昨夜、急に開催の連絡が入ったときは」
「しかも挑戦者が世界チャンプのヨシザワだというではないか」
「私は、ありとあらゆる予定を全てキャンセルしてきましたよ」
「ハハハ、俺もだ。決まっとる」
「見逃せる訳がなかろう。こんな贅沢なイベントを、のぅ」

彼らは口々に好き勝手言っていた。いずれもが裏社会に名を轟かす名士達である。
寺田は、この様な者達を相手にのしあがってきたのだ。

「ご承知のとおり、本日の対戦はコロシアム創立以来、最高のカードです。
我等が誇る無敗のチャンピオンに、挑むはご存知、表社会のチャンピオン!
 UFAボクシング世界ヘビー級王者、吉澤ひとみ!」

舞台調に寺田が名士達の気持ちを高ぶらせる。
この一戦で何十億、ヘタすれば何百億という金が動くのだ。
声のトーンを落とし、寺田は続けて囁く。この上なく闇に満ちた表情で…。

「さらに、本日は、特別な趣向もご用意しております…」

264 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:05 ID:XVy7uQ9m
床は固い土で覆われている円形の闘技場であった。
壁はすべて灰色のコンクリート、天井はかなり高い。
2階部にガラス張りの窓がある。こちら側からは向こうが見えない。
向こうからはこちらが見えていて、悪質な金持ちどもが笑っているのかもしれなかった。
だが吉澤にとってそれはたいした問題ではなかった。
問題は「対戦相手を倒して石川梨華を救う」の一点のみ。
(どんな化け物か知らねぇけど。かかってこいよチャンピオン)

反対側の扉が開いた。
静かに、そいつはやってきた。
頭部は白いマスクで覆われ、体全体は白いタイツの様なものに包まれていた。
体のラインがありありと見て取れる。
胸の部分が僅かに膨らんでいた。
(こいつがチャンピオン!…女か)
細い。腕も、足も、腰も、首も、あらゆる部分が細かった。
だがそれは弱々しい細さではない。
硬い針金を幾重にも絡めた上に完成する様な、絞りぬかれた細さであった。
白いマスクが、じっとこちらを見ていた。
吉澤も黒いマスクの中で、白いマスクを睨んだ。
二人とも言葉を一切発さない。
(なるほど…人間を相手にしてる様な気にならねえ)

二つの扉が同時に閉まる。
もう逃げ場はない。この狭い空間にただ、二人きり。
そしてこれがコロシアム、始まりの合図でもあった。

265 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:06 ID:XVy7uQ9m
>>234
応援ありがとうございます。キッズは今のところ登場の予定ないです。

>>235
辻は準決勝がかなり熱いことになると思います。
その相手はかつての上司石黒か?それともあの娘か?

>>236
海外出張ですか。大変ですね。体に気をつけて頑張って下さい。
帰国して、まだこの小説を覚えていて続き読んでもらえたら幸いです。

>>242
メカあいぼん。はるか昔のボツキャラをよくも引っ張り出してくれおったわ、小童。
加護といえばブレーメン(・∀・)イイ!やわらかい関西弁がかわいい。

>>244
どういう役で登場させるか熟考してる内に機会を失くしてしまって。
イイコナノニネ(  `◇´)

>>246
男塾、好きでよく読んでました。羅刹といえば腕一本無くなっても「かすり傷」

>>248
確かに今の所、設定を活かしきれてないですね。反省。
でもガキさんはまだ出番あります。あの人がらみで。

266 :名無し募集中。。。:04/03/10 23:28 ID:oqWNiSre
あーあ・・・ののたん・・・

267 :名無し募集中。。。:04/03/11 00:28 ID:lifFfwyV
とうとう石川VS.吉澤か…

268 :名無し募集中。。。:04/03/11 11:02 ID:0hqtKpMz
辻豆さん乙です
やっぱりこの感じだと石川VS.吉澤になりそうですね
吉澤がこれから何を思いどう動くのか楽しみです

269 :名無し募集中。。。 :04/03/12 03:06 ID:eogjA77g
やっぱり石川?


270 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:28 ID:e3NyLGHl
吉澤は構えた。柔術の構えだ。
相手の情報が何もない。空手か?柔道か?ボクシングか?レスリングか?
どんな格闘技を用いるのか?それとも格闘技ですらないのか?
何一つわからない相手だ。
しかしそれは向こうも同じである。迂闊に手の内は晒さない。
自分がボクサーであることを悟らせない。
それを知るか知らぬかにより、駆け引きに大きな差が生じる。
吉澤がボクシングの次に知っている格闘技は柔術だった。
身近に市井紗耶香、後藤真希という柔術の達人が揃っている。
最近では高橋愛という若き天才柔術家と拳を交えたこともある。
だから柔術の構えだ。
はっきりいって、その辺のヘボ柔術家よりは使える。

スッ…

白いマスクのチャンプオンは、拳を握り軽く腰を落とした。
デタラメな構えだった。まるで素人だ。
いや、それも敵をだます為の作戦かもしれない。信用してはいけない。

ジリッ…ジリッ…

少しずつ、少しずつ、間合いを縮めてゆく。
歯につくような緊張感だ。
(たまんねえな)
吉澤の口元に、ぞくぞくするような笑みが浮かび上がっていた。

271 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:29 ID:e3NyLGHl
白いマスクが動いた。前に出てきた。
何の予備動作も、フェイントも、無い。まっすぐに向かってきた。
細く白い腕がまっすぐに伸びてきた。
(これは…)
物凄い速さであった。白いストレートが黒いマスクをかすめた。
(まるでボクシング…)
考えると同時に吉澤の体が動いていた。本能が動かせたのだ。
カウンター気味のストレートを放つ。
手応えがあった!…と思う間も無く、どぎつい衝撃が走った。
白い膝が、すごい勢いで吉澤の股の間を打ち抜いたのだ。
カウンターをもらったチャンピオンが後ろへ飛ぶ。急所への膝蹴りで吉澤が腰をかがめる。
一瞬、間合いが空いた。
(男だったら死んでるぜ…)
女の自分でもこれだけ痛い。だが痛がっている暇はなかった。
チャンピオンはすぐにまた向かってきた。
今度もボクシング流の右ストレート。
(コノヤロ、殴り合いで勝てると思ってんのか!)
いや違った。それはパンチではない。チャンプオンの白い拳から二本の指が伸びていた。
白い二本の指が凄い速さで、黒いマスクの二つの穴に走る。
黒いマスクの二つの穴にあるもの、吉澤の両目。
目突き!
カッと熱くなった。吉澤の胸にある何かが燃え上がった。

「うらぁ!!!」

272 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:30 ID:e3NyLGHl
信じられない女であった。
コロシアムのマスターである寺田も。
豪華な観覧席でその戦いを見下ろす金持ち達も。
モニターで眺めていたアヤカも。
実際に目突きを放ったチャンピオンでさえも。
誰の予想も超えたことをその女――吉澤ひとみはやった。

向かってくる目突きに対して、顔を背けるどころか、逆に顔を突っ込んだのである。
そのせいで目測のずれた二本の指が、吉澤の頬に当たる。
勇気と呼ぶか、無謀と呼ぶか、信じられない回避方法であった。
さらに吉澤は止まらない。
頬に当たった指を押しのけて、さらに頭を前へもってゆく。

グシャ!!

吉澤の頭部が、チャンピオンの白いマスクにめり込んだ。
頭突き。
シンプルかつ強烈な一撃に、チャンピオンが揺らぐ。
顔を上げた吉澤はニィっと野獣の様な笑みを浮かべた。
もう遠慮はいらない。隠す必要も無い。

「決めるぜ」

頭突きのダメージでガードもままならぬ白いマスクに向けて、
ついに、世界一の右ストレートが炸裂した!

273 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:31 ID:e3NyLGHl
チャンピオンの白いマスクに内側から血が滲む。
そこへもう一発、左フックを叩き込む。
(完全に決める!)
うなり声すら聞こえるようなアッパーカットが、チャンピオンのアゴを叩き上げる。
吉澤はチャンピオンの顔だけを集中して狙った。
(終わらせる!)
膝をついたチャンピオンの顔面に向けて、世界を制した左ストレート!
まさに凶器であった。鼻の骨が砕ける感触が拳に残った。
マスクを紅き血糊にぬらし、チャンピオンが地に落ちた。
吉澤は、その拳でガッツポーズを作る。
(勝った!)

ガシィ!

足首に違和感。…思った瞬間、吉澤はひっくり倒された。
血に塗れた白いマスクが、足首を掴んで立ち上がっていたのだ。
(嘘っ!あれだけ殴ったのに…)
不気味であった。感情がまるで感じられない。吉澤は背筋に冷たいものを感じる。
まぎれもない―――恐怖であった。
仰向けになった吉澤に向かって、チャンピオンが馬乗りになってくる。
(まずい…)
信じられない程のラッシュが、吉澤の頭上に降り落ちてきた。
両腕で頭部を庇うも、何発かは間をすり抜けてヒットする。
ラッシュの終わりを待つも、一向にその気配が来ない。
徐々に吉澤へダメージが蓄積されてゆく。

274 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:32 ID:e3NyLGHl
強い。
吉澤は心底思った。
こいつは強い。
勝てない、とも思った。
殺さないように加減をしていたら、勝てないと。
だが、勝たなければいけない。
勝たなければ梨華ちゃんを助けることができない。
殺したくは無い。そういうことを平気でできる奴が一番嫌いだったはずだ。
だが、殺すくらいの気持ちでやらなければ、勝てない。
こいつは私を殺す気で来ている。それが痛いくらいわかる。事実、痛い。
さっきから死ぬ程、痛い。なんというラッシュだ。
私のパンチをあれだけまともに受けて、よくもこんなに動けるものだ。
そりゃ動くよな、殺らなきゃ殺られるんだ。
いいのか?
殺すくらいの気持ちで、私もこいつを殴ってしまって。
構わない。
そういうことを平気でできる奴…になってもいい。
それで勝てるのならば、いい。
梨華ちゃんを救うことができるのならば。
こいつを殺してもいい。
私が私を嫌いになっても、構わない!
さぁ、行け、ひとみ。
こいつを殺せ。

275 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:33 ID:e3NyLGHl
チャンピオンの怒涛のラッシュを浴びながら、それは起き上がった。
黒いマスクが…血でビショビショになっている。
その黒いマスクの中から、不気味な咆哮が響いた。

獣の戦いが始まった。

白いマスクが黒いマスクを殴り続ける。
黒いマスクが白いマスクを殴り続ける。
四本の拳が幾度も交わり、離れ、交わり、離れ、交わり、離れた。
どちらも引かなかった。
テクニックも、スピードも、駆け引きも、何も無い。
ただの殴り合いだ。
どちらが先に相手を潰すか?
どちらが先に相手を殺すか?
それだけであった。そんな殴り合いが延々と続いた。
どちらも引かない。胸が痛くなる程、引こうとしない。
マスクの下がどんなことになっているのか、想像したくなかった。
黒いマスクが再び吼えた。
なんと叫んだのかは聞き取れない。石川梨華の名を叫んだのかもしれなかった。
黒いマスクの勢いが増した。信じられない体力だった。
白いマスクが徐々に下がってゆく。
黒いマスクが吼え続けた。
白いマスクの膝が落ちた。
黒いマスクはひたすらに殴った。殴り続けた。吼えながら殴り続けた。
白いマスクの背中が地べたについた。そして、動きが止まった。

276 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:39 ID:e3NyLGHl
どうだ!どうだ!どうだ!
これでもか!これでもか!これでもか!
黒いマスクは倒れた白いマスクの上に馬乗りになった。
俗にマウントポジションと呼ばれる体勢だ。
そして、白いマスクの顔面に向けて、その拳をさらに叩き込んだ。
何発も!何発も!何発も!何発も!
検討がつかない。
どれだけ殴れば勝つのか?
どれだけ殴っても、また起き上がってくるような気がした。
お願いだから、もう起きないでくれ。そう願っていた。願いながら殴り続けた。
自分の血と白いマスクの血で、拳がグショグショになっていた。
誰かもう止めてくれ。そんな風にも願った。
普通の試合ならば、とっくにレフリィーが止めてくれる。
だが、ここには誰もいない。止めてくれる者は存在しない。
自分とこの白いマスクの二人きりだ。
二人きりで殴り合っているのだ。
いや、今はもう殴り合いじゃない。
黒いマスクが一方的に白いマスクを殴り続けているのだ。
起きるな。起きるな。起きるな。起きるな。起きるな。
止めてくれ。止めてくれ。止めてくれ。止めてくれ。止めてくれ。
願いながら、殴り続けた。
涙がこぼれていた。
泣いているのは黒いマスクであった。
涙をこぼしながら、拳をふるい続けた。
それは、あまりにも悲しすぎる光景であった。

277 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:46 ID:fWXbyl1j
「ハアッ…ハァ…ハア…ハァァ…」

遂に、黒いマスクは動きを止めた。
そして自分の拳を見た。血にぬれていた。
(私が私を嫌いになっても…)
ゆっくりと立ち上がった。もう涙は止まっていた。

白いマスクは微動だにしない。
生きているのか、死んでいるのかもわからない。
彼女が何を想って、何の為に戦い、何を目指していたかもわからない。
もう、その全てを潰した。

「もう…いい…」

吉澤ひとみは静かに首を横に振り、その場に立ち尽くした。
コロシアムに静寂が舞い込んだ。

ピクッ…

ピクッとそれが動いた。
指であった。
白いマスクが赤い血にそまって、桃色に変色していた。
桃色の指がまた…ピクッと動いた。

278 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/12 19:48 ID:fWXbyl1j
今日はここまでです。
なんか凄いものを書いてしまった。

279 :名無し募集中。。。.:04/03/12 20:55 ID:jg6T/nI+
お疲れ様です。
自分が感受性の強い子じゃなくて良かったです。

280 :名無し募集中。。。:04/03/13 09:09 ID:UW16b2aC
辻豆さん乙です
チャンピオンはまだ立ちあがるんですかね
楽しみに待ってます

281 :名無し募集中。。。:04/03/13 20:12 ID:/1X7g4G1
吉澤が勝ってもこのダメージじゃトーナメントは無理っぽいなあ
そこまで藤本は甘くなさそうだ

282 :名無し募集中。。。:04/03/14 02:53 ID:HG9JVout
うん・・・これで藤本に勝っちゃったら・・・・なんか・・

283 :名無し募集中。。。 :04/03/14 05:20 ID:4XCvWpa6
殺す気で相手と戦う事を覚えた吉澤が、試合をしようとする藤本に負けるかな?
っていうか、今回はグロかった。マスクって表現が・・・。うむむ。

284 :名無し募集中。。。:04/03/14 10:20 ID:HG9JVout
いや・・・それじゃあ・・
まあ設定上なっちの強さをもっと引き出す為にも、藤本ってのが重要なんじゃ・・

285 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:09 ID:JBwm9xwC

一回戦第二試合

石黒彩(ハロープロレス)27歳



高橋愛(高橋流柔術)19歳

286 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:10 ID:JBwm9xwC
「何故、自分なんでしょうか?」

石黒を問い詰めているのは、ハロープロレスのデビルお豆こと新垣里沙。
ヒールレスラーだ。
傍若無人に暴れ周ったあげく、スター選手にやられることで場を盛り上げる役回りだ。
ただの一度も、勝利したことのないプロレスラーだ。
そんな彼女が数ヶ月前、社長推薦で入団してきた辻希美の教育係に任命された。
その辻と組んで、ハロープロレスのエースコンビ、ソニン・松浦と試合った。
結果は、当たり前だが負けた。
新垣はそこで松浦に足の骨を折られ、辻は社長に逆らい退団になった。
その後、辻は夏美会館に移籍した。
しかし新垣は辻に、とても大事なことを教わった。
『勝利への意思』である。
その意思を受け、たった一度ではあるが、あの松浦亜弥からダウンを奪ったのである。
勝ちたい、と新垣は思うようになった。
その想いでこの数ヶ月リハビリに励んだ。右足にはまだ痛々しいギブスが付いている。

「社長命令だ。セコンドは新垣ってな」

石黒彩からの返事はそれだけだった。
リハビリ中に突然呼び出され、セコンドをしろと言われたのだ。
しかもこんな大事な大会でだ。

「ソニンさんとか、松浦とか、他にも私よりイイ選手はいっぱいいるじゃないですか!」
「つべこべ言うな!行くぞ」

287 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:10 ID:JBwm9xwC
問答無用で石黒は立ち上がり、歩き出す。
新垣は慌てて後に続く。片足のギブスを引きずりながら。

「私なんかがセコンドやったら…縁起悪いのに…」

小声でぼやく。
通路の向こうからは、大観衆の声援が地鳴りのように響いてくる。
(私は一生かかっても、こんなステージには立てねえだろうな)
気が付くと石黒は立ち止まり、顔だけこちらに向けていた。

「よぅく見ておけよ。ハロープロレスの戦いぶりを」
「は、はい!そりゃ、もちろん」

前をゆく石黒の背中が、ひどく大きく頼もしいものに映った。
新垣はまだ理解できていなかった。
社長や副社長が、こんな大事な場にどうして自分を来させたのか。何を見せたいのか。
(1回戦はあんまり聞いたことねえ奴だったな…)
(でもそれに勝ったら、次はアイツ…)
新垣はかつての教え子のことを思った。
あの奇跡を垣間見て、もう自分とは違う世界に行ったのかと寂しくなった。
ウズッ…
まだ気づいていなかった。
辻希美のことを思うと、胸が妙にくすぶられること。
あんな風に輝けるはずがないという固定観念が、新垣にその想いを気付かせずにいた。
闘いたい…という本能。

288 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:11 ID:JBwm9xwC
「拳にヒビが入ってるって、あの子」
「…」

医務室から主催者特別席に戻ると、なっちは隣に座る藤本にそう言った。
藤本は無言でなっちを睨むと、何も言わず顔を戻した。

「でも、あの子は出る気マンマン」
「いいんじゃねえの。好きにさせりゃ」
「ん〜」
「それで戦えなくなるなら、そこまでの奴ってこった」
「冷たいのね」
「悪かったな」
「まだ機嫌悪いんだ。吉澤ひとみが来ないから?」
「別に。気にしてねえよ」

と言う藤本の足元には、捻り潰された空き缶がいくつも転がっていた。
(…相当、気にしてるみたいだべ)
会場が沸いた。派手なレスリングコスチュームを纏った石黒が入場してきたのだ。

「なっちさんよぉ。どっちが勝つと思う?」
「この試合?石黒」
「バカに即答じゃねえか」
「Aブロックでは彼女が頭一つ抜けてるもん」

289 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:11 ID:JBwm9xwC
Aブロック。辻、柴田、石黒、高橋のブロックのことである。
この4人の中では石黒の実力が群を抜いていると安倍なつみは言うのだ。

「なんだ?こっちからは辻が上がるって言ってなかったけ?」
「それは奇跡が起きたらって話よ」
「順当にいけば石黒か。まぁそうだろうな」
「ジョンソン飯田の影に隠れがちで、いまいち注目されてないけど
その実力は間違いなくトップクラス。強いよ」
「へぇ」

また、会場が沸いた。反対側から高橋愛が飛び出してきたのだ。
安倍なつみの表情が変わる。普段の笑みとは似つかぬ、冷たい刺すような視線だ。
それを藤本が横目に見る。
(他にいねーよな。安倍なつみがここまで敵意むける奴はよ)
(前の大会で紺野を負かして、自分の計画を潰した張本人だからか知らねえけどよ…)
(もし万が一、高橋が石黒を負かすようなことになったら、おもしれえかもしれねえな)

リング上で高橋愛と石黒彩が顔を見合わせる。
石黒の身長が約160cm。高橋の身長が約150cm。そこに10cm近い差がある。
体重も、放たれる威圧感も、石黒がはるかに大きい。

「石黒さん。手加減抜きでお願いしますね」

屈託のない笑みで話しかける愛に、石黒はまるで反応を示さない。
いつも優しいお姉さんだったことが、まるで嘘のようだ。

290 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:12 ID:JBwm9xwC
「お前では、私には勝てない」

ふいに、石黒が口を開き、そう言い放った。
愛は目を丸くする。過去の思い出が頭をよぎる。
「愛ちゃん、いいねぇ。高校出たらうちに来ないか?」
「愛ちゃんはどうなん?亜弥と闘る気はあるか?あるなら私が立ち会ってもいいぜぃ」
道場で一緒に稽古したり、時には悩み相談に乗ってくれたり、お姉さん的存在だった。
だけど今は「愛ちゃん」ではなく「お前」である。
道場のお姉さんではなく、石黒彩というプロレスラー、一人の対戦相手なのだ。

「それを証明してやる」

スッと石黒が腰を落とした。
愛はニコッと微笑み、高橋流の構えをとった。
(嬉しいの。石黒さんが私を敵として認めてくれたんやわ)

「今日、あなたを越えます」

愛が言う。
石黒は一瞬だけ表情を崩し、また元の仏頂面に戻った。
静寂が流れた。
石黒のセコンド、新垣は胸に手を当ててその戦いを凝視する。
高橋のセコンド、紺野はじっと黙って見守る。
そして試合開始の鐘が鳴った。

291 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:22 ID:JBwm9xwC
石黒が前に出て、左右のジャブを放つ。
ボクサーとして十分通用するほど見事なコンビネーションであった。
愛はそれを首だけで避ける。彼女にはこんなもの通用しない。
今度は愛が足を出した。石黒は咄嗟にガードを固める。

パパパン!

石黒の大きな体が、後ろにのめった。
観客席から思わずため息が漏れる。
風が流れる様な見事な三連蹴りだったのだ。
柴田の蹴りも速かったが、愛のスピードはその上をいっていた。
正月に行われた18歳以下トーナメント時の高橋愛とは比べ物にならない。

「速えな」

藤本は素直に呟いた。
隣で安倍なつみが僅かに眉をしかめる。
そんな安倍を見ながら、藤本は思った。
(石黒や矢口の様に、その強さが完成されている奴は確かに脅威だ)
(だけど、それ以上に恐ろしいのは、まだ完成されていない成長し続ける存在)
安倍なつみがもっとも恐れる者…
(もしかするとあの…高橋愛ってガキかもしれねえな)

第16話「もっとも恐れる者」終わり

292 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/14 14:23 ID:JBwm9xwC
次回予告

その身に大きな看板を背負い、敗北の許されぬプロレスラー。
親友と交わした夢を追い、成長し続ける天才柔術家。
二人の戦いは熾烈を極める。

激闘のさなか、愛は石黒の口から衝撃の事実を聞かされる。

「松浦亜弥は…死んだ」

To be continued

293 :名無し募集中。。。:04/03/14 14:43 ID:D7f9bDK8
リアル更新キター
辻豆さん乙です
意味深な次回予告ですね
楽しみに待っているので頑張ってください

294 :名無し募集中。。。:04/03/14 20:51 ID:H3ujtUth
あややがチャンピオンに3ノノタン

295 :名無し募集中。。。:04/03/14 21:43 ID:HG9JVout
それをしてしまったら、もう興醒めっていうか話ぶち壊しに88ノノタン

296 :名無し募集中。。。:04/03/15 00:00 ID:8fmDoQMo
いや、むしろワクワクするに6ノノタン

297 :名無し募集中。。。:04/03/15 05:45 ID:GtJHwTHv
「桃色」って表現が気になるですね
それに丁度、本大会でも あややの話に触れるっぽいし

298 :名無し募集中。。。:04/03/15 13:11 ID:x+1LbuCL
松浦がチャンプだと時間軸が合わない
石川を組織がさらう理由もよくわからなくなる

というわけでやっぱり石川チャンプルーに100ノノタン

299 :名無し募集中。。。:04/03/15 15:32 ID:8fmDoQMo
ノノタンのリザーバーにぁゃゃっていう線はないか?

300 :名無し募集中。。。:04/03/15 17:30 ID:MC457hBc
実は全部夢の中の出来事だったに100キメンフラッシュ

301 :名無し募集中。。。:04/03/15 19:48 ID:rAaOhP0L
だって、あややもう死んでるんだから、復活はないよ。これで復活させたらもうぶち壊しの9878ノノタン

302 :名無し募集中。。。:04/03/15 20:26 ID:eveUEFqK
そんな議論はイラナイに777ノノタン

303 :名無し募集中。。。:04/03/15 20:59 ID:rAaOhP0L
いや!あってもいいんじゃないか。に1ノノタン。

304 :ねぇ、名乗って:04/03/15 23:58 ID:OV0tSCXr
ぁゃゃは死んでないに77ノノタン


305 :名無し募集中。。。:04/03/16 01:21 ID:OVAtc/Lf
辻豆たんが(・∀・)ニヤニヤしながら見てるに4714ノノタン

306 :名無し募集中。。。:04/03/16 05:19 ID:6/PUy2UM
むしろ、あそこであややが死んだと思うのがオカシイに8ノノタン

307 :名無し募集中。。。:04/03/16 12:58 ID:x5RrGTaI
なっちが暴れて全員皆殺しに1000ノノタン

308 :名無し募集中。。。:04/03/16 13:34 ID:r4luY7BP
あややは生きてるんだろうが
あれから→地下チャンプ→組織が吉澤にぶつける
は時間経過が短すぎてご都合よろしすぎなので
ナイナイに99ノノタン

309 :名無し募集中。。。:04/03/16 15:02 ID:uwukRbe+
レッスルマニアXXでぁゃゃ復活

310 :名無し募集中。。。:04/03/16 17:46 ID:db4EQcUv
前スレ>386での辻豆さんの発言

>死人を出す気はありません。
>あ、でもそれに近い状態になる予定の人はいるなぁ。

裕子を指す言葉であることを祈るが…
全スレ見ると色々なヒントがありますなぁ

311 :ヘンな物作ってごめんなさい:04/03/16 20:27 ID:OVAtc/Lf
チャンピオンはあややなの?

├―あややだよ派>>294
|  ├―わくわくするよ派(孫悟空派)>296
|  ├―「桃色」って書いてあるよ派
|  │  └―本大会でも触れるよ派>297
|  ├―死んでないよ派>304
|  │  └―死んだと思うのがオカシイよ派>306
|  ├―前スレ386で辻豆が発言してるよ派>310
|  └―レッスルマニアXXで復活だよ派(WWE派)>309

├─あややじゃないよ派
|  ├―あ(ryだとぶち壊しだよ派>295
|  ├―時間軸が合わないよ派
|  │  ├―石川をさらう理由がわからないよ派>298
|  │  └―ご都合よろしくすぎるよ派>308
|  ├―あ(ryはののたんのリザーバーだよ派>299
|  └―あ(ryは死んでるよ派>301

└―どっちでもないよ派
    ├―全部夢の中の出来事だよ派(夢オチ派)>300
    └―なっちが暴れて全員皆殺しだよ派>307

議論っているの?

├―議論はいらないよ派>302
├―議論はあってもいいよ派>303
└―辻豆が(・∀・)ニヤニヤしながら見てるよ派>305

312 :名無し募集中。。。:04/03/16 20:36 ID:x5RrGTaI
皆殺しだよ派に加入

313 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/16 21:02 ID:tSD9Zpgc
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~ニヤニヤ


314 :名無し募集中。。。:04/03/16 22:47 ID:x5RrGTaI
(・∀・)ニヤニヤだったのかーーーーーーーーーー

315 :名無し募集中。。。:04/03/17 00:16 ID:2788m9+p
なっちが暴れて全員皆殺しだよ派
に俺もいれてくれ

316 :名無し募集中。。。:04/03/17 00:39 ID:cskXHbNr
サマーパーティで帰ってくるよ派を提唱しますです

317 :名無し募集中。。。:04/03/17 01:15 ID:iekgPk7c
やっぱ、皆殺しでしょう。

318 :名無し募集中。。。:04/03/17 03:49 ID:8gfGuPuY
そういや、前回もあややは死んだなあ。ハマと戦って。
いつも不憫なやっちゃ。

319 :ねぇ、名乗って:04/03/17 19:00 ID:xqe1C0iV
マジレスすると
チャンプは加護だろ?

320 :名無し募集中。。。:04/03/17 19:44 ID:iekgPk7c
そうかも、それでなっちが皆殺し

321 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/17 23:42 ID:0NXvK/TS
第17話「主人公じゃない」

まるで分厚いタイヤに蹴りこんだ感触。
愛は思った。そしてもう一度、蹴った。凄い速さの回し蹴りだ。
パァンという小気味よい音を立てて、その回し蹴りはヒットした。
蹴った本人が思った。
効いていない!
ガードを固めながらジワジワ、ジワジワと石黒が距離を詰めてくる。
(これが本気のプロレスラーかぁ)
石黒とは道場で、組手をしたことはあるが、それはあくまで柔術練習生の石黒だ。
本気のプロレスラーとしての石黒と試合うのは、当然初めてのことだった。

「えやっ!」

気合を込めて、直突きを放つ。
それは石黒のガードに阻まれる。計算のうちだ。
愛の本当の狙いは石黒のガードを上げさせることにあった。
ズンッという衝撃が石黒の脇腹に入る。
愛のミドルキックが直撃したのだ。石黒はその足を捕らえようとした。
次の瞬間、下方から石黒の顔面目掛けてナニカが凄い速度でせり上がってきた。
右のミドルキックとまるで十字を切るように、左足が下から飛び上がってきたのだ。

ラブ・クロス!

メロンの柴田あゆみを粉砕した必殺技が、石黒の顔面に直撃した。

322 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/17 23:44 ID:0NXvK/TS
「尻がよかね」
「イヤン。れいなってそういう趣味なの。不潔」

両腕で自分のお尻を隠そうとする道重にむけて、田中の頭突きがヒットした。
脳天を押さえて屈み込む道重を田中は鋭い目つきで睨む。

「バカか。あの柔術使いの話たい」

言われて道重は、柵の隙間から試合場に立つ高橋愛を見下ろした。
二人は観客席の最上段通路で、第一試合からずっと観戦を続けていたのだ。
田中はTシャツに短パン、道重は黄色のワンピースというごく普通の私服姿だった。
二人とも、みずみずしい太ももを惜しげもなくさらけ出している。
傍から見たら、とても選手とそのセコンドには見えなかった。

「そっかぁ、れいなは尻フェチなんだね」

ゴツン!と田中の頭突きがまた道重の脳天を打った。

「あの尻がキックのバランスとスピードを支えとるって話ばい。
 あそこまで良か尻は滅多にお目にかかれなかとよ」
「やっぱり尻フェ…」
「あ?」
「エヘヘヘ〜。じゃあ、れいなは柔術の子が勝つと思うの?」
「…さぁね」

323 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/18 00:06 ID:MMamXvsf
(いくら石黒さんでも、これは効いたやろ)
ところが、前転で間合いをとった愛は、石黒の表情を見て驚いた。
痛そうな顔の代わりに、薄気味悪い笑みを浮かべていたのだ。
(まさか!ラブ・クロスが全然効いてないってゆうんか?)
(そんなはずない!)
もう一度、蹴り込んだ。動揺のせいか、その蹴りが甘く入ってしまった。
そこを石黒は見逃さなかった。
左腕と脇腹でガシィと愛の右足を掴み取ったのだ。
そのまま体重をかけて一気に、押し倒した。

「うらっ!!」
「あっ!」

リング中央に二人はもつれあって倒れた。石黒は愛の右足を掴んだままだ。
単純なパワーの差は歴然としていた。石黒はパワーで有利なポジションを作り出す。
愛は掴まれた右足と、もう一方の左足で石黒の腰を挟み、ガードポジションをとる。
二人の動きが止まった。
石黒が上で、愛が下になっている。
だが単純に上が有利であるとは限らない。
高橋流柔術には寝技のバリエーションも数多くある。
下から相手の間接を取る方法はいくらでもあるということだ。
石黒は上から愛の腕を押さえに入った。愛は体をひねって逃げようとする。
逃げる愛の肩を石黒は上から押さえつけた。

「無駄だ」

324 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/18 00:50 ID:FGq09ejN
石黒は上から愛の顔を叩き始めた。
この体勢からのパンチはダメージよりも、相手にスキを出させる為のものだ。
愛は嫌がって顔をそむける。そこへ石黒はつけ込んだ。
パワーで強引にマウントポジションを取りに入った。
その瞬間を愛も狙っていた。
下半身を一気に押し上げ、石黒の肩を挟みに入った!
高橋流柔術の関節技の一つ『浮桜』の変則形である。

カクン。

ふいに、掴んだ腕の力が抜ける。
石黒は高橋流を学び、高橋流の関節技を知っている。
つまり、その外し方も知っているということである。
愛はそのことを失念していた。
逆に、組み付かれたのは愛の方であった。
石黒は愛の知らない間接の取り方で攻めてきた。プロレスの関節技だ。
後ろをとられた。逃げようとしても、力でねじ込まれ逃げ切れない。
二人はうつ伏せに重なった。
やはり石黒が上で、愛が下である。
しかし、今度は誰がどう見ても上が有利な状況だった。
石黒の太い腕が愛の首に巻きつく。愛は右手を間に入れ、耐える。
この腕で首を完全に絞められたら、それで勝負ありだ。
ギブアップをするか、気を失うかのどちらかである。
それも時間の問題であった。
単純なパワーの差が歴然なのだから。

325 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/18 00:51 ID:FGq09ejN
「お前が勝てないと言った理由、分かっただろう」

腕で首を絞めながら、石黒が愛にささやき掛けた。

「立ち技の場合、お前の攻撃力ではプロレスで鍛えた私を倒すことはできない」
「ングッ…」
「寝技でも。高橋流を知り腕力も上の私が負けることはない」
「ンギギッ…」
「お前に勝てる要素はない。わかったら、ギブアッップしろ」

言い終わると石黒は腕の力を強めた。
愛は必死でこらえる。

「…ズ、ズルガァ…」
「強情もほどほどにしろっ!首の骨がイカれるぞ!」
「ヤ、ヤダ…」
「諦めろ!愛ちゃんはまだ若い。これから、いくらだってチャンスはある」

石黒は声を荒げた。
「お前」ではなく「愛ちゃん」と呼んだ。
本音を言えば、ここで高橋愛を傷つけたくなかった。
彼女の才能を誰より買っていたのが、他でもない石黒である。
しかし愛はギブアップしない。かたくなに歯を食いしばり続けた。

「ヤグゾク…ジタンラ…亜弥ド」

326 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/18 00:52 ID:FGq09ejN
辻希美は控え室で、同じ夏美会館の先輩である木村あさみのマッサージを受けていた。
準決勝までに少しでも疲労を回復する為である。
石黒と高橋の試合は、小型テレビで眺めていた。

「どうやら石黒のようだな。かなり厄介な相手だぞ」

マッサージしながら、木村あさみが言った。
部屋には辻と木村以外に、セコンド役の斉藤美海もいる。
壁に寄りかかってテレビを見ていた彼女はチッと小さく舌打ちした。

「不機嫌そうだな、みうな。高橋に勝ってほしかったのか」
「ち、違いますわ木村さん。ただ…あの子は、夏美会館の手で倒したかった…。
 ハロープロレスにもってかれるのが悔しいだけですわ」

斉藤美海は半年前、18歳以下トーナメントの一回戦で高橋愛に破れている。
それ以来、倒すべき相手として因縁付けた相手でもある。
自分に勝った者が他人に負ける姿を見るというのは、あまり気持ちのいいものじゃない。

「辻はどっちに勝ってほしかった?」
「う〜ん。強いほう」
「じゃあ、お前の希望通りだぞ」
「うん…」

拳をグーパーと握り、広げ、その感触を確かめる。
真剣な面持ちで、辻は再びテレビに映る二人を見比べた。

327 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/18 00:54 ID:FGq09ejN
ボコォ!ボコォ!

リング上に拳が肉を叩く音が聞こえた。
石黒が、愛の首を絞めているのと反対の腕で、愛のわき腹を叩き始めたのだ。
うつ伏せで締め付けられた状態の愛に、これを回避する術はなかった。
もがけばもがくほど、石黒の腕が首に食い込んでくる。

「松浦との約束?そんな状況か?ギブアップしろ」

石黒は顔を愛の耳元に近づけて、ささやいた。
しかし愛はテコでも降参しようとしない。石黒はもう一度、愛のわき腹を殴った。
痛みで肺から息がこぼれる。愛の呼吸音が変わってきた。

「お前も松浦も、何か勘違いしている。自分たちがなにか物語の主人公だとでも?」
「ンググ…」
「自分たちは負けるはずが無い。そんな風に思っているんじゃないか?」
「ギギ…」
「主人公じゃない。強い力の前には、負けるんだよ。お前も、松浦も」
「ウッ…ウッ…」
「事実、あいつはもう負けた」
「…!」
「松浦は負けたんだ。ジョンソン飯田にな。愛ちゃんの知ってる松浦はもう…いない」
「ウアア!ウアア!」
「松浦亜弥は…死んだ」
「!!!!!!!!!!!!!!」

328 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/18 00:57 ID:FGq09ejN
>>311
ちょっと笑いました。
色んな考えの人がいるもんだ。

>>312>>315>>317>>320
なっちに暴れてもらいたい人、結構いるみたいですね。
確かに立場的ものもあって、ここまでちょっと大人し過ぎたかなぁと思います。
大分先になりますけどトーナメントの後すぐ、二戦ほどなっちの戦い予定しております。
誰と誰が相手かは当然秘密ですけど。

さて、次の更新で石黒vs高橋戦は決着つきます。
そしていよいよアノヒトの出番です!

329 :名無し募集中。。。:04/03/18 01:55 ID:Mrbsi9cJ
よかった。石黒が勝ちそうで・・・高橋が勝っちゃったらどうしようかと思ったよ・・

330 :名無し募集中。。。:04/03/18 02:36 ID:jxqy7nCX
>>329
あまい・・・メープルシロップをかけたおしるこのように甘いよ


331 :ねぇ、名乗って:04/03/18 03:01 ID:3SC5IpyU
俺は愛ちゃんに勝って欲しいよ――――

332 :名無し募集中。。。:04/03/18 05:06 ID:DS/yicdu
なるほど、つまり松浦が死んだというのは、広島の前田が言った
「前田は死にました」みたいなもので、変わってしまったという事なんだね。
今ごろは飯田の下で猛特訓してるに100サユミン

333 :名無し募集中。。。:04/03/18 08:09 ID:Mrbsi9cJ
>>330
ええっ!勝っちゃうの?そうか・・・・まあ仕方ないか・・
なんかこの高橋って強いイメージっていうか、強くなるようなものが見えてこなくて・・
まあなっち皆殺しです。

334 :ねぇ、名乗って:04/03/18 16:30 ID:m+oyJdwE
ところで、プロローグの人は出てくるのでしょうか?

335 :ななしぺぷし:04/03/18 18:06 ID:xRBBeXHl
街れす、ハッピーエンド時代胸踊らせて読んでたものです
やっぱ辻豆さんのは引き込まれますなぁ

336 :名無し募集中。。。:04/03/19 15:37 ID:SRF+YrYm


337 :名無し募集中。。。:04/03/19 17:45 ID:skK28nwl
わかった!皆殺しだ!なっち皆殺しだ!

338 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:34 ID:2DhL5m5w
松浦も負けたのだからお前も負けていいんだ。
そうやって愛を説得するつもりで、石黒は言い放った。
だが言った後、愛の様子が急変した。体全体が小刻みに震えだした。
締め付ける喉元から、低いうなり声のようなものが聞こえだした。
(愛ちゃん…?)
そのとき!ナニカが後ろから石黒の耳を引っ張った!
最初石黒は、第三者がリングに上がり妨害したのだと思った。
振り返りそれが間違いであると気付く。

「足!」

恐ろしく柔軟な体をしていた。
うつ伏せで潰された体勢のまま、愛は体を海老のように反り、足の指で後ろから、
石黒の耳をつまみ引っ張ったのだ。そしてその指を短く尋常ならぬ速度で揺らした。

「指震」

セコンドの紺野が思わず唸った。
かつて自らが高橋愛と対戦した18歳以下トーナメントの準決勝。
絶対的窮地から高橋愛は左足一本で逆転勝利を収めた。その技だったのだ。
戦国の世に生まれ、磨きぬかれた戦闘術の奥義。
頭部を揺らすダメージは、肉体の強度に関わらず直接脳神経に響く。
石黒の意識が一瞬、ほんの一瞬であるが、飛んだ。
その一瞬を、闇に潜んだ武術が生みしこの天才は、見逃さない。
二人の体がグルンと入れ替わった。

339 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:35 ID:2DhL5m5w
(高橋流柔術を知っている)
(あまり大きな声で言わない方がいいですよ、石黒さん)
石黒の左腕を右手で掴んだまま、愛は彼女の背中に回りこみ、左手で首を掴む。
伸ばした右足を石黒の右手に絡め、そのまま仰向けに倒した。

「ぐあっ!」

石黒の口から低いうめき声が漏れた。
両腕を背中で交差させた状態で、石黒は倒されたのだ。
首と両腕が同時に締め付けられる。見たこともない関節技であった。
石黒だけではない。
セコンドの紺野と新垣も。控え室の辻と美海とあさみも。
田中と道重も。藤本も。安倍なつみですら。誰も知らぬ関節技であった。
笑みをこぼしたのは、福井でテレビ観戦していた愛の父と祖父だけであった。

「高橋流、獅花」

下から絞めるいくつもの腕や足が、獅子の牙や花びらに例えられたことから、
付けられたネーミングである。
高橋流にはこの技のように、代々の当主にしか継がぬ闇の技がいくつか存在した。
石黒やその他練習生に教えるのは、高橋流の基礎的技にすぎない。
もっとも、普通の世界ではそれで十分通用する。
当主自身もめったに使わぬ技なのである。
それを使用した。
松浦、敗北、死。それらのフレーズが高橋愛という天才を解放させてしまったのだ!

340 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:36 ID:2DhL5m5w
白いタオルを握り絞め、新垣里沙は震えていた。彼女が石黒彩のセコンドである。
ハロープロレスの戦いをよく見ておけ。そう言われた。
プロレスこそ地上最強の格闘技だ。新垣自身そう信じてきた。
自分は全然だが、飯田さんをはじめ、石黒さんや松浦など、絶対的に強い。
ヒールレスラーでも良い、勝てなくても良いと思っていた。
地上最強の格闘技プロレスに携わっていられるなら、それで良いと思っていた。
その信仰に近い感情が、目の前で壊されようとしている。
プロレスが、他の格闘技に負けようとしている。
タオルを握り締めた。
歯をギュッとかみ締めた。
新垣自身、わからない感情が胸に燃え上がっていた。

(嘘だ!嘘だ!嘘だ嘘だ!亜弥は負けない!亜弥は死なない!私だって!)
(ギブアップしてや!)
立場が入れ替わった。今度は愛が石黒にギブアップを願う。
体中がギシギシ音をたてる。
身長も体重もパワーもはるかに上回る相手との闘いは、体に相当な負担となっていた。
(これで決めなきゃ、もう勝てん)
愛はさらに力を込めた。
それでもこのプロレスラーは抵抗しようとする。
信じられなかった。
愛が祖父にこの技を教わったときは、あまりの苦しさに一秒でタップした。
プロレスラーという人種がいかに頑丈か知らないが、これに耐えられるとは思わなかった。
痛みを超えたところにある、信仰のようなものを感じた。
プロレスこそ最強である!と。

341 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:39 ID:2DhL5m5w
「うぬあぁぁぁ!!」

ゾクリと全身に悪寒が走り抜けた。
愛の背中が地から離れたのだ。石黒が起き上がろうとしている。
首と両腕の間接を決められた状態でだ。
(冗談やろ…)
ものすごいパワーであった。愛は必死で腕を押さえつける。
これじゃどっちが技をかけられているのか分からない、と思った。
ミリミリミリィ…という肉と骨の軋む音が石黒の体から聞こえてくる。
間違いなく効いているはずである。間違いなく痛いはずである。
なのに、石黒は立ち上がろうとする。
いや、すでに腰までが浮き上がっている。
愛は首を絞める腕の力を最大限にまで込めた。
すでに意識がなくなってもおかしくない程、締め付けているのだ。
(石黒さん!もう、もう辞め…)

ドンッ!!

リングに足を踏みつける音が響いた。
背中に高橋愛をおぶるような形で、石黒彩は立ち上がっていた。
その姿、まるで仁王像のようであった。
愛は泣き出したくなっていた。もう体力はほとんど無くなっていた。
それでも、間接を決め続けるしかないのである。
最後の力を振り絞ろうとした時、壇上に一人の女が上がってきた。
安倍なつみであった。

342 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:39 ID:2DhL5m5w
「もういい。腕を放してやれ」
「???」

愛は最初、安倍なつみが何を言っているのか理解できなかった。
それくらい必死だったのだ。

「とっくに、意識はなくなっている」

その台詞でようやく愛は気付いた。間接を外し地に降り立つ。
なんと、石黒は立ったまま意識を失っていた!
もしかすると意識を失いながら立ち上がったのかもしれなかった。
愛はその姿に、何とも言えず感動した。

「どう。プロレスラーってのは怖ぇだろう」

すぐ横で、安倍なつみが笑っていた。
温かい笑みではない、ひどく凶暴な笑みであった。

「あんたは、そいつに勝っちまったんだべ」

愛は小さく頷いた。今になって体が震えてきた。怖いのか…いや違う。

「次(準決勝)を…楽しみにしているべさ」

ポンと愛の肩を叩き、安倍は壇上を降りた。また震えた。ワクワクして、震えた。

343 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:40 ID:2DhL5m5w
『勝者!!高橋愛!!!!!!!!!』

そのコールを合図に、武道館を大歓声が埋め尽くす。
勝者である高橋愛に送られる声援と、
最後まで驚異的な闘争本能を見せ付けてくれたプロレスラー石黒彩に送られる声援だ。
リングサイドにいたハロープロレスの若手数人が、意識を失い立ち尽くす石黒に肩を貸す。
愛は石黒に声を掛けたかったが、できそうな雰囲気ではなかった。
このとき愛は気付かなかった。セコンドにいた小さな豆が凄い目つきで睨んでいたことに。
壇上をぐるりと回り歓声に応えると、セコンドの紺野あさ美の元へ戻った。

「たいした人です」
「ほんと、やっぱり石黒さんは凄かったわ」
「あなたのことですよ」
「ほぇ?」

それから二人は満面の笑みを浮かべて抱き合った。
ハロープロレスのNo2石黒を倒すというのは、想像以上にトンデモナイ偉業であった。
日本格闘技界の勢力図が、塗り替えられたのである。
紺野は今、心から愛を尊敬した。そしてさらに抱きしめた。
「うっ」と声を出し愛が苦痛に顔を歪める。最初は冗談でやっていると思った。
紺野は愛の脇腹のあたりをさわる。試合中、石黒に何度も叩かれた場所だ。
…紺野の顔色が変わった。

一回戦第二試合 勝者 高橋愛 5分54秒 KO

344 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:41 ID:2DhL5m5w
「奇跡でもまぐれでもないぜ」

壇上から戻ってきた安倍に、藤本は言った。

「あいつ、実力で石黒を倒しやがった」
「認めない訳にはいかなそうね。夏美会館の敵として」
「たった一人でこの夏見会館に喧嘩を売る。まるで物語の主人公みてぇだな」
「その主人公が優勝しちゃうなんてオチじゃないでしょうね」

いつになく鋭い眼差しで藤本を見つめる。
藤本は目を見開いて、そんな安倍に向けて強烈な眼光を放つ。

「まさか」

そう言うと、藤本は勢いよく立ち上がり歩みだした。
なっちは口元に笑みを浮かべ、彼女の背中を見送った。
高橋愛と石黒彩が退場したリングに、さらなる大歓声が起こる。
ついに、今大会大本命の登場である。
全国・海外にまで支部を持つ日本最大の空手流派、夏美会館。
館長安倍なつみの元、数千とも数万とも言われる門下生、その頂点に立つ者。
藤本美貴の登場!
しかし肝心の対戦相手が未だ姿を現さない。
予定では各試合間に10分ずつ休憩を挟むことになっている。
現在が2時20分。第三試合のスタートは2時30分になる。
それが吉澤ひとみのタイムリミットであった。

345 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:42 ID:2DhL5m5w
空手着姿の藤本がリングの下に立つ。ここで吉澤ひとみを待つつもりであった。

「まだ来ると思っているのか?」

そんな藤本に声をかける者があった。
里田まい。怪物と呼ばれ、藤本が来るまで夏美会館の全国王者だった女だ。
名目上、藤本のセコンドとスパーリングパートナーを受け持っていた。
強すぎる藤本の組手相手を務まる者が、彼女くらいだったからだ。

「あいつは来る」
「ふぅん。だがまだ時間はある。ウォーミングアップしねえのか」

藤本は口を三角にして「イラネ」と答えた。
普通の空手家とくらべ、藤本美貴という女はかなり特殊な部類にあった。

「街でいきなり喧嘩売られて、ウォーミングアップするから待ってなんて言えるか」

実践的であった。
彼女を空手家、いや格闘家という枠でくくるのは浅はかかもしれない。
里田は未だに藤本美貴という存在を掴みきれずにいた。
はっきりと分かることは「強い」ということである。
強い。藤本を説明するにはその二文字で十分なような気さえする。それほどに強い。
夏美館の代表が藤本であることに里田が一切の文句を挟まなかった理由である。
そんな藤本は静かに待ち続けた。もう一人の「強い」女を…。
残り10分。

346 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:44 ID:2DhL5m5w
コンコンというノックの音。
石黒彩の控え室である。今は応援にきたレスラーが集まっている。
ハロープロレスの若手が扉を開けると、そこには高橋愛が立っていた。

「てめぇ、何しに来やがった!」「ぶっ殺されてぇのか!」

物凄い形相でハロプロの若手達が次々と牙を剥いた。
自分たちが尊敬する先輩を負かした相手である。当然の反応と言えた。

「やめろっ!!」

一喝。一声で荒れた若手たちが静まる。石黒の声だった。
目を覚ました石黒彩が、控え室の奥でベンチに腰を下ろしていた。

「石黒さん、話が…」
「ああ。お前ら、悪いけど外してくれ」

副社長にそう言われては若手達に反論の余地はない。
レスラー達は皆、高橋愛を一睨みしながら控え室を出て行った。
扉が閉まり二人になると、鬼のようだった石黒の顔が、昔の優しいお姉さんの顔に変わる。

「強くなったな、愛ちゃん」
「アハッ、はい!」

二人は昔のように笑いあった。

347 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:45 ID:2DhL5m5w
「聞きたいのは、松浦のことだろ」
「はい…死んだって」
「愛ちゃんは相変わらずバカだなぁ。本当に死んでたら警察沙汰で隠せる訳ないでしょ」
「え、え、え〜」
「プロレスラーとして死んだってことよ」
「どういう事ですかぁ?」
「松浦はもうプロレスはできない。ジョンソン飯田に逆らったからね」
「ジョンソン飯田…」
「それと松浦が負けたってのは本当。事実だよ」

松浦亜弥が負けた。たとえ相手が誰であれ、愛には相当にショックな事実であった。
あの亜弥が誰かに負ける姿がどうしても想像できなかった。

「それで今は?今、亜弥はどうしてるんですか?」
「私にも分からん。圭織が半死状態の松浦を何処かへ連れて行ったきりだ」
「え?」
「しばらく留守にするから、ハロープロレスとこの大会のことは頼むと言われたよ」
「…そうなんですか」
「隠していて、わるかったな」
「いえ、亜弥が生きてるって分かっただけで嬉しいです」
「そうか。がんばれよ、愛。私と亜弥の分まで勝ち上がれ」

石黒はスッと右手を差し出した。愛は微笑みながら、その手を握った。

「はいっ!」

348 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:46 ID:2DhL5m5w
残り5分。
時間は無常にも過ぎてゆく。
藤本美貴はまだリング手前で待ち続けていた。会場への入口である巨大な扉を睨みながら。

「吉澤ひとみが来なかった場合ですが」

大会運営委員の一人、戸田が安倍の元を訪れた。
安倍は戸田を引き連れて別室へと向かう。

「リザーバーは用意してあるよ」

大会に先駆けて安倍は、東日本予選の準優勝者サンボの石井リカと西日本予選の準優勝者
ボクシングのミカ=トッドを呼び、勝者をリザーバーにするという約束で試合わせた。
安倍が扉を開けると、ウォーミングアップをするミカ=トッドの姿があった。

「準優勝戦の勝者であるミカがリザーバーだよ。同じボクシングだし」
「なるほど」
「ヘイ、とても光栄やねん。カンチョーナッチ」
「うん。ちょっと日本語おかしいね」
「…ですが、ミーも吉澤は来る思うザンス」

安倍はニコッと微笑んで、答えた。

「なっちもよ。そして、やっぱり日本語がちょっとおかしいね」

349 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:46 ID:2DhL5m5w
残り1分を切った所で、藤本が動き出した。
重々しい足取りで壇上に上がり、中央まで進んだ。
足を肩幅に開き、両の拳を腰から少し離した位置に構え、ゆっくり息を吐いた。

コオォォォォォォォォォォ……

静寂の続く会場に、その息吹が物々しく響く。その場の誰もが感じ取った。
藤本美貴が臨戦態勢に入ろうとしている。ビリビリと痺れを感じるほどに。
残り30秒。
控え室から辻希美が会場に戻ってきた。吉澤ひとみはまだ来ない。
石黒を訪れていた高橋愛が会場に戻ってきた。吉澤ひとみはまだ来ない。
リザーバーの準備から安倍なつみが主催者席に戻ってきた。吉澤ひとみはまだ来ない。
残り10秒。
田中れいなと道重さゆみは相変わらず会場の最上段通路で様子を眺めている。
藤本美貴の吐息が止まった。ギッと扉を睨む。
残り5秒。
4…
3…
2…
1…!!
そのときであった!
薄暗かった会場に、外の光が扉の中央からゆっくりと漏れ出す。
扉が開かれたそこに、光を受けて、一人の娘が立っていた。

第17話「主人公じゃない」終わり

350 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:47 ID:2DhL5m5w
次回予告

最強という名のベールに包まれた娘、藤本美貴、起つ。
そして、もう一人…

「この二人、ヤバ過ぎるぜ」

強すぎる女、と、強すぎる女。
次回、トーナメントに激震が走る!!!

「ここを通りてぇなら、なっち倒して通れよ」

To be continued

351 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/19 22:52 ID:2DhL5m5w
>>329
ごめんなさい、石黒さん、残念ながら勝てませんでした。

>>331
愛ちゃん、勝ちました!

>>334
もうちょっとだけ、待っててください。

>>335
ペプシさん覚えてます。昔の読者がまだ読んでくれてると嬉しいです。

352 :名無し募集中。。。:04/03/19 23:02 ID:yMwaVkI4
辻豆さん侠客立ち好きだな〜
更新乙です

353 :名無し募集中。。。:04/03/20 00:02 ID:0EvwyJjc
あーあ・・・・高橋勝っちゃったか・・・

でも大量更新うれしいです!お疲れです。

354 :名無し募集中。。。.:04/03/20 01:01 ID:ozrpBN4b
お疲れさまです。
で、最後の一行。と、ゆーことは・・・!?

355 :名無し募集中。。。:04/03/20 10:45 ID:0EvwyJjc
もしかして!なっち皆殺しが!終に!!!!!
なっち皆殺し!期待してます!

356 :ねぇ、名乗って:04/03/20 23:57 ID:9m+soJS7
高橋vs石黒の終わり方って
プロレスと空手の違いはあれど『修羅の門』の
陸奥vsイグナシオを思い出しました。
この終わり方使うなら相手は藤本か紺野と思ってたのだが石黒なら尚OKですね。

あまり関係ないけど今回少し出たので…
サンボオンリーは総合向きじゃないと思う。
かつてタクタロフがぶっ潰されたのを覚えてるから。それではこれからの物語の展開に期待してます頑張って下さい。

357 :辻豆保全隊隊長。。。:04/03/21 03:33 ID:jrdx78BZ
辻豆さん更新乙です!
高橋VS石黒戦一気に読んでしまいました!
YJのタフ読んでる時と同じ気持ちでした!
これからの展開、藤本VS吉澤戦がどうなるのか!
矢口VS田中戦!
それに二回戦の辻VS高橋の試合、二人がどのぐらいのダメージなのかが気になってます!
次の更新楽しみにしてます!
頑張ってくださいね!

358 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:20 ID:a5PuSsc2
第18話「七秒」

小川麻琴。
汗にまみれた顔を歪めながら、彼女が扉の奥に立ち尽くしていた。

「アニキがいねえよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぉぉぉぉぉ」

残り0秒。

ビ―――――――――――――――――――――――――!!

『吉澤ひとみ選手の不戦敗!藤本選手の相手はリザーバーとなります』

小川の叫び、ブザー音、そして感情のないアナウンス。会場が落胆の色に包まれる。
藤本美貴は静かに眼を閉じた。
吉澤ひとみは来なかった。ここに辿り着くことができなかった。
彼女の身に何が起きたのか知る者はいない。
ただ「吉澤ひとみは来ない」という事実のみが、目の前にある現実であった。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

小川麻琴がその拳を地べたに叩きつけ吼える。
その後方から、市井紗耶香が静かに現れた。
彼女は安倍なつみに視線を向けると、小さく首を横に振った。
なっちは表情を変えず、ただ拳を強く握り締めた。

359 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:21 ID:a5PuSsc2
「吉澤さん、どうしちゃったんやろ」

不安気な声で愛は、隣に立つ紺野に声をかけた。
紺野はわからないと首を横に振って応える。
それよりも別の問題が彼女の頭の中を巡っていた。
(なんや嫌な予感するわ、吉澤さん…)
愛は何故か胸騒ぎを覚えた。

『リザーバーはボクシングミニマム級世界王者ミカ=トッド選手です!!』

場内アナウンスに呼ばれ、入場ゲートからミカ=トッドが姿を見せる。
階級は違うといえど、彼女とて世界チャンピオン。
とてつもなく豪華なカードのはずであった。
だが観客のムードにやはり落胆の色は隠せない。
吉澤ひとみという存在はそれほどに期待させるものであった。
ミカのリングイン。藤本美貴は目を閉じたまま、彼女を見ようともしない。

「気持ちは分かりヤンス。ミーも吉澤のファイト、見たかったアルヨ」

色んな物が混ざった日本語で、ミカが藤本にしゃべりかける。
しかし藤本は返事するどころか、目を閉じたまま反応すらしない。
(落ち込んでいチョーね。ばってん、手加減は致しマセリヌ)

360 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:21 ID:a5PuSsc2

一回戦第三試合

藤本美貴(夏美会館空手)21歳



ミカ=トッド(UFAボクシング)21歳

361 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:22 ID:a5PuSsc2
試合開始のゴングが鳴る。それでも、藤本は目を閉じたまま立ち尽くしていた。
(わざと負ける気か!!)
誰かが思った。それほどに藤本から闘気のかけらも感じられなかったのだ。
(悪いゲッチョ、勝ちにいくでゴザソウロウ)
赤と白のグローブを構えミカが前進した。

「必殺!ピョーンパン…!」

刹那、カッと藤本の双眸が開いた。
同時に物凄いローキックがミカの足元に放たれる。
パンチとキックではリーチが違いすぎる。先に当たるのは当然キックだ。
ボクサーであるが、ミカはキック対策も万全にこなしていた。
足を上げてローキックのガードに入る。
ところが、当たる寸前で藤本の蹴りがググッと浮き上がった。
(ぬおっ!ミドルキックか!)
世界チャンプの名は伊達ではない。ミカはこの変化する蹴りに反応を見せる。
腕を落としてミドルキックのガードに入る。
ところが、グググゥっと蹴りの軌道がさらに変化をみせる。

「っ!!」

ミカは思わず見とれた。足先が自分の顔に目掛けて迫ってくるのだ。
傍から見ると、ガードを下げまるでミカの方から当りにいってる様に映ったかもしれない。
それほど自然で、美しいラインを描いたハイキックであった。
こう当ったらもう立てない、という当り方で藤本のハイキックはミカの頭部を打ち抜いた。

362 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:23 ID:a5PuSsc2
蹴り終えた藤本はクルッと背中を向ける。
その後、ガクンと膝からミカが崩れ落ち、頭を地につけ、動かなくなった。
空間は静寂に満ちた。

美しい。
その試合を見た誰もが、まず、そう感じた。
ローからミドル、そしてハイへと変化するそのライン。
目にも止まらぬスピード、ではない。誰もが見えるスピードで、それは描かれた。
その美しさに皆、言葉を失った。
審判すら見とれていた。
安倍なつみだけが満面の笑みを浮かべていた。

「おい」

藤本がぶっきらぼうに審判へ声をかける。
それでようやく審判は我にかえる。ミカはピクリとも動かない。

「しょ、しょ、しょ、勝負ありぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

その一声で、空間の静寂が怒号へと変わった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

美しい、と感じた全ての人間が身を震わせて叫び、次に同じことを思った。
強い、と。

363 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:24 ID:a5PuSsc2
ハイキック一閃。
いや、ハイキックのようであったが、それはハイキックではなかった。
見たこともない軌跡を描く蹴りであった。
見たから真似ができるか、と言われて真似れるものでもなかった。
ただ、その蹴り一本で、ボクシングの世界チャンプがKOされたのだ。
人々は口々にその感動を語り合う。

そして電光掲示板に試合時間が映されて、また合唱のように感嘆の声が響かせた。
七秒。
開始からたった七秒での決着であった。
最強を決めるこのレベルの試合で、それは異常とも言える時間であった。
相手が弱いのではない。
誰もが知る有名なボクシング世界チャンピオン、ミカ=トッドである。
日本拳法の秘密兵器、前田有紀を恐怖に振るわせた程の猛者である。
間違いなく世界クラスの実力者である。ミカ=トッドは強いのだ。
では、どうしてこんな異常な試合になってしまったのか?
答えは一つしかない。

藤本美貴という女が、強すぎてしまった、ということだ。

当の本人は勝利を喜ぶ表情ひとつ見せず、なっちの隣に戻っていった。
不機嫌の極み、といった顔であった。

一回戦第三試合 勝者 藤本美貴 7秒 KO

364 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/23 23:58 ID:a5PuSsc2
>>356
『修羅の門』を読んだの、かなり昔だから覚えてなかった。
なんか、久しぶりに読みたくなりました。
イグナシオって準決勝のデカイ人ですよね。あれは強かった。
とりあえず、噂の第四部が早く読みたいです。

>>357
『タフ』は現在進行形で読んでます。
最近始まったバトルロイヤルはいいですね。ワクワクする。
ああいうの、やりたいなー。
当初決めたストーリーを追うか、バトルロイヤルしちゃうか、葛藤中。

365 :名無し募集中。。。:04/03/24 14:51 ID:5NK/yI+c
辻豆さん乙です
盛りあがってきましたね

>>当初決めたストーリーを追うか、バトルロイヤルしちゃうか、葛藤中。

もちろん辻豆さんの面白いと思う方を選んでくれればいいんですが
個人的にはストーリーを追ってくれるほうが「ジブンのみち」っぽくって
嬉しいです


366 :名無し募集中。。。:04/03/24 18:57 ID:hbpmvyPO
ミキティのナイマン蹴り
かっけー

367 :名無し募集中。。。:04/03/24 19:10 ID:js5z8Blz
うぉー!ナイマンキック知ってる人いたー!w

俺も同じの思い出した。でもナイマンは一回の変化だけだったよね。

368 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/25 23:50 ID:fkePEnXp
汗の匂いに染み入った部屋だった。
昭和初期、講道館にて天才の名を欲しいがままにした男、小川五郎がその扉をくぐる。
軽量級から重量級まで、柔道に人生を捧げた猛者たちが会していた。
彼らは小川五郎の姿を見ると姿勢をただし、頭を下げた。
男も女も混じって頭を下げている。
講道館の者にとり、小川五郎は伝説に近い存在なのである。
その伝説に「自分より強い」と云わしめた女がいる。

「第三試合が終わった。7秒じゃと」

小川五郎が声をかけた。部屋の中央で黙々と動き続ける女――矢口真里に。
よく見ると、周りの柔道家たちは誰もがクタクタにへばっている。
これまでずっと矢口真里のスパーに付き合っていたのだ。
彼女は辻の第一試合も、高橋の第二試合も、藤本の第三試合も見ていない。
開会式からこれまでずっと体を動かし続けていたのだ。
声をかけられてようやく矢口は小川五郎の方を見る。心地よい汗をかいていた。
日常のおちゃらけた矢口真里とは違う顔になっていた。

「いい顔じゃ。さぁ、行って来い」

バッと柔道着を振りかざし、矢口真里が控え室を出る。
それから小川五郎は廊下で自分の孫娘、小川麻琴を見つける。
吉澤ひとみの不戦敗から麻琴は落ち込んでいた。その背中を小川五郎が叩きつける。

「麻琴。お前がセコンドじゃ。矢口真里という柔道家を、よぅく見ておけ」

369 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/25 23:51 ID:fkePEnXp

一回戦第四試合

田中れいな(八極拳)16歳



矢口真里(講道館柔道)23歳

370 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/25 23:52 ID:fkePEnXp
なんだかんだ言っても今大会出場選手のなか、もっとも知名度が高いのはこの人だ。
オリンピック柔道金メダリスト、矢口真里の入場に観客は沸く。
彼女は強いだけでなく、マスコットのような可愛さも兼ね揃え、CM出演などもこなす。
だが今はそんな愛くるしい笑顔は影を潜めていた。闘士の顔になっている。
早くも「ヤグ嵐」コールが舞き起こっていた。

「うわぁ、子憎たらしいね♪」

道重さゆみは満面の笑みで、表情に合わぬ言葉を吐いて捨てた。
そんな彼女を相手にせず、田中れいなはスタコラ階段を下りる。

「あ〜れいなぁ!待ってよぉ!」
「来なくてよか」
「なぁに言ってんの。さゆがちゃ〜んとセコンドしたげるから」
「必要なかたい」

田中は道重をおいて、通路からヒョイっと入場ゲートに飛び降りる。
5mもの高さを、壁などの障害物を使い見事に着地してみせた。
ものすごい身のこなしであった。

「その格好でやるのかね」

リングへと向かう田中れいなを、数人の審判たちが止める。
Tシャツに短パン、格闘家としてまるでなめきった様な服装だったからだ。
しかし田中は少しも悪びれない。うざったそうな眼付きで睨み返す。

371 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/25 23:53 ID:fkePEnXp
「これしか着替え持ってこんかったばい」

審判の林をススッとかいくぐり、田中は無愛想にリングへ上がってしまった。
それを矢口真里が待ち受ける。
ついに、この二人を一つのリングに解き放ってしまった。

「矢口さん!そんな生意気な奴、ぶっとばしちまえ!」

矢口のサイドで、セコンドの小川麻琴が叫ぶ。

「八つ裂きだよ、れいな〜」

田中のサイドで、いつのまにか追いついたセコンドの道重が可愛く暴言を吐く。
選手が選手なら、セコンドもセコンドだ。
道重さゆみの服装はデートにでも来たかのような可愛らしいワンピース姿であった。
ところがこの田中の傍若無人ぶりが観客のヒートアップぶりにより拍車をかけた。
互いに無言で睨みあう矢口と田中。
一回戦最終試合は嫌が応にも白熱してきた。
こうなっては、審判たちも止めるに止められない。
何より安倍なつみがおもしろそうに笑っていた。それでもう審判たちはあきらめた。
柔道着に黒帯の矢口真里。145cm。
Tシャツに短パンの田中れいな。150cm。
もっとも小柄な組み合わせとなった。
この試合の勝者が準決勝で藤本美貴と闘うことになる。
ベスト4、最後の一人はどちらか!?

372 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/25 23:54 ID:fkePEnXp
「なっちさんよぉ」

第四試合がまさに始まろうとする時、横から急に声を掛けられてなっちは驚いた。
見ると、相変わらず不機嫌そうな藤本が前方に視線を向けたままでいた。

「なぁに美貴」
「考えたんだけどよ、俺ぁやっぱ降りるわ」
「え?」
「あとは辻のガキに任せた」

すると藤本は無造作に空手着を脱ぎ捨てた。
『夏美会館』と書かれた空手着を。

「またまたぁ。冗談ばっかり言っちゃって、もう美貴ったら…」

安倍なつみは笑って応じる。
しかしシャツ姿になった美貴はそのまま席を立ち、行ってしまった。
安倍なつみの眼の色が変わった。

「何処へ行く気?」

藤本は振り返らず、言葉で返した。

「不戦敗にしといてくれ」

373 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/26 00:00 ID:ATZu7Mj3
そのまま藤本は会場出口へと続く通路に出た。
なっちはイスに残った藤本の空手着を拾うと、後を追う。

「美貴っ!!」

なっちが叫んだ。藤本は思わず歩みを止める。
そのままなっちは藤本の前に立つと、グイッと彼女の空手着を押し付けた。

「着な」
「悪ぃけど、今日はやる気が失せたんだ」

少しも動じることなく藤本は答えた。

「吉澤ひとみが来なかったからか」
「いや、ああ…そうだな」
「…」
「残ってるのはもうガキばっかだ。私がいなくても辻で十分だろ」
「本気で言ってんのか、それ」

なっちの声色が変わった。普段の優しい口調ではない、低く押し殺したような声。
常人なら、それだけで小便を漏らすかもしれぬ程の威圧力であった。
もちろんこの藤本美貴という女がそれで屈服するはずがない。
ギラつく瞳で「ああ」と答えた。
付近で見守る人々はもう試合どころではない。
息を殺し、その行方を見守る。

374 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/26 00:01 ID:ATZu7Mj3
「どけよ」

藤本美貴が言った。
安倍なつみに向けてだ。
それを受けて、なっちは少し身を下げた。そして全身から溢れんばかりの闘気を発する。
まるで底の見えない気圧がその場に満ちた。

「ここを通りてぇなら、なっち倒して通れよ」

重く、低い声で、なっちがそう言った。
体の奥の方から、物凄い勢いでマグマがせり上がって来る感覚を藤本は感じた。
今の台詞は、本当に安倍なつみが吐いたものか?
いいんだな?
いつしか、藤本の顔に笑みが浮かんでいた。

「好都合だぜ」

そのとき、どこからかゴングが鳴った。
第四試合開始のゴングだ。
それが、こっちも始めていいんだぜ、と言っている様に藤本には聞こえた。

375 :ねぇ、名乗って:04/03/26 02:55 ID:9v4dWrOU
乙です、というか初めましてですが
面白いのでここまで一気に読みました。修羅の門やバキを好きな自分にはツボにはいりまくりです
個人的に、亀井絵里ちゃんの登場に期待してます
頑張ってください

376 :名無し募集中。。。:04/03/26 23:24 ID:Ek4NatQF
うおーーーーーーーーーー!なっちキターーーーーーーーーー
藤本を殺してくれ!!!!!!!!!!!!!!!!!ってなわけないか・・・

377 :名無し募集中。。。:04/03/27 20:36 ID:HRgrsLDO
ブレーメンスレに辻豆さんキテタ━━!!
辻豆さんも泣きましたか…


378 :名無し募集中。。。:04/03/28 16:28 ID:QWHZImJh
辻豆さん乙です
こっちもバトル開始ですか
安倍が簡単に負けるとは思わないですが
藤本も強いですからねえ
楽しみに待ってます

379 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:32 ID:oowQQ2uK
>>375
はじめまして、こんな長い小説の一気読みありがとうございます。
頑張りますのでご愛読よろしくです。
あと、亀井は今までに無いキャラに挑戦しようと思ってます。

>>376
どうしてもなっち皆殺しが見たい方がいるようですね(w
でもなっちが強そうに思われているのは、意識して書いていますので嬉しいことです。

>>377
はい、ブレーメンは本当に良いドラマでした。
ミニモニを使って、こんな素敵なシナリオで製作してくれたNHKに感謝です。
特にネコの歌声がめちゃくちゃ気に入りまして、Wのカバーアルバム購入決定かなと。

>>378
応援ありがとうございます。
続きです。こういう展開になりました。

380 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:33 ID:oowQQ2uK
安倍なつみという女の怖さは、対峙して始めてわかる。
大きい。
体系は小柄で、およそ格闘技に縁のある姿を有しているとは思えない。
なのにこうして前にすると、その姿が驚くほど大きく感じるのである。
ほとんどの者は、まずこの時点で飲まれる。
安倍なつみという女の空気に飲まれ、身動きがとれなくなる。
そして本来の実力を少しも出せずに敗れ去る。
それを藤本美貴は知っていた。

藤本美貴は動じない。まっすぐに安倍なつみを睨み返している。
二人の距離は2メートル弱。危険な距離であった。
一歩踏み出せば互いの間合いに入る。
なっちは右手に空手着を持ったまま、棒立ちであった。
スキだらけなのに、何処にも手が出せないような雰囲気を纏っている。
ジリッ…と藤本がこするように歩を進める。
あと10cm踏み込んだら、仕掛ける。
胸の鼓動が聞こえた。
そうだ、こういう闘いを望んでいたんだよ。
どう攻める?いや、迷うな。蹴りだ。まずは蹴る。そのあとは決めない。
本能にゆだねる。考えていては追いつかない。
全部、ぶつけてやるよ。
安倍なつみ!

『勝負ありぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!』

381 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:34 ID:oowQQ2uK
藤本が牙を剥き出したまさにその瞬間であった。
審判のひと声。
大歓声が響く。
完全に虚をつかれ、藤本は思わず戦意をそがれる。
目の前の安倍なつみも呆然とした顔で、遠くを眺めていた。
何が起きた!?
(勝負ありって…私となっちの勝負はまだ始まっても…)
思って、藤本は気付いた。
振り返ると、電光掲示板に驚愕の数字が叩き出されていた。

7秒

藤本は目を見開く。
第四試合が終わっていた。
壇上に視線を落とす。
物凄い大歓声の中、一人の娘が立っていた。
もう一人の娘は地に伏し、意識を失っていた。
審判が何かを大声で叫んでいた。
気が付くと、隣になっちがいて、壇上を見ていた。
もう一度、壇上に視線を戻した。
勝ち名乗りを受ける娘が、狼のように鋭い瞳でこちらを見ていた。
背にゾクリとしたものが走る。
隣の安倍なつみが、言った。

「美貴、笑ってるよ」

382 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:35 ID:oowQQ2uK
田中れいなと矢口真里。八極拳と柔道。
ともに接近戦を持ち味とする二人は、開始の合図で同時に前へ出た。
(速いな)
矢口は思った。ビデオで見た西日本予選の動きと比べての感想だった。
しかし矢口は動じず、Tシャツの襟を掴もうと手を伸ばす。
田中がうっすら笑みを浮かべ、さらにその速度を増した。
矢口の手をかわし、その懐へ肩から入り込んだ。
(もらっ…)

ガクッ…!

田中の体勢が崩れ、繰り出した寸勁が不発に終わる。
誰かの手に足首を引っ張られたからだ。
(誰が邪魔しとー!!)
足元を見た田中はそれが他の誰の手でもないことに気付く。
気付いたときにはもう襟を掴み取られていた。
田中の足首を掴み取ったもの―――矢口の足指であった。
(や…)
やられた!の「や」までを意識した時点で、田中の思考は中断させられる。

――――――――――――――――次の瞬間、日本中が息を呑んだ。

ズドォォォォォォン!!!!!!!!

383 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:36 ID:oowQQ2uK
日本一有名な必殺技、ヤグ嵐!!炸裂!!

下は畳のように衝撃を吸収してくれるものではない。
硬いマットだ。この条件では背負い投げが一撃必殺になり得る。
それが電光石火のヤグ嵐ともなれば、その衝撃は想像を絶する。
手足を塞がれ、受身もとれなかった田中れいなは気絶した。
さらに攻め込もうとする矢口を、審判が止める。

『勝負ありぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!』

審判のひと声。
大歓声が響く。
立ち尽くす矢口真里。

『神話崩れず!!』
『やはり「倒れない女」矢口真里を倒すことは誰にもできないのかっ!!』
『勝者!!矢口真里!!』

電光掲示板に7秒の数字が出て、またも大歓声が沸き起こる。
その数字の意味を会場のいる者なら全員が理解しているのである。
高々と拳を突き上げる。矢口はその視線の先に次の獲物をとらえる。
(お前なら、おいらに地面の味を教えてくれるのか?)
(藤本美貴…)

384 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:37 ID:oowQQ2uK
「嘘だぁ…」

道重さゆみは不満をこぼしながら、タンカで運ばれる田中を追った。
田中が負けるなんて夢にも思っていなかった彼女は、半分泣きそうになっていた。

実況席では、今の試合のスロー映像を流して解説が行われていた。

「ここですね。ここです。矢口選手の足が田中選手の足を握りました」
「おおっ!本当に手みたいだ」
「そうなんです。矢口選手は足の指が物凄く長くて器用なんですよ。
 手が四本あると言っていいくらいですね」

掴んだ後の映像はスローでもぼやける程に速かった。
小さな体をバネの様に活かし、相手を地面に投げ落とす。完璧であった。
矢口の前にヤグ嵐は無く、矢口の後にヤグ嵐は無い。
原理を理解しても、彼女以外には使用不可能な、完璧な必殺技だった。

「考えておいた方がいいかもしれませんね。ヤグ嵐対策」

紺野あさ美が、口をあけて見とれる高橋愛に言う。

「対策って…なんか思いつくの?」
「…」

紺野あさ美はそれきり押し黙ってしまった。

385 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:42 ID:oowQQ2uK
未だ騒然とする会場を、退場する矢口真里。
その通路に藤本美貴と安倍なつみが立っていた。にわかに緊張が走る。

ハイキック一撃。強すぎる女。
ヤグ嵐一閃。強すぎる女。
試合時間、ともに7秒。二匹の怪物が目をあわす。

「この二人、ヤバ過ぎるぜ」

誰かが言った。そう、それは女子格闘技のレベルを超越した強さであったのだ。
トランプゲームに誤ってジョーカーが二枚入っていたような感覚に陥る。
それほどにこの二人、強い。強すぎる。

藤本、そしてなっちを睨みつけ、止まることなく矢口は退場していった。
なっちは隣の藤本が震えていることに気付く。

「もう一度さっきの話聴こうか?美貴」
「いや、いい。すまねぇけど、私の胴着を返してくれよ。…館長」

飢えた野獣のような眼光が、藤本の瞳に戻っていた。
なっちは思わず微笑む。
(本気に…させたべさ。矢口真里)

386 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:43 ID:oowQQ2uK
ベスト4決まる!

“奇跡を呼ぶ少女”辻希美
“進化し続ける娘”高橋愛
“最強の象徴”藤本美貴
“倒れない女”矢口真里

カードはこの様になる。

準決勝第一試合
辻希美(夏美会館空手)− 高橋愛(高橋流柔術)

準決勝第二試合
藤本美貴(夏美会館空手)− 矢口真里(講道館柔道)

この4人のうち3人は今日、敗北を知ることになる。
優勝の栄光を手にできるのはこの中でただ1人だけ。

第18話「七秒」終わり

387 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/28 16:44 ID:oowQQ2uK
次回予告

ついに、幾多の激闘を越えた二つの道が交わる!

「奇跡」VS「主人公」

決して負けられない、二人の戦い。
そしてその熱は…遠き地にいるもう一人の娘をも揺るがせる。

「お前…本当に松浦か?」

To be continued

388 :名無し募集中。。。:04/03/28 17:10 ID:ozQClAeN
更新乙

れいなが一瞬で負けでかなりがっくし

389 :名無し募集中。。。:04/03/28 19:37 ID:KW+8lXig
いえ、れいながいい試合したらそのほうががっくし

390 :名無し募集中。。。:04/03/28 20:37 ID:zMpXdPeW
アヤーヤー! やはり チャン(ry

れいなさんは これからまた修行になるのかな?
次の出番に期待です

391 :まり好き:04/03/28 21:44 ID:8q5IziYV
やぐが勝って大喜び。
このあとの試合が楽しみです。


392 :まり好き:04/03/28 21:44 ID:8q5IziYV
あげちゃった。スマソ


393 :名無し募集中。。。:04/03/28 22:31 ID:QWHZImJh
辻豆さん乙です
田中弱い、いや矢口が強すぎるのか
準決勝はすごい試合になりそうですね

394 :ねぇ、名乗って:04/03/28 23:13 ID:iyjrIGzX
辻豆さん乙です。
比較的予備動作の大きい(らしいw)寸勁をヤグ相手にいきなり撃ったのがれいなの敗因か?
前の試合で美貴帝こわー、なんて思ってたらヤグもむっちゃ強いですね。
準決勝も気になるしヨッスィーも気になる、そのうえぁゃゃまで…。
次回も楽しみに待ってます。

395 :名無し募集中。。。:04/03/29 03:40 ID:JbTod7Gl
>>390
「ちゃんちゃか☆チャーミー」?

396 :ねぇ、名乗って:04/03/30 04:03 ID:Yl+2r7gz
田中が負けてしまった…ちょっとショック・・・
こうなればエピローグの人に期待するしかありませんね。


397 :名無し募集中。。。:04/03/30 13:07 ID:LaNz5WCK
俺もヤグは田中のかませだと思ってたよ・・・。
でも田中じゃ藤本には勝てそうに無いけど矢口ならわからんな。

398 :名無し募集中。。。:04/03/30 21:27 ID:LlUi9ihB
やっぱ、最後はなっちで締めてほしいな。
どうしてもこの話の高橋は強さが伝わらないって言うか、でもそれもおもしろいかも・・・
田中もなんらかのかたちで出して欲しいなあ

399 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 00:32 ID:lYex+SLa
第19話「夢失いし娘の見た光景」

初夏の風が新緑の木々を揺らす。見渡す限りを、緑の生い茂った山々と田園に囲まれた、
そんな風景。一両だけの電車に揺られ、無人のホームに一人の女性が降り立った。

「想像以上の田舎だ…」

バックの中から目的の住所が記された紙切れを取り出し、地図と当てはめる。ここから
また一時間以上かかることに気付き、女性はため息を落とす。
(しょーがねぇ、走るか)
足には自身があったその女性は、バックを肩にかつぎ田舎道を駆け出した。駅からほんの
少し離れるともう舗装すらされてない土の道に変わる。民家はところどころにポツポツ見
える程度だ。

「…あいつ、こんな所にいるのか」

数十分後、山の斜面にさしかかり、道も徐々にのぼり坂へと変わってきた頃、山の中腹に
緑に囲まれた小さな建物が見えてきた。木造の小さな個人病院だ。横引きのガラス戸を開
け、受付にいた白髪混じりの老婦に声をかける。

「すいませーん。面会希望なんですけど」

受付の老婦に目的の部屋を聞くと、女性はスリッパに履き替えて木目状の廊下を進んだ。
歩くたびにギシギシと木の音が鳴る。入院患者用の部屋は2つしかなく、案内されずとも
迷うことはなかった。

400 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 00:33 ID:lYex+SLa
ノックをしても返事が無い。
仕方ないので女性は「入るぞ」と言ってドアを開けた。小さな部屋にベッドが二つ並んで
いる。その奥の方、窓際のベッドに彼女はいた。上半身だけを起こし、背中を壁にもたれ
たまま、虚ろな瞳で窓の外を見ていた。女性は思わず唾を飲み込む。

「お前…本当に松浦か?」

ベットの中で虚ろに座する娘―――松浦亜弥を見て、女性は思わず尋ねてしまった。
確かにそれは松浦亜弥の顔をしているのだが、彼女の知っている松浦と比べたとき、
根本的な何かが欠けてしまっている様な印象を受けたのだ。
亜弥は見舞いに訪れた女性の声に気付き、穏やかな微笑を浮かべる。

「私の顔、忘れちゃったんですか?ひどいですね、ソニンさん」
「バ、バカ。んな訳ねえだろ!」
「ウフフ…遠い所をわざわざお見舞い、ありがとうございます」

丁寧で穏やかな口調であった。それでもソニンは最初に感じた違和感を拭えずにいた。
ここは飯田圭織の知り合いが開業している病院で、マスコミの目を隠すときに利用する、
ハロープロレスでも限られた者しか知らぬ秘密の療養所であった。松浦の教育係につい
ていたソニンは、飯田よりここに松浦がいることを聞き、見舞いに来たのだ。

「だけど松浦。驚いたぞ、退団の話。どうしたって言うんだよ!」
「ごめんなさい」
「何かあったのか?社長も、石黒さんも、誰も教えてくれねえんだ」

401 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 00:34 ID:lYex+SLa
今から約半月前のこと。トーナメント出場の件で地方巡業を抜け出した松浦は、飯田に
講義した末、二人は試合うことになった。そのときの立会人は石黒一人。試合は凄惨を
極め、殺し合いになりかけた上、松浦が敗北を喫した。この事実は飯田・石黒・松浦、
三人の胸の内のみに留まっている。公に発表されたのは、飯田の入院と松浦の退団とい
う事実だけだ。物好きなプロレスファンの間では様々な説が飛び交っている。

「社長に反抗したんです。だから退団です」
「なぁ松浦、考えなおせよ。社長だってお前には期待していたんだぜ。
 私も一緒に頭下げるからさ、誤ればきっと退団取り消してくれるさ」

ソニンは説得を試みた。松浦亜弥に期待していたのは社長だけではない。
しかし松浦は首を縦に振らなかった。

「もういいんです。私、疲れました…」

ソニンは耳を疑った。まさかあの松浦亜弥の口からそんな台詞を聞くとは、思ってもみな
かったのである。彼女の知る松浦は闘争本能の塊のような娘だったのだ。始めに見たとき
から感じていた違和感が、少しずつ分かりかけてきた。

「どんなに夢見ても。どんなに努力しても。手にできる人は決まっているんです」
「松浦?」
「……私にはその資格がなかったんです」
「お前、まさか社長と……」
「笑っちゃいますよね。地上最強なんて、子供みたいな夢を…本気で……」

402 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 00:35 ID:lYex+SLa
亜弥は天を仰いだ。虚ろだった瞳が濡れていた。その頬に一筋の涙がこぼれ落ちる。

「本気で夢見ていたんですよ……私は……」

これだ、とソニンは気付く。松浦亜弥に感じた違和感の原因。今の松浦亜弥は夢を失った
ヌケガラみたいな存在なのだ。最強を目指してキラキラ輝いていた、あの頃の松浦と同じ
に見えるはずがない。
(だが、こんなにも変わってしまうものなのか?)
(一体何があったんだよ。社長と松浦の間で……)
ソニンは松浦に立ち直って欲しかった。こんな所で彼女の格闘技人生を終わらせたくなか
った。もっともっと上を目指せる器だと信じていたから。自分と違って…。

「情けねえ!一回負けたくらいで何だよ!トレーニング積んで、再挑戦すりゃいいだろ!」

激を飛ばした。しかし松浦は首を横に振り、静かに口を開いた。

「違うんです。そういう負け方じゃなかったんです……」
「は?」
「かみ……さ…ま……ウッウウッ…ウウウッ……ウアアァァウアアァァァ……」

人目もはばからず彼女は嗚咽し出した。ソニンはもう何も言い返せない。目の前で子供み
たいに泣きじゃくる娘が、本当にあの大胆で傲慢で華麗なスター松浦亜弥と同一人物なの
かと、途方にくれるばかりであった。

…………………

亜弥のすすり泣く声と、セミのミーンミーンという鳴き声が、静かな病院の個室に不調和
なハーモニーを生み出し、時は緩やかにその音色を刻んだ。

403 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 00:37 ID:lYex+SLa
「そうだっ!」

30分ほどの時が経過した頃、持ってきた見舞いの果物を戸棚に並べていたソニンが、ふと
何か思い出した様に叫んだ。もう泣き止んで、ベッドに横になっていた亜弥が、顔だけを
彼女の方に向ける。

「例のトーナメントだよ!あれ、今日だったよな!」
「……!」
「ちょうどTVでやってる頃だぜ。やっべー、ド忘れしてた!松浦、リモコンどこ?」
「……見たくないです」
「何言ってんだよ。石黒さんが出てるんだぜ。見てねえとまた怒鳴られるだろが」

そう言ってソニンは備え付けの小型TVのスイッチを押す。たちまち、セミの声しか聞こ
えない山の病室に、騒がしい実況アナウンスの音が鳴り響いた。

『準決勝の前に!!一回戦の全四試合をもう一度リプレイで振り返ってみましょう!!』

画面には超満員に膨れ上がった武道館の観客席が映し出されていた。そこから場面は移り、
辻希美と柴田あゆみの姿に変わる。

「ああ〜、もう1回戦は終わっちまってるよ、松浦」
「私見たくないんで」
「ほらっ!辻が出てるぜ!安倍に鞍替えした裏切り者の!タッグマッチ以来じゃねえか」

「辻」という名前に、亜弥は思わず反応してしまう。

404 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 00:38 ID:lYex+SLa
布団のすき間から亜弥はそっとテレビを覗き込んだ。そして垣間見ることになる。画面の
向こうで確かに起きた「奇跡」を。

「辻の奴、勝ちやがった!まぁ、あいつ確かに強かったもんな」

ソニンは春にあったタッグマッチを思い出していた。そこでも辻希美は、当時ハロープロ
レスNo3であったソニンを場外へふっ飛ばすという奇跡を起こしたのだ。裏切り者と軽
蔑視してはいるが、その実力は高く評価している。

「石黒さんは確か次だぜ」
「……」

いつしか画面に釘付けになってしまっていることに亜弥自身気付かずにいた。あのタッグ
マッチのとき、自分の足元で「地上最強になる」と喚いていた娘が今、数え切れないライ
トと歓声の中で、その階段を着実に上っていっている姿が……眩しすぎて。

『石黒彩選手の相手は高橋愛選手です!!』 

その名が耳を通過したとき、亜弥の胸がドクンと高鳴った。
“高橋愛”
夢を失った亜弥が一番耳にしたくなかった名前。ベッドがカタカタ音を立てて震えだす。
震えているのは布団にくるまり画面を睨む松浦亜弥。愛と亜弥の関係を知らぬソニンは、
上司の石黒を見て亜弥が震えているのだと勘違いした。

そして――その闘いは始まった。

405 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/31 01:06 ID:poDyPum1
>>388−398
応援ありがとうございます。矢口田中戦の反響はさまざまですね。
田中の敗因とかその後については、しばらくノーコメントとさせて頂きます。
さて、ここからの準決勝と決勝の三試合は物語の一つの山場なので気合入れて書きます。
その前に松浦さんの話を入れて、他にも書かなきゃいけない娘がゴロゴロしている…。
相当長い話になりそうなのですが、どうか気長にお付き合い下さい。

406 :名無し募集中。。。:04/03/31 08:39 ID:+wRKYK8n
辻豆さん乙です
松浦が高橋の姿を見て何を思い何を感じるのか
楽しみに待ってます

407 :名無し募集中。。。:04/03/31 08:44 ID:d3qNimTL
イイヨイイヨー

408 :名無し募集中。。。:04/03/31 22:24 ID:c2/JKBWM
松浦復活しちゃうんですか?トホホ

409 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/01 23:35 ID:0AyaCV27
(勝て!危ない!負けるな!)
(あっ、捕まった!逃げて、逃げて、もう少し、そこ!)
ふと、亜弥は我に気付く。そして自問する。
(一体自分はどっちを応援しているのだろう?石黒さんか?愛か?)
考えて、すぐにその思考を取り消す。
(なんておバカな質問。決まっているじゃない、ハロープロレスの石黒さんよ!)
(だいたい愛が、石黒さんに勝てるはずないじゃない。実力差は歴然…)

『石黒選手の絞め技入った!!効いてますよ高橋選手!!』

テレビ画面の中、うつ伏せの愛が後ろから石黒さんに首を押さえ込まれるシーンが映る。
知らず知らず内に、亜弥は唇をかみしめていた。
(自分が嫌だ……)
(私も負けたんだから愛も負ければいいって、願っている自分がいる……)
(そんなこと思いたくないのに、考えたくないのに、どうして……)

『ああっーーーーと!!高橋選手、入れ替わったぁぁぁぁ!!!』

アナウンスと歓声の音量が上がった。ベットの脇でソニンさんも声をあげる。
必死の形相で、勝利をあきらめない親友の姿に、亜弥は完全に見入ってしまっていた。
(すごい!私の親友はやっぱりすごい!いけっ!愛!)
(ううん、違う。勝たないで愛!私を置いていかないで!)
(夢なんだよ?地上最強なんて、叶いっこない夢でしかないんだよ?だから……)
(私たち、親友だよね。ずっと一緒だったよね)
(やだよ、やだよ、こっちに来てよ。いかないで、いかないで、愛!)

410 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/01 23:36 ID:0AyaCV27
『勝者!!高橋愛!!!!!!!!!』

キラキラと、輝いていた。
何万という観衆の声援を受け、勝利の栄光に拳を振り上げるその姿。
ワタシのトモダチは光の世界にいた。一方のワタシは……

「嘘だろぉ、あの石黒さんが負けるなんて」

ソニンさんが呆然としている。セミの声が現実を痛いくらいに教えてくれる。電車も一時
間に一回しか来ないような田舎の、さらに駅から徒歩一時間もかかる小さな病院の一室。
隣室に入院してるお爺ちゃんのクシャミの音が聞こえた。
平和で、穏やかで、心からのどかな世界。

プチ!

「あ、何すんだよ松……」

ソニンは突然TVのスイッチを消した亜弥の表情を見て、吐きかけた言葉を途中で止めた。

「……見たくないなら仕方ねえか。わかった。そろそろ行くな、私」
「…………」
「今夜はふもとの民宿泊まって、また明日も来るよ。じゃあな」

ガラガラと個室の扉を閉めるソニンの顔は、蒼白に染まっていた。
(なんて顔してやがるんだ、あいつ……)

411 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/01 23:37 ID:0AyaCV27
「まずは1回戦突破おめでとう。お二人さん」

主催者控え室のイスに腰掛け、ニコニコと安倍なつみは言った。

「当然」
「なちみのおかげれす!」

夏美会館空手の代表二人はそれぞれ異なる返答をかえす。藤本美貴は腕を組んで壁を背に、
面倒くさそうに応じた。辻希美は元気よく手を上げて答えた。二人の返答を受けて、安倍
なつみはソロリと言い放った。

「それで見せてくれるんでしょうね、決勝戦で。辻希美vs藤本美貴を」

辻と藤本の顔色が真剣なものに変わる。なっちの表情も笑みではあるが、どこか怖いもの
が含まれている。絶対的な話しぶりであった。安倍なつみにこう言われてしまっては、そ
れを破る訳にはいかない。安倍なつみが「決勝戦は辻vs藤本」だと言ったのなら、それは
もはやそうならなくてはいけない決定事項なのである。ところが藤本はあっけらかんとそ
れに応じる。

「あんたに言われるまでもねぇ。私たちは始めからそのつもりだよ、なぁ」
「ね〜ミキティ」
「みきてぃ言うなコラ」

そんな様子を安倍なつみは心からの笑みで見守る。
夏美会館空手の日本完全制覇は目前にまでせまっていた。

412 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/01 23:38 ID:0AyaCV27
「見事だったぞ、矢口!」
「マリ先輩、この国が柔道王国だってこと思い知らせてやりましょう!」
「ちょっと痛い痛い痛いぃー!!セクハラ、これセクハラだってば!」

ガタイの良い男子柔道選手達がこぞって、矢口のマッサージに集まる。
小柄な矢口は皆に押しつぶされる形で悲鳴をあげていた。

「まったく、何をしておる」
「ああ!五郎のじいちゃん、こいつらどかしてくれー」

立ち上がった矢口はおかえしとばかりに、周りの連中を投げ飛ばす。
試合中とはまるで違う矢口真里の姿がそこにはあった。
おしゃべりで誰からも好かれるキャラクターの矢口は、講道館のマスコット的存在だった。
世界一強いマスコットである。

「あまりふざけるでないぞ。本番は次からじゃ」
「次って、夏美会館のこと」
「ウム、柔道が空手に負けぬということを証明してやれ」
「悪ぃけど、おいら、そういうの興味ないし〜」
「矢口!」
「説教は勘弁。おいら矢口真里個人として安倍なつみ個人に喧嘩売ってるだけだから。
 このトーナメントもその為のプロセスでしかないし。柔道、空手とかパスね」
「世間はそうは見ぬぞ!」

小川五郎が吼えるも、矢口はキーンと腕を広げて逃げ出してしまった。

413 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/01 23:52 ID:YORjDJkm
「あ〜ヤダヤダ年寄りのお説教は。マコの気持ちもチトわかるなこりゃ」

控え室を抜け出した矢口は、外が見える窓側の通路を歩いていた。すると、前方に見覚え
のある人物が立っていた。うっすら好奇心を覚えた矢口は話しかけてみる。

「高・橋・さ・ん」
「ひゃ!!」

ボーっと窓の外を見ていたら、突然耳に息を吹きかけられて愛は飛び上がった。
振り向くとそれがほとんど面識の無い矢口真里であった為、もう一度驚いた。

「や、や、や、や、や、や、や、や、矢口さんじゃないですか!何すんですか!」
「敵情視察」
「て、て、て、て、敵ですかぁ私」
「決まってるじゃん。トーナメントは自分以外全員敵よ」
「そ、そうですね」
「まぁ、共に夏美会館に敵対してるし、半分敵ってとこにしたげる」
「ハンブンテキ?ありがとうございます」
「アハハ、変な子。あんたの試合さっきのビデオ放送で見たよ。やるじゃん石黒倒し」
「あれはたまたまですって。矢口さんの方が凄かったですよ」
「まぁね。ところで次は勝てそう?」
「やって見んとわかりません」
「ふぅん。おいらは勝つけどね。どうせ安倍のことだから、決勝は辻vs藤本だなんて
言っているに決まってるし。そうはさせるかってんだ!」
「うん」

414 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/01 23:53 ID:YORjDJkm
矢口のトークに愛は知らずと元気付けられていた。あの強大すぎる夏美会館に挑もうとし
ているのが、自分だけではないと改めて実感できるからだ。

「もし夏美館二人とも負けちゃったら、安倍がどんな顔するか見ものだと思わねえ?」

愛は想像した。すると不思議と唇がにやけてきた。

「おもしろいかもしれないです」
「だろ」

公式の場以外では初対面に近い矢口と高橋が、声をそろえて笑った。愛はこの偉大な先輩
に共感できる所を感じ始めていた。柔術と柔道、スタイルは違えど、己の身ひとつで強大
な敵に果敢に挑む姿勢が、同じだと思ったのだ。その後、準決勝が始まるまでの休憩時間、
二人は互いの格闘論などを語り合った。

もしかすると数時間後、死闘をくりひろげる間柄になるかもしれないことなど、このとき
の愛の脳裏からはさっぱりと消えていたのであった。

「そろそろ時間か。じゃあな」
「はい」

二人は挨拶をして別れた。次に会うのがどんな形でかは、まだ分からない。
準決勝の刻、迫る。

415 :名無し募集中。。。:04/04/02 01:29 ID:QBKWWZzv
>>408
うん・・・そんな感じだね・・・今更・・・

416 :ねぇ、名乗って:04/04/02 03:34 ID:XAsFS0tZ
>>415
ライバルとは決着つけないと
あとキャラは絞りカスにまで使い切って欲しい

417 :名無し募集中。。。:04/04/02 17:04 ID:X9+HCSHm
むしろ高橋への嫉妬で怒り狂った、もともとキレ癖のある松浦が
どのようになっていくかが楽しみだ

418 :名無し募集中。。。:04/04/02 19:27 ID:nZkoZDfH
辻豆さん乙です
辻と藤本の二人が負けたときの安倍の顔
見たいような見たくないような
そして松浦も復活の予感ですね
楽しみに待ってます

419 :名無し募集中。。。:04/04/02 19:46 ID:QBKWWZzv
けど、最終的にはなっちが皆殺しと・・・

420 :名無し募集中。。。:04/04/02 21:49 ID:Ue6Os2b4
>>419
その線まだ消えてないのかw

421 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:23 ID:MPJVBa/z
「知らねえって言ってんだろ!!」

控え室に戻る途中、医務室から大きな怒鳴り声が聞こえ、愛は立ち止まった。何事かと覗
き込むとそこにはメロンの4人と小川麻琴、そして市井紗耶香がいた。なぜかピリピリし
たムードに包まれている。お節介にも愛はその渦中に飛び込んだ。

「どうしたのマコっちゃん?」
「おぉ愛!お前も止めてくれよ」

一回戦で負傷した柴田あゆみがベットで横になっている。その両脇に村田と大谷が立ち、
斉藤と市井が部屋の中央で睨み合っていた。

「言えよ。吉澤は何処だ?」
「だーかーら、何べん言わせんだ!俺たちゃ関係ねえって!」

どうやら吉澤ひとみの件で揉めているらしい。それでようやく愛も思い出した。以前メロ
ンの連中が吉澤の友人の女性をさらい、共に助けに行ったことを。おそらく小川にそれを
聞いて、市井がくってかかっているのだろう。だけど流石に、怪我人のそばで喧嘩するの
を見過ごしてはおけない。愛は間に入って止めることにした。

「二人とも落ち着いて。冷静にお話した方が……」
「力ずくで口割らせてやろうか」
「上等だ!来いやコラ!!メロンなめんなよ!」

ちっとも聞いてくれない。

422 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:24 ID:MPJVBa/z
「姉さん、やめて。私が説明するから」

市井と斉藤の動きが止まる。柴田が起き上がっていたのだ。
(ちょっとなんで私じゃ止まらんのに、あゆみちゃんで止まる訳?)
愛はやや不満を覚える。

「説明、してもらえるんだな」
「ええ。私たちが石川梨華をさらったのは、そういう依頼があったから。
 個人的な理由とかではないわ」
「その依頼主ってのは誰だ?」
「それはわからない。全部代理人との交渉だったから」

市井は柴田の目を見る。嘘をついているか否か、判断する為だ。

「相手もわからない仕事を引き受けるのか?」
「裏社会てなそんなもんだ。報酬さえ頂ければ、余計な詮索はしねえさ」

これは大谷が答えた。通常モードでは無口な村田も同意し頷いた。

「依頼を失敗してからは何の連絡もねえよ。報酬もパアになったしよ。
 そこの二人と吉澤ひとみのせいでな。いや……あともう一人いたか」

ボス斉藤の台詞に、市井を除く全員が首を傾ける。
もう一人?

423 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:25 ID:MPJVBa/z
「もう一人って?あのときは、うちら三人しかえんかったよ」
「騙されるか。とんでもねえ怪物を隠してやがったくせに。
 いきなりで顔は見えなかったけど、この俺を一撃で倒しやがったんだぜ」
「え?ボスって吉澤にやられたんじゃなかったんですか?」

大谷の質問に、斉藤は首を振る。それに小川が続いた。

「俺とアニキが上ったときにはそいつ倒れていてよ。泣いてる石川さん以外他に誰も
いなかったぜ。てっきりコケテ自滅したんだと思ってた」
「じゃあその化物。ボスを倒してすぐ、どっかに消え去ったんですかね?」
「誰やそれ?」

メロンのボス斉藤を倒して消え去った謎の人物。
一同は眉をしかめて考え込む。柴田だけが冷静な表情を続けていた。
一方の市井紗耶香は嫌な胸騒ぎを覚える。
(まさか……。いや、そんな……だが…)
黙りこくった市井に小川が声をかける。

「どうしたんだよ。震えてるぜ、あんた」
「いや、何でもない。メロンさん、すまなかったな。失礼する」

すると市井は踵を返し足早に立ち去ってしまった。

「どうしたんやろ、市井さん」
「さぁ?」

424 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:26 ID:MPJVBa/z
このとき、柴田あゆみだけは嘘をついていたのである。依頼主を知らないと言ったが、
おおよその見当はついていた。彼女が生まれ育ったあの……。だがそれを口にする気は
ない。例え姉たちにさえも。話した所でどうにかなる相手でないことも知っていたから。
彼女はそっと話をすりかえることにした。

「それより、もうすぐ試合だろ。いいのか、こんな所で道草食ってて」
「あー!そやった!」

柴田あゆみに言われて愛は本気で驚いて見せた。

「気をつけろ。辻希美は違うぞ」

違う?「強い」でも「凄い」でもなく、柴田は「違う」と評した。
実際に拳を交えた柴田あゆみが、辻希美をそう表現してみせたのだ。
今までの相手とは何かが違うということか?

「わかった!あゆみちゃんのリベンジしたるわ!」

しかし、ちっとも分かってなさそうな笑顔で愛は駆け出していった。
その背中を柴田はおもしろそうに見つめる。
(リベンジなんかいるか。お前も辻も、いつか私が倒してみせる)
(それと、いい加減その呼び方はやめろ)

425 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:29 ID:MPJVBa/z
バナナ、アロエヨーグルト、アイス、ケーキ、豆腐、etc……
見てるだけで吐き気がもよおす程の食材を、辻希美はその胃袋に放り込んでいた。
みうなとあさみが離れて、その後ろ姿に圧倒されている。

「試合前だってのに、よくもまぁあんなに食せますこと」
「こっちが気持ち悪くなってきた」

そこへ安倍なつみがやってくる。

「のの、お医者さん連れてきたから、もう一回診てもらえ」
「みふぁうへほふぁいぼうぶなのれふ」
「食ってからしゃべれよ」

口にあった食べ物をゴックンと飲み込むと、辻は渋々手を出した。検査をしていく内に、医師の顔色が徐々に変わっていく。

「信じられません。治ってきています!」
「え?」「え?」「え?」

安倍とみうなとあさみが同時に声をあげた。辻は平然と応える。

「ね、言ったでしょ。食べたら治るって」
「バカ。言ってないし、そんなはずあるか!」
「ですが事実、右手のヒビも小さくなっています。左腕に至っては全く完治している」
「嘘でしょ……」

426 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:30 ID:MPJVBa/z
「昔からそうなんだ、小さい怪我ならたいていダイジョブ♪」
「わかった。だけど右拳は使うなよ。使っても一発だけ、とどめの一発だ」
「うん。一回で十分れす」
「安倍館長。この子は何者でしょうか?医学的にも大変興味が……」
「こっちが聞きたいよ。おい、のの!」
「もう検査はいいよ。いってきま〜す!」

辻は立ち上がると、自慢の脚力で逃げ去ってしまった。セコンドのみうなが慌てて後を
追いかける。なっちも笑みをこぼして後に続いた。

「なんなんだあいつは、本当に。フフ……」

特異体質。天文学的確立で存在するのである。常人とは異なる体質を持って生まれし種。
だが辻希美のそれは生まれ持った体質では無かった。彼女はごく普通の家庭でごく普通の
女の子として生を授かった。限界をはるかに超え死の淵にまで陥ったあの凄惨なる過去が、
彼女に奇跡の体質をもたらしたのである。もちろん周りの人々はそれを知らないし、本人
すら自覚していない。

「あんな変な子、世界に一人でしょうね」
「二人もいたら大変だ」

あさみの言葉に、なっちは冗談交じりに返す。
もちろん知るはずは無い。
あの絶望的飛行機事故より生還せしめた少女は二人いたという事実。
――――――――果たして、夢を失いしもう一人は、今何を見ているのだろうか?

427 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:31 ID:MPJVBa/z

準決勝第一試合

辻希美(夏美会館空手)18歳



高橋愛(高橋流柔術)19歳

428 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:32 ID:MPJVBa/z
『ただ今より、準決勝第一試合を行います!!!』

入場口前通路に高橋愛は立ち尽くしていた。待ちわびた観客の歓声はここまで響いている。
セコンドの紺野あさ美が耳元まで近づき声をかける。

「隠しても無駄ですよ。石黒さんにやられた脇腹、かなり重症ですね」
「別に隠してえんよ。怪我ならあっちもしてるやろ」
「言っておきます。もし辻さんの正拳を同じ箇所に受けた場合、私はタオルを投入します」
「紺ちゃん」
「ただ…おそらく彼女は拳を痛めているはず。そこが勝機ですね」
「アドバイスありがと。でもごめん。私はやりたい様に闘うから―――」
「愛……」
「闇の武術の真髄、見せてあげる」

『辻希美選手のぉ入場ですっ!!!』

観客の声援がワアッっと大きくなった。その振動がここにまで伝わる。これから全てをぶ
つけあう相手が、その場所に降り立ったのだ。「時間です」と係員の合図で扉が開かれる。
途端に物凄い光と音の世界が眼前に現れた。もはや行く手を遮るものは無い。愛は静かに
その一歩を踏み出した。

『高橋愛選手のぉ入場ですっ!!!』

第19話「夢失いし娘の見た光景」終わり

429 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/03 23:35 ID:MPJVBa/z
次回予告

そのとき起きたのは奇跡か?それとも―――――――――

To be continued

430 :名無し募集中。。。:04/04/04 00:25 ID:HnmmctXZ
もう高橋はいいよ・・・

431 :辻豆保全隊隊長。。。:04/04/04 02:02 ID:TbiwcHs9
辻豆さん更新乙です!
ボス倒したの石川じゃないの〜?W
>>460
いちおう主人公ですから…

432 :ねぇ、名乗って:04/04/04 12:52 ID:gqgWOX+x
更新乙です。
話をふくらませますねぇ。自分の中ではアイボンさんは過去の人だったのでちょっとびっくり。

433 :名無し募集中。。。:04/04/04 13:04 ID:l0yYXrad
いや、オレは@ノハ@の復活をずっと待っていた

434 :ねぇ、名乗って:04/04/05 16:36 ID:v/qg4g5N
決勝はどの組み合わせになるか楽しみです

435 :ねぇ、名乗って:04/04/08 00:16 ID:HYxU6dQ/
二日ぶりに覗きにきたけど更新まだだったか。残念・・・

436 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:24 ID:4s+kuKEw
第20話「高橋愛vs辻希美」

あれだけ騒がしかった歓声も、もう聞こえなくなっていた。
他のものも何も見えなくなっていた。
視界にあるのは辻希美だけで、聞こえるのは自分の鼓動だけである。
高橋愛はリングの上でジッと彼女を見ていた。
不思議な魅力を秘めた娘である。
どこが魅力的なのかと尋ねられても、上手く説明できない。
説明はできないが、全身の感覚がすべて彼女に惹かれてしまっている。
辻希美の魅力。

カァーン!

感覚をもう抑えきれなくなった時に、ちょうどゴングが鳴った。
辻は足を大きく開き、頭を下げて握りしめた拳をその前にもってくる。
愛は左足を前にやや半身で、両手は軽く開いた。
辻は完全に打撃の構えで、愛は寝技を狙った構えである。
すぐにでも飛び掛りたい衝動を抑え、愛はジッと辻の動きを観察する。
どっちが何処を怪我しているとか、そういうことはもうすっかり頭から消えていた。
それは向こうも同じはずである。
今ここに立つ高橋愛と、今ここに立つ辻希美、そのどちらが上かを比べ合うだけだ。
わざと狙うということも狙わないということもない。
激しい攻防の内にたまたま当った箇所がたまたま怪我をしていたということでしかない。
そういう余計な駆け引きでこの闘いを汚したくはなかった。
二人の娘が純粋に強さを比べ合うこのリングを、もはや神聖にすら思える。

437 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:25 ID:4s+kuKEw
「やあっ!!」

数秒のにらみ合いののち、辻が気合を入れた。同時に前へ突進を始める。
先に手を出すということは、先に隙を見せるということでもある。
それを踏まえた上で尚、辻は前に出ることを選んだ。それがジブンだからだ。
辻は突きではなく蹴りを放った。愛の腹を狙ったまっすぐな蹴り。
愛はその蹴りにすら魅力を覚えた。
先ほど藤本美貴が放ったものと比べると、月とスッポン程の蹴りである。
フェイントも連携もない、シンプルに相手を倒す為だけに放った蹴り。
空手を始めて数ヶ月の者が放つ程度のそれが、やけに全身をくすぐるのだ。
果たしてどれほどの威力をもつのか?
一瞬受けてみようかと躊躇さえしてしまった。
すぐに考え直し、愛は前払いで蹴りの軌道を変えて避ける。
続いて左の直突きが顔面を狙ってきた。
これもまっすぐで、相手を倒す為だけに放った、実にシンプルな直突きである。
愛は即座に身をかがめて、これをかわす。すると頭上に強い風を感じた。
豪腕。
今のをまともに受けていたらと思うとゾッとする。
ゾッとすると同時に、その緊張感にたまらない心地よさを感じている自分に気付いた。
愛は笑みを浮かべて、目の前の懐を見た。
突きを空振った辻のふところはがら空きであった。
(いいんか?)
相手を倒すことしか考えていない。気持ちがいいくらい単純でバカな闘い方だ。
そういう相手には遠慮してはいけない。
即座にタックルすると、愛はあっという間に辻を転ばせた。

438 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:31 ID:edjvJduH
寝転んで間接の取り合いをさせたらどちらに分があるかは一目瞭然である。
高橋流柔術には百を超える関節技があり、変則形を含めるとその数は倍以上になる。
それら全てを身に付けている愛は、みごとな体裁きで辻を翻弄してゆく。
この早業に観客も思わず見とれる。
いやむしろ素人よりもグラウンド経験がある者ほどその凄さに気付く。
自称関節技のスペシャリスト斉藤瞳は観客席で目を見開いていた。
(高橋流ってのはこれほどか!)
怪我をおして観戦に来た隣の柴田あゆみも唇をかみ締める。
(あいつ。これほどの技術をもちながら、私との戦いでは打撃しか使ってこなかった)
(私の土俵に合わせて戦っていたのか……だが辻は)
なんとか立ち上がろうと転がる辻の片腕を、愛は両足で挟み込んだ。

『地桜』

高橋流の関節技の体制に入った。体重を使って一気にひねる。
ところが、決めるつもりで掛けた腕がまるでひねれない!
腕力だ。
その常識外れのパワーを柴田戦でも見てはいたが、体験して始めて愛は驚嘆した。
こっちは体重を全部かけているのである。向こうはそれに腕一本の力で抵抗しているのだ。
いや、むしろ抵抗どころか引き戻しているくらいだ。
このままではまずいと判断した愛は腕を放して、すぐ次の技に移行する。
立とうとする辻の背に飛び込んで、首に足を挟みこみ、さらに相手の両腕を背へ引き込む。
技術が違った。小さな子供を相手にしているくらいに容易く技をかけることができる。

『裏獅花』

439 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:31 ID:edjvJduH
前の試合で石黒を締めた獅花の変則形であった。首と腕の両方を絞めている。
今度は地桜と違って、腕力だけで返すことはできない。
首を両足で挟みこんでいるのだ。腕も背中側に回されていて力が入らないはずである。
(どうや!!)
主催者席で観覧していた安倍が薄く笑みを浮かべ、囁いた。

「甘いわね」

ググゥ……!!
背中に回されている辻の腕が音を立てて動く。力が入らない体勢のはずである。
(えっ!)
ついに愛の押さえをふりほどいた二本の腕は、首に絡む愛の足を掴んだ。
普通に考えたら腕の力が足の力に適うはずはない。
普通ならば……。

「ップハァー!!」

腕力で愛の足を振りほどいた辻が大きく息を吐く。
解いてしまった。腕の力だけで返すことはできない技を、腕力だけで解いてしまったのだ。
これが辻希美。
愛は驚嘆の眼差しで彼女を見上げた。
立ち上がった辻希美は、拳を握ってまた頑なに同じ構えをとっている。
技が決まらず悔しくて仕方ない状況なのに、愛は嬉しくてたまらなくなっていた。

「おめぇ、めちゃくちゃ強ぇな」

440 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:32 ID:edjvJduH
グラウンドの攻防が解かれたのでレフェリーが一旦、試合を止める。
ここで立ち上がった愛は息を整える。すでにかなりの体力を消耗してしまった。
あのパワーを相手に絞め技というのは、体力がいくらあっても割りに合わない。
彼女はどうだろうか?辻希美はどれほど体力を消費したであろうか?
いや気にするな。気にしてても仕方ない。
愛は、今度は拳を握って左斜めに構えた。

ただ、ひとつ、わかったことがある。
グラウンド―――関節技や絞め技では辻希美は倒せないということだ。
辻希美に勝つには打撃、立ち技で勝たねばならぬということ。
(あの破壊力を相手に打撃かぁ……)
考えただけでも震えてくる。
そんなことを考えている内に、再開の合図があった。
またも辻希美はまっすぐに突進してくる。本当に相手を倒すことしか考えてないらしい。
いいだろう。とことん、つきあってやろう。
こっちだって、お前を倒すことしか考えていない!
大振りの左フックをジャンプして避ける。避けると同時に顔面目掛けて飛び蹴りを放った。
これを辻は右腕でガードする。
(はい、引っかかった。実は左右連蹴りやよ〜)
右足はガードされるも、左足は辻の頭部を完璧に打ち抜いていた。
辻を責めることはできない。空中で両足の連蹴りなど普通はできっこない。
愛の並外れた運動神経がこの妙技を可能にするのである。
ガクンと辻が膝をついたので、レフリーはすかさず10カウントを取ろうと手を上げる。
だがレフリーがダウンと発声する前に辻は膝を上げ、突進していた。
それに愛は虚をつかれる。

441 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:33 ID:edjvJduH
まさかあの蹴りがこんなにも早く回復されるとは思っていなかった。
いや、回復はしていない。していないが辻は向かってきたのだ。
実は頭部にダメージを受けた為、このとき辻は眩暈を起こしていた。
ほとんど何も見えない状態で立ち上がり拳を打ち上げる。
前にさえ打てば何処かには当たると、揺らぐ意識の中で本能がそうさせたのだ。
それがたまたま愛の頬から鼻にかけてヒットした。
左のアッパー。辻の体勢も不安定であった為、完全な打撃にはなっていない。
それでもとんでもない攻撃力を含んでいた。

「ぐぶっ!」

吐血。口の中が切れた。鼻と口に赤い液体の出現を感じた。
まずい、と愛は恐怖を感じた。辻はすぐに二撃目を打ってくる。
今これをもう一発もらうのは非常にまずい。無我夢中で裏拳を放つ。
ダメージを期待したものではなく、とにかく一瞬でも辻を近づかせない為に放ったものだ。
その裏拳が偶然、辻の左目の脇にヒットする。

「うっ!」

たまらず辻は目を閉じる。チャンスであった。
さっきのアッパーのダメージが著しく残っているが、それどころではない。
鼻と口の中に血が溜まって息苦しいが、それどころではない。
ここで攻めなきゃ、いつ攻めるというのだ。
とにかく一発で一番破壊力が高い攻撃――――本能が体を動かす。
無意識に膝が飛んでいた。

442 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:33 ID:edjvJduH
辻の髪をひっぱり、その顔に向けて思いっきり右膝を叩き込んだ。
膝に嫌な感触を感じるが、気にしてはいられない。
さっきの吐血で愛の意識が変化している。――――やらなきゃやられる!
すぐさま右の拳を叩き込む。それが裏拳と同じまぶたの横にあたった。
膝蹴り、突きと見事なコンビネーション。最後に足刀をどてっ腹に打ち込んだ。
辻希美の小さな体が仰向けにひっくり返る。
マウントポジションを取って勝負を決める!と愛はさらに追った。

グルン!

愛は目を見張った。
ひっくり返った反動に逆らわず、辻が後ろにでんぐり返りし膝立ちになったのだ。
そのままピョンと飛び上がってきた。突進していた愛は反応が間に合わない。
強烈な頭突きが愛の顔左半分を吹っ飛ばした。
あれだけの連続攻撃を受けてどうしてこんなにすぐ反撃できるのだ!?
――という考えが一瞬だけ愛の頭をよぎる。それも一瞬にすぎなかった。
次の瞬間には別のものが愛の視界に入ってきたからだ。
辻希美の前蹴り。
この試合の一番最初に放った、あのまっすぐすぎて魅力溢れる蹴りだ。
あのときは受けてみようかと思って避けたのだ。
今は避ける余裕もなかった。その蹴りが愛の腹筋をぶち抜いた。
辻のつま先が背中にまで到達したのではないかと思うほどすさまじい蹴りであった。
――――――――あそこで受けなかったのは正解だったと分かった。
胃の内容物が一気に逆流してくるような最低の感触。
愛の意識は……闇の常世へ落ちていった。

443 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:34 ID:edjvJduH
「エヘヘ、私泣いちゃった。やっぱり寂しいもんやわ」
「泣くのはいいけどさ。鼻水とヨダレまで一緒に出てたから、愛の場合」
「え〜!そんなことないって!」

…………制服を着た女の子が二人、川原の草の上に座っている。
…………あれは

「あーでも、女子高生も終わりかぁ〜。とうとうって感じやわ」
「元々女子高生らしいことなんてしてなかったっしょ、うちら」
「殴るか蹴るか?」
「絞めるか落とすか?」

…………顔を見合わせてプッと噴出し、爆笑する二人。
…………そう、あれは卒業式の日の私と亜弥だ。
…………どうして今、こんな記憶が?

「明日の朝、愛の道場にも挨拶いくね。色々お世話になったし」
「そっか、明日の午後にはもう東京に行くんやったっけ?」
「うん。上京物語」
「あぁ〜東京でぇ〜夢かなえ〜♪」
「ボクはキ〜ミ〜のこ〜と〜を迎え〜にゆくぅ〜♪」
「なんや、キミって私か?ええよ、迎えにこんで」
「何で愛なんか迎えにいかなくちゃいけないのよ」

…………そうそう、そのままあそこでまたドツキあったんやった。

444 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:35 ID:edjvJduH
「ハァハァ……なんで卒業式に殴り合いせなあかんのやって?」
「フウフウ……知らない」

…………小一時間、取っ組み合った末、並んで草むらに寝転んだんだよね

「まぁ、今回は百歩譲って、引き分けってことにしておいてあげるわ」
「引き分けね。卒業式やしの、私も大目に見ておいてあげるわ」

…………二人揃って、負けず嫌いだったんだね。
…………それで日も暮れてきて、亜弥が真面目な顔して言ったんだ。

「愛。私はいつか、ジョンソン飯田さんを超えるくらいのレスラーになってみせるから」
「亜弥がそう言うなら、私は夏美会館の安倍なつみを倒そうかな」
「そしたらさ。うちらの決着、つけようぜ」
「いいねぇ〜!てっぺんで!決着を!」
「地上最強を賭けてね」
「宇宙最強、やろ」
「アハハそうでした。それまで、誰にも負けんなよ!」
「そっちこそ、誰にも負けたらあかんよ!私以外には」

…………そう言って、互いの拳をつき合わせた。
…………あの日、約束したんだ。誰にも負けないって!
…………いつか立つ、てっぺんの!決戦の日まで!
…………そうだった!亜弥!私は負けない!!

445 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:36 ID:edjvJduH
「立てっ愛!!」

声が聞こえた。
この声は……そう紺ちゃんだ。
徐々に意識と視界が戻ってくる。足とマットが見えた。

「セブン!」

誰かなんか言ってるわ。セブンやって。セブンって……え、カウント?
ちょっと待って、もしかして私にカウントしてるの。バカ言ったあかんて!
ダウンしてるんならしてるって言ってや!立つって、立つに決まってるが!
負けないって約束したんやよ!数えるの早すぎ!
ほら、立った。ほら見てや、レフェリーのおっちゃん。私は全然平気やよ。
ファイティングポーズもバッチリ!

「続けられますか?」

誰に聞いてんの?わざわざ立って「できません」なんて言う人えんわ!
くだらん質問してんと、とっとと始めてや。
ほら、あちらで辻さんもお待ちかねや。ごめんね、待たせたの。
イヒヒ〜私が立ったのに、ちっとも残念そうな顔してえんわ。
辻さんもうちらみたいに地上最強を目指してるんやろ?
安心してや、これからやから。私はとことんつきあうよ。
決めよう!どっちが上にふさわしいか!

446 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:37 ID:edjvJduH
ひどい顔をしてる。
辻さん、左目のまぶたつぶれてるし、膝けり食らった口と鼻が血まみれやよ。
私はどうなんやろ、私も色々くらったような気がする。
そういえばさっきから鼻と口の中がやけにヒリヒリしているなぁ。
でも私の攻撃の方がたくさん当っているはずや。
よう見たら、辻さんの空手着まっ赤やわ。……って、私もや。
しかし凄い攻撃だなぁ。これだけの疲労と痛みの上でなお、まっすぐな正拳突き。
だけど突きは全部左で、右の拳をまだ使ってきてないよ。
使えないのか?とっておきなのか?もしかしたら忘れているのかもしれない?
あんまり楽しすぎて忘れちゃったか?
私もなんか忘れてるような……まぁいいや、考えている時間すらもったいないわ。
どうやったら、この人を倒せるか?
その一点だけに集中して攻める、攻め続ける。
ミドルキックをフェイントにパンチの連打。これがおもしろい様に当たる。
やはり蹴りを警戒しているのか?私のパンチでは倒れない自信でもあるのか?
いいさ、倒せなくてもダメージは残る。少しずつでも蓄積されてゆく。
本当に……蓄積されてるんか?
スタミナが無尽蔵かと思えるほどに、彼女は攻撃の手をゆるめない。
さすがに私も全部は避け切れない。彼女の打撃はガードの上からでも半端なく効く。
だが、本物の一発さえもらわなけりゃいい。
辻希美が本気で放った一撃は、ガードもへったくれもあったもんじゃない。
あゆみちゃんのフリージアですら破壊する。
絶対にそれだけはもらってはいけない。
奇跡を起こさせてはいけない!

447 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:37 ID:edjvJduH
…………………………
………もう……どれくらい経った?
こうして何分くらい打ち合っているのだろう?
時間の感覚がさっぱり無くなっていてわからない。
感覚のすべてが辻希美に魅了されている。
目は辻希美しか見えないし、耳は辻希美の発する音しか聞こえない。
鼻と口はとっくに潰されているし、皮膚はもう幾度辻希美の皮膚に触れたことか。
こんなにも人と人は一体化できるものなんやなぁ。
もっと求めている。
感覚の全てがもっともっと辻希美を感じたがっているんやわ。
彼女もまた私のことを凄い目で見ている。
辻希美の全感覚を私に向けている。

「最高や」

想いが口から出ていた。
これだ、と思った。こんな闘いをしたいからこの道を選んだのだ。
普通の女の子ならば、友達や彼氏と遊び歩く年頃かもしれない。
そういうことを全て捨てて、選んだ道である。
毎日を強くなるためだけに費やした。
食事も睡眠も、強くなる為に効率の良い摂取法をした。
生活のすべてを強くなること、ただその一点に注ぎ込んで、生きてきた。
こんな闘いをする為に。
自分のすべてをぶつけられる最高の相手と最高の闘い。こんな幸せなことは無い。
最高だ!

448 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:38 ID:edjvJduH
打撃の応酬。尽きることなく続く打撃の応酬。
(いや、しかし、トンデモナイ人やわ)
あらためて思う。もう何度思っただろう。
こんな小さな女の子が、よくもここまで強くなれるものだ。
普通に驚いている。尊敬の念すら覚える。
そして今、辻希美という格闘家と一対一でぶつかり合えているという幸運を感謝したい。
感謝?誰にや?神さまにか?違うやろ。
柔術を教えてくれたお父さんとお爺ちゃんにか?いや、違う。
この舞台を用意してくれた安倍なつみにか?それも違う。
あえて言うならば、高橋愛に感謝したい。
ようやった。高橋愛。よくぞ辻希美とこれだけの試合ができるまでに強くなった!
本当にお礼をいいたい。ありがとうと頭をなでてやりたい。
そして欲を言うならばもう一つだけ、お願いを聞いてほしいんやわ。
勝ちたい。
どうにかして、この辻希美という素晴らしき格闘家をぶちのめしたい。
その為に高橋愛の全てを引き出してほしい。
回し蹴りをかわした。ほら、今や!

『ラブ・クロス』

高橋流を愛が独自に改良した自慢の必殺技を、ここにきて放つ。
横の右蹴りと左の縦蹴り、二発ともヒットする。
(倒れろ!!)
ズザァ!!なんと辻希美はこれを踏みこらえてみせた。
(冗談やろ)
人知を超えたと言っても良いスタミナであった。そしてまたまっすぐに攻めてくる。

449 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:40 ID:edjvJduH
辻希美。
一体どうすればこの恐るべき人物を倒すことができるのだろう?
関節技では倒せない。立ち技…自分の技で一番自身があるラブ・クロスでも倒せなかった。
(もしかして…)
あまねく打撃の波の中に浮かび上がる一転の疑念。
(もしかして、私はこの人を倒せないのでは?)
愛はその想いを強引に弾き飛ばす。
(何を言ってるんや、そんなはずはない!私は負けない!)
渾身のハイキックが辻の額を打った。完全ではないが、それでも辻はグラッと崩れた。
(ほら見ろ!彼女も効いている!ダメージがあるのは私だけじゃない!)
(五分や!まだ勝負はこれか……)
手のひらが飛んできた。無我夢中で放ったものであろう。
愛はそれを右手で払いのける。その向こうに何かが見えた。
(あれは……!)
迷いが一瞬の隙を生む。
右の正拳!
この試合で始めて、ついに出てきた右の正拳が物凄い勢いで私の体に向かってくる。
これはいけない!よける?ガード?どっちも間に合わ……
彼女の繰り出した拳の位置がたまたま脇腹。
そういえば脇腹を怪我してた、とようやく脳裏をかすめた。
凄く速いのに、その光景がまるでスローモーションのように見えた。
鈍い音の重なり合いと、正拳が脇腹をえぐるその絵が、目に焼きついた。
(ダメだ!ダメ!ダメッ!)

ドンッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

450 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:40 ID:edjvJduH
痛。
神経のすべてがその一文字に集約される。
悲鳴をあげてはいなかった。愛自身は物凄い悲鳴をあげているつもりだった。
それが音にならぬほど、口も喉も「痛」という言葉に囚われていた。
「恥」とか「プライド」という単語も、この「痛」という一文字に屈してしまった。
マットを転げ回った。
何万という観衆とテレビカメラの見ている前で、マットをのたうちまわった。
のたうち回っているとき、ある娘が視界に入った。
その娘は白いタオルを今にもリングへ投げようとしていた。
(言っておきます。もし辻さんの正拳を同じ箇所に受けた場合、私はタオルを投入します)
彼女は試合前にそう語った。それを思い出した。
「敗北」
その単語が体内において絶対的支配を続ける「痛」の領域を超えた。

「紺ちゃん!!!」

愛は吼えた。物凄い顔で紺野あさ美を見た。
ビクッと紺野は動きを止めた。愛はもう一度彼女の名前を叫んだ。
それを投げたら一生許さない!
それほどの迫力で愛は紺野を見た。汗と涙と痣と血だらけの顔で紺野を見た。
(立て!すぐに立たなければ紺ちゃんはタオルを投げる!)
死ぬ気で歯を食いしばった。
あばら骨は間違いなく破壊されている。立つどころか呼吸すら難しい。
熱と、寒気と、痛みと、痺れと、吐き気と、色んなものが体中を暴れまわっている。
それでも立つんだ!

451 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:41 ID:edjvJduH
立ち上がった。
怪我した箇所に辻希美の正拳を受けてなお高橋愛は立ち上がった!
そして辻希美を見た。
するとどうだ。辻希美も拳を押さえて床にうずくまっているではないか。
審判が「両者ダウン」と言っている。
やはり辻の拳も正常ではなかった。正拳を放った辻自身も相応のダメージを受けている。
彼女も立ち上がった私を見てググッと起き上がった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

二人が再びこのリング上に立ち、物凄い大歓声が鳴り響いた。
しかし愛には聞こえていない。
立ち上がっても壮絶な痛みが止むことなく続いていた。
少しでも気を抜いたらすぐに気を失いそうな酷すぎる痛みであった。
負けたくない。その想いだけが愛を支えていた。

試合再開の合図。
辻希美がやはりまっすぐにむかってくる。
愛は一歩足を前に出しただけでそこに留まった。
一歩前進するだけで激痛が倍増して、とてもそれ以上踏み出せなかったのだ。
信じられない程の激痛であった。
辻は右拳を使わず左拳と蹴りだけで攻めてくる。
この激痛の上さらに、彼女の打撃を受けたらどうなるのか想像したくもなかった。
「痛いからちょっと待って下さい」なんて言えるはずもない。
少しの遠慮もなく、辻の打撃は愛をぶっ叩いた。

452 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:42 ID:edjvJduH
痛い。泣きたい。逃げ出したい。
愛は自分がどうしてここにいるのか分からなくなっていた。
殴られるたびに激痛が増し、蹴られるたびに激痛が増す。
とてもじゃないが攻撃なんてできる余裕はない。
なんで私は立ったのだろう?なんであのままダウンしていなかったのだろう?
なんで紺ちゃんはタオルを投げてくれなかったのだろう?
なんでこんな辛い目にあわなきゃいけないのだろう?
そんな思考がグルグルグルグルと頭を巡る。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
不思議だ。
さっきまでの自分はこれを幸せだと思っていた。
今はどうだ?一方的にやられている。
五分の闘いだと思っていたのに、手も足も出ない。
こんなにも、こんなにも力の差があったのか?
負けたくは無い。だがどうすれば勝てるのか、まるで見えてこない。
あそこであの技を使えばよかったとか、あそこは引くべきだったとか、そういう言い訳
すら思いつかない。自分は万全のコンディションで、完璧な試合運びだった。
少しの出し惜しみもしていない。
高橋愛のすべてを注ぎ込んだ。
その結果がこれだ。
(辻さん…もういいです。終わらせてください)
(怪我の場所をもう一度叩けば、すぐに終わります)
こんな情けない思考さえ浮かんだ。そこで疑問も浮かんだ。
これだけ叩かれていてどうしてあれから一発も怪我の箇所に打撃が入っていないのか?
(もしかして……)

453 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:43 ID:edjvJduH
すでにかなり危険な状態にある。
もう一発同じ場所を叩かれたら死の危険、良くても再起不能。
普通の生活すらできなくなる可能性が高い。
(それで…打たないんか?)
同情だ。そこまですることは無いと思われている。手を抜かれて相手されているのである。
わざと愛が怪我している場所を避けて攻撃しているのだ。
自分を見る辻希美の目が、哀れみの目の如く映った。
それは敗北よりも屈辱的ことであった。
肉体的強さだけではない。心までも砕かれた。

「このまま負けたら……」

「弱い」と思われるならばまだいい。さらに修行を積んで強くなればいい。
だがそんな素敵なものではない。
「かわいそう」と思われたのだ。情けをかけられているのだ。もう対等の戦士ではない。

ゴンッ!

辻の左フックが愛のアゴをきれいに打ちぬいた。
前のめりに愛は倒れた。前にあった辻の空手着にしがみついた。
(このまま負けたら……私はもう二度と……)
愛は必死にしがみついた。辻はそれを黙って見ていた。
(……もう二度と……戦えな)
腰の位置からズルズルと膝の位置へと落ちて、ついには顔がマットに付いた。
動かなくなりそれでもずっと愛は辻の足にしがみついていた。

454 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:43 ID:edjvJduH
「勝負ありぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

黄金の輝きの中で、ただひとり辻希美は天を仰いだ。
勝利を噛み締めるでもなく、痛みに震えるでもなく、ただジッと天を仰いでいた。
ゆっくりと視線を下に落とす。まだ高橋愛が自分の足にしがみついている。
辻はしゃがんで、その手を外していった。そして小さく囁いた。

「強かった」

その囁きが愛の意識に届くことはなかった。
愛の手を外すと辻はその足でリングを降り、退場していった。
その間中、惜しみない拍手と歓声が辻希美に注がれた。
物凄い歓声であった。今までで一番大きく長い歓声である。
それは辻希美が退場口に消えても、止むことはなかった。

リングに残された高橋愛はピクリとも動くことなく、紺野と大会スタッフの手により、
担架で即座に医務室へと運ばれていった。もちろん歓声は彼女にも注がれていた。
本当に、本当にすばらしい闘いであった。
その素晴らしい闘いを制したのは辻希美。誰ももう「奇跡」とは言わない。
その強さは本物、今ここで誰もが目にした。辻希美は強い!
最強まであとひとつ!

準決勝第一試合 勝者 辻希美 13分6秒 KO

第20話「高橋愛vs辻希美」終わり

455 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/09 23:45 ID:edjvJduH
今回の試合、一気に更新しました。

456 :名無し募集中。。。:04/04/10 00:11 ID:Z66p/IYp
更新乙
いつもながら読ませてくれるなぁ

457 :名無し募集中。。。.:04/04/10 02:21 ID:ACRBZf9y
更新乙です。ほんっとに乙です。

458 :ねぇ、名乗って:04/04/10 03:42 ID:gMJdbUrc
更新乙です。
一気に読ませてもらいました。すげえ…。

459 :ねぇ、名乗って:04/04/10 05:18 ID:nXtua107
乙です
予想以上の展開に引き込まれます

460 :名無し募集中:04/04/10 15:58 ID:ZvP21dnu
その「強かった」が
「あんたに勝てたあたしは強かった」って意味もあるのかなと思ってしまいました

461 :名無し募集中。。。:04/04/10 20:12 ID:NH4IvFvl
うおおおおお!!!
すごい!!てっきり・・
こうふん!!!!!!!

462 :名無し募集中。。。:04/04/11 00:14 ID:pJyloCLg
辻豆さん乙です。
辻ちゃんはその潜在能力によって試合内容で圧倒するも、
ルールによっての負けを予想(期待)してましたが、あっさり裏切られてしまいました。
次の試合の結果予想しても、また裏切られてしまいそうで楽しみです。




463 :名無し募集中。。。:04/04/12 06:45 ID:wz/5q02U
こんな時間に興奮しちょっと涙しちゃった

464 :名無し募集中。。。:04/04/12 09:00 ID:UX+d2797
乙です!

高橋負けちゃった。
予想外の展開ですな。

次回も楽しみ!

465 :名無し募集中。。。:04/04/12 14:21 ID:HVc3Qw2T
乙です。高橋やっとで負けましたね。いい負け方でしたね!
ネタバレすいません・・

466 :名無し募集中。。。:04/04/13 00:49 ID:ZNfxQFYB
すごかった
はまりすぎて息が詰まった

467 :ねぇ、名乗って:04/04/13 04:51 ID:ibTpA0mk
いつもワクワクしながら見てます
感想でネタばれってどの程度してもいいのかな
あまり書き込まないもので…

468 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 21:58 ID:LIaq8Fge
>>460
辻の言葉にそこまでの裏は含まれていないと思います。
思ったことをそのまま言ってしまう単純明快なキャラかと。
でも読者それぞれの読み方がありますし、色んな捕え方があってもいいと思います。

>>462
僕も実際の格闘技なのでどっちが勝つか予想するのが好きなので
どうぞどんどん予想してください。
これからも良い意味で裏切り続けていきたいと思います。

>>463
こんな小説で涙ですか。どうもありがとうございます。

>>465
いい負け方という評価は嬉しいですね。ここで高橋が負けることは最初の段階から決まっ
ていまして、試合描写をどうするかはずっと悩んでいましたので。

>>467
ネタばれに関しては、どうなんでしょうかね。
後から読む人のために勝敗とかは書かない方がいいのでしょうか?
まぁその辺は読者個人の裁量にお任せします。

469 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 21:59 ID:LIaq8Fge
第21話「藤本美貴vs矢口真里」

試合の余韻は、辻と高橋が退場した後も色濃く残っていた。
歓声と感嘆と拍手の音が、少しも収まる気配はない。
安倍なつみも大振りの拍手を贈っていた。
だがこれで息つく暇もなく、第二試合開始の時間はもうすぐに迫っている。
藤本美貴は安倍なつみの横で今の試合を観戦していた。

「いやぁ。のの、高橋愛、ほんとに気持ちいい試合をする奴らだべさ」
「全くうらやましいぜ。私もああいう、全力をぶつけられる闘いをしたかったんだよ」
「できるじゃん。これからすぐに。相手もいる」
「ああ。矢口真里。不足はねえ」

藤本の顔に狂暴な笑みが張り付いていた。
辻希美の闘いに触発されたのだ。狂気をゆっくり体内に潜め、試合開始の時間を待つ。

「負けられないね美貴。プレッシャー、感じる?」
「私がそんなもん感じると思うか?」
「いや。思わないから、聞いたのさ」

ひょうひょうとした笑みで答えるなっち。笑みで返す藤本。
やがてセコンドの里田が「時間だ」とやってきた。
黒帯を軽く締め直し、スッと藤本は立ち上がった。
どこか底の知れない表情の上、全身から突き刺さる様な闘気が溢れ出ている。
ようやく藤本美貴の本気が見れそうだ。

470 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:00 ID:LIaq8Fge
「辻希美が勝ったぞ」

男子柔道の猛者を相手にウォーミングアップを行っていた矢口の足が止まった。
小川五郎の吐いた台詞に、珍しく反応したのである。

「高橋を破ったのか」
「そうじゃ」

精悍な顔をしていた。普段のにぎやか担当矢口真里ではない。
柔道着をバッとひるがえし体にまとわりついた汗を払う。

「好都合じゃん」
「ウム。準決勝で藤本、決勝で辻、最後に安倍なつみ。全部投げてやれ」

矢口は無言で頷く。言うまでもない、元々そのつもりだ。
一番下から、てっぺんの安倍なつみの所にまで駆け上がる。
安倍なつみの喉元に噛み付くまでは、矢口真里は死んでも止まらない。

「そろそろ時間じゃの。おい、麻琴はどこじゃ?」

セコンドにつくはずの孫の姿が見えず、小川五郎は怒鳴った。
すると矢口真里はキッパリ言い放った。

「セコンドは必要ない。これはおいらの喧嘩だ」

471 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:07 ID:yVJn7cXX

準決勝第二試合

藤本美貴(夏美会館空手)21歳



矢口真里(講道館柔道)23歳

472 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:07 ID:yVJn7cXX
邂逅の時。
この二人の出現により、余韻の残る会場がビリビリした雰囲気に一変した。
あからさまに矢口を睨みつける藤本。
真正面からその眼光を睨み返す矢口。
リング上に、この気の強い二人を並べることはあまりに危険すぎた。

「さっきとは違う意味で、おもしろくなりそうだべ」

安倍なつみがニコニコ見守る。
リングの下には、石黒や新垣といったハロープロレス軍団の姿も見えた。
メロンの柴田やボクシングのミカも観覧席にいた。
紺野あさ美と小川麻琴は愛に付き添って医務室にいる為、会場に姿はない。
辻希美は自分の控え室で体を休めながら、小型モニターでゆく末を見守っていた。
この試合の勝者が決勝戦で辻希美と激突するのである。
そして目立たぬ柱の影に謎の人影が三つ、リングを見下ろしていた。

「よぅく見ておきなさい。これが今の格闘技界トップクラスの試合よ」

一番大きな影が、残り二つの影にそう告げた。
その影がうっすら笑みを浮かべているようにも見えた。
セコンドは藤本側に里田、矢口側には誰もいなかった。
藤本も矢口も一回戦を7秒で勝利している為、コンディションは万全である。
むしろ暴れたりなくてウズウズしているくらいだ。
強すぎる二人。
試合開始のゴングが鳴った。

473 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:08 ID:yVJn7cXX
気の強い二人である。
どれほど激しい戦いになるであろうと、観衆はみな息を呑んだ。
ところが、ゴングが鳴ってリング上に出現したのは、驚くほどの静寂であった。
両者一歩も動かない。
矢口真里は柔道の構えをとって、ジッと藤本を見ている。
藤本美貴に至っては構えすらとらず、手をブランと下げて立っているだけ。
睨み合ったまま、膠着が続いた。
10秒…
20秒…
30秒…
少しも動こうとしないまま、時間だけが流れてゆく。

「バカヤロー!つまんねえぞ!!」

野次が飛んだ。
それを皮切りに次々とブーイングが飛ばされた。
一人が言えば、周りもそれに同調する。
気がつけば、観客の大半が騒ぎ始めていた。

「バカはどっちだ……」

リング下で石黒彩が呟いた。その顔にいっぱいの汗が浮かび上がっている。
それは新垣や柴田や里田も同じであった。
分かる者には分かるのである。
ここで行われている闘いが……どれほど恐ろしいことかが。

474 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:09 ID:yVJn7cXX
二人は動かないのではない、動けないのだ。
先に動いた方がやられる。
藤本美貴。矢口真里。ともに一瞬で相手を葬る技を有している。
先に動くということは先に隙を見せるということ。
まして、このレベルの闘いではその一瞬の隙が命取りになる。
それを立ち会ってすぐに二人は悟ったのだ。
だから動けない。

「私だったら……10秒も持ちませんよ。この緊張感」

新垣が隣の石黒に呟いた。
その視線は捕らわれたかの如くリング上を見つめ続けている。
震えていた。リングの下にしてこれだけ震えているのだ。
もしリングの上で、あんな風に睨まれていたらと思うと、気が遠くなる。

「まばたきはするな。終わっているぞ」

石黒が新垣に言った。その瞳は完全にリング上を見入っていた。
彼女が言った内容、まばたきの間に勝負がついているかもしれないということ。
この二人を見ていると、それがあながち間違いでもないと思えてくるから恐ろしい。
矢口真里は汗をかいていた。
藤本美貴の額にも汗が浮かび上がってきた。
まだ、どちらも動かない。
ビリビリ、ビリビリした空気がリングを駆ける。
その緊張感が少しずつ、少しずつ会場全体へと広まってゆく。

475 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:10 ID:yVJn7cXX
リングに近い所の観客がまずブーイングの声を止めた。
その異様な試合が伝わってきたのだ。
分かりはしないが、何か物凄いことになっているという感覚だけが伝わった。
その後ろの席の者もフッとその感覚に包まれ、野次を止める。
またその後ろの者も……
そんな風に輪は少しずつ、だが確実に会場全体へと膨張してゆく。
いつしかブーイングは聞こえなくなり、二人の間に流れる緊張感が空間を包み込んでいた。
5分経過。
まだ藤本美貴と矢口真里は最初の構えのまま、にらみ合っている。

「化け物め。なんて精神力だ、こいつら」

石黒がググッと歯を噛み締めた。
それは真剣の刃を目の前において、その動きを待ち続けるという行為に等しい。
藤本美貴。矢口真里。恐るべき怪物たちである。
果たしてどちらの精神力が先に折れるか?
今や会場全体が、完全なる沈黙に飲み込まれていた。
物音ひとつ立てることが、この緊張感を妨げる冒とくにすら思えてきた。

―――――そして10分が経過した。

そこは異様な空間と成り果てていた。
何万の観衆と二人の戦士が、ジッと固まり続けている。
動きも音もない。
想像を絶する緊張感だけが空間をウネウネと渦巻いていた。

476 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:10 ID:yVJn7cXX
「やれやれ、これじゃあキリがないわねぇ」

「静」に包まれた空間の中で唯一、囁く影があった。
柱の奥でリングを見下ろす三つの人影の中で、一番大きな者であった。
突然、その人影が思いっきり両手を叩き合わせたのだ。

パァンンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

静寂の中、その音はすごい大きさで響いた。
針の穴に糸を通すような緊張感の中で突然の物音。
ドンと藤本美貴の体に響いた。
ドンと矢口真里の体に響いた。
限界まで堪えていたものがそれでプツリと切れた。
二人は同時に吼え、同時に動き出してた。

「うおおお!!」
「うおおお!!」

刹那、矢口の右手が藤本の襟を狙って伸びた。
刹那、藤本の右足が矢口の頭に向かって蹴り上げられた。
矢口は左腕で頭部をガードしていた。
ブウゥンと藤本のハイキックが変化し、ガードの下をくぐり抜けた。
矢口の右手が藤本の襟を掴み取った。

ガゴォン!!

477 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:12 ID:yVJn7cXX
ハイから変化した藤本のミドルキックが矢口の小さな体を蹴り上げた。
物凄い威力で、矢口の体が斜め上に浮く。
だがその右手はまだ藤本の空手着の襟を掴んだままだ。
続けざまに藤本は右の正拳突きを、宙空の矢口目掛けて放つ。
そのとき、ガシィと何かが藤本の左足首を掴んだ。
地面から生えた腕に足を掴まれるホラー映画みたいな恐怖が、藤本の背を駆け抜けた。
掴んだのは矢口の足指。

ブゥン!

生まれてこのかた、体験したことのない世界を藤本は知る。
コンマ何秒の間に天地がひっくり返るのである。

ズドダァァァァアァン!!!!!!!

「ヤグ嵐きたぁ―――――――――――――――――――っ!!!」

講道館の者たちが一斉に叫んだ。
が、次の瞬間、その目に信じられない光景が映る。

神話がある。
「矢口真里は倒れない」
誰も矢口真里が倒れた所を見たことが無い。

彼らがもう一度リング上に目をやったとき、その神話がガラガラと音をたてて崩れ落ちた。

478 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/13 22:13 ID:yVJn7cXX
『両者ノックダウーン!!!』

レフェリーの声が轟く。
ヤグ嵐で投げられた藤本はもちろん倒れていた。
だが、投げたはずの矢口までがその体を地に落としているのである。

「ガハッ!!」

矢口の口から赤い血が吹き出た。
よく見ると、矢口の背中が一箇所だけ拳の形で盛り下がっている。
誰の拳の跡かなど問うまでもない。一人しかいない。
藤本美貴だ。
恐るべき女であった。投げられながら、放っていた正拳を叩き込んでいたのだ。
仰向けの藤本がグルンと転がり、ニィと笑みを浮かべた。
そして立ち上がった。これも初めてのこと。
『矢口真里は倒れない』
『ヤグ嵐を受けて立ち上がった者はいない』
二つの神話を、この怪物は一気に崩してしまったのである。
血を吐きながら矢口もフラフラと立ち上がった。
藤本美貴は微笑を浮かべながらそれを見下ろしていた。
実はこのとき、ヤグ嵐の破壊力で藤本の体はかなり破壊されていたのである。
それを恐ろしく強靭な精神力で、何事もないかの様に振舞っていたのだ。
もちろん、ダメージの大きさで言えば矢口もかなり深刻である。
なにしろあの藤本美貴の蹴りと正拳をまともにもらっている。
五体満足が一転して満身創痍。まさに危険すぎる二人の戦い、そのものを表していた。

479 :名無し募集中。。。:04/04/14 01:42 ID:HG9JVout
乙です!なんか、また・・・いろんな人たちが

480 :ただすん:04/04/14 03:23 ID:ZgMrdruR
今後の予想

突如、保田と道重と亀井が現れて試合をぶち壊す!
特に出番がなくてキレた亀井が負傷した選手達を次々と葬りさる。
しかし、そのとき安倍が立ちはだかる。
死闘の果てに亀井を撃破する安倍であったが、試合自体がおじゃんになってしまう。
病院に運ばれながら亀井が言う。「つ、強いって何ですか?教えて下さい安倍さん…」

後日、敗北した高橋と松浦はお互いに励まし合い、再起を誓い感動的に終わる。
((((┌(┐_Д_)┐ナンチャッテ

481 :名無し募集中。。。:04/04/14 03:36 ID:RoeBOsr0
今後の予想
>>307


482 :名無し募集中。。。:04/04/14 19:27 ID:D7f9bDK8
辻豆さん乙です
すごい試合ですね
どっちが勝つのか楽しみに待ってます

483 :名無し募集中。。。:04/04/14 21:16 ID:HG9JVout
>>481
同感です!
なっち皆殺し!!!!!!

484 :ねぇ、名乗って:04/04/14 22:08 ID:sJFE2cyO
>>480-481
予想とかはスレを無駄に消化するから別スレでやらない?
↓とかでさ・・・
http://tv4.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1081388963/l50


485 :名無し募集中。。。 :04/04/14 23:04 ID:GLFIp02G
 めちゃくちゃおもしろいですね。主人公が柔術使いなのが(・∀・)イイ!
『高橋流柔術』で思い出したのが、以前ジャンプで連載していた「真島クン、すっとばす」
です。『陣内流柔術』を使っていた主人公が異種格闘技の舞台で様々な強者と闘っていく
話に、当時個人的にハマった記憶があります。高橋をみてるとあの漫画の主人公を彷彿させます。
作者さんも読んだことありますかね?(人気無いから知らない人の方が多いかも…)

 こっちの話はこっちの話で今ハマってますので、更新楽しみにしてます。






486 :名無し募集中。。。:04/04/15 02:28 ID:NsWArUKZ
おしーりふーりふーり、もんがもんがー♪

487 :ねぇ、名乗って:04/04/15 09:17 ID:0oRZUsZB
>>485
真島クンって前髪だけ緑のヒトだっけ?

辻豆さん、いつもながら乙です。
今回でてきた3人組は誰なんだろう・・・。
次回更新を楽しみにしております。

488 :ねぇ、名乗って:04/04/16 16:25 ID:xaWRx8/o
更新乙です

そう言えば後藤は?
吉澤は?そして亀井は?飯田はどうなったのですか?

3人の影と言うが
今まで出てない大駒と言えば…ふく(ryで出てない格闘技は中国武術なんて…w

続きを期待してます。

489 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:45 ID:PqVlYBZA
>>479
まだまだいろんな人たちが出てくる予定です。

>>480
本当にそれで終わったら凄い叩かれそうだなぁ

>>481>>483
いつまでこのネタ続くんだろう……
あんまり言われると期待に応えたくなるじゃないか

>>482
実際の格闘技でも、どっちが勝つかわからない試合ほど好きなので。
とりあえず明日のプライドが楽しみ。小川―レコとか。

>>484
そのスレでなんか話題にあがってますね。腕を上げたと言われて光栄です。

490 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:46 ID:PqVlYBZA
>>485
「真島クン」はもちろん知ってます。打ち切りっぽいラストが納得いかなかった。
その作者だと「ザ桃太郎」の方が好きでした。あれはハマった。
(子供の頃だから今読むと評価違うかもしれないですけど)

>>486
それだ(w

>>487
はい、前髪緑の人です。
3人組の正体も今回の更新でわかります。

>>488
後藤も吉澤も亀井も飯田もふく(ryもそのうち出てきますので、期待してて下さい。

それでは更新いきます。

491 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:46 ID:PqVlYBZA
「残念だったな、神話なくなってよ」

藤本が怖い笑みを浮かべて、言った。
それを聞いた矢口は無言で口まわりの血を拭い、また構えた。
もう膠着はなかった。そんな余裕がなくなったからだ、互いに。
再開の合図ともにすぐ動き出す。
藤本は左のミドルキックを放った。するとフッと矢口の体が消え、ミドルが宙を切る。
同時に、軸足がガクンと崩された。
まさかと藤本は思う。倒されて寝技の攻防に持ち込まれる。
(あの矢口真里が寝技!しかも自分から倒れて!)
観客たちが目をむいた。「倒れない女」の寝技なんて見たことがない。
小さな体を器用に使って、関節を取りにくる。

「おいらが今さら、こだわっていると思ったか」

耳元で矢口がささやいた。

「勝つ為なら、こっちから捨ててやるよ。そんなもん」

地上最強を目指す今の矢口にとって、「倒れない女」なんて呼称はもう何の魅力も感じない。
勝つ為なら、自分から地に伏してでも構わない。
なによりもただ勝利を優先する。
空手家相手なら寝技が有利だと思えば、迷わずそれで攻める。
ただ、勝利の為に……

492 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:50 ID:PqVlYBZA
「そいつぁご立派な、心がけだ」

グルンと藤本の体が裏返った。流れるような動きであった。
寝技を知らぬ空手家の動きではない。これは……。

「サンボか」

安倍なつみが言った。
藤本美貴は生粋の空手家ではない。
ある日突然、夏美会館の道場に入門しそのまま今に至るだけだ。
彼女は安倍の元へ来るまで何をしていたかを語らない。
謎に包まれた藤本美貴の過去の一端が、ようやく少し明らかになったようだ。
驚いたのは矢口である。
まさか空手家がこれほどの技術を要しているとは考えていなかった。
その油断をついた藤本の両足が矢口の左腕を挟み込む。
逆十字固め。
肘の関節を絞めるサンボの技である。
そのままためらいもなく藤本は力を込めた。

グイッ

鈍い音と共に、矢口の左腕神経が強烈な痛みを発する。
左腕が間接の向きと反対側に折り曲っていた。
客席からかわいい悲鳴があがった。
氷の微笑を浮かべたまま、藤本美貴はスッと立ち上がった。

493 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:50 ID:PqVlYBZA
「決まったな」
「はい」
「しかし底が見えねえぜ。この藤本美貴って奴は」

客席で観戦していたメロンの斉藤と村田の会話である。
今更ながら、摩天楼で最強を語っていたことがいかに井の中の蛙であったか思い知る。

「こういう奴のことをさして使うんだな。天才って言葉は」

空手をさせても、サンボをさせても、何をさせても一番をとってしまう。
そういう女が存在してしまうのである。
(どんな格闘技をかじっても簡単に頂点に立てた……)
(だけど空手は違った。空手には安倍なつみという女がいた)
(生まれて始めて、ワクワクさせてもらった)
(だがもうそろそろいいだろぅ。空手は十分に身についた)
(このトーナメントで安倍なつみを倒し、空手とはおさらばだ)
(次は何をしようか…)
藤本美貴は微笑を浮かべたまま、安倍なつみを見た。
その安倍なつみの顔が歪んでいた。藤本の後ろに視線を浮かべたまま。
バッと藤本は振り返る。

「ほら、続けようぜぇ」

矢口真里が、立ち上がっていた。
左腕はまだ反対方向に曲がっているのに。

494 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:51 ID:PqVlYBZA
驚きはしなかった。バカだなと思った。
腕の曲がった激痛に耐えながら、立ち上がった根性だけは認めよう。
だがこれは根性で勝敗の変わるレベルの試合ではない。
藤本美貴という女はそういうことに一切の動揺も同情も認めない。
試合再開の合図とともに、藤本はすぐその左腕を狙った。
明らかに矢口の動きは鈍っていた。
ミドルキックがまともに折れ曲がった左腕に入った。
見るからに痛そうな顔を、矢口はした。しかし倒れなかった。
残されたもう一本の手で必死に藤本の襟を狙ってくる。
お見通しだ。逆転のヤグ嵐を考えているのであろう。
確かにあのヤグ嵐をもう一度受けたら、いくら藤本でも立ち上がることはできまい。
だが、それは不可能だ。
右手と左手と右足で、ガッチリ相手を掴むからこそのヤグ嵐である。
この左手の使えなくなった状況でどれだけ根性を見せても使用不可能。
だが藤本に「やめておけ」という気持ちはなかった。
一人の戦士として、最後まで己の全てをかけて戦い抜きたい気持ちは分かる。

「そういうバカは嫌いじゃない」

藤本はニィと笑みを浮かべ、全力のローキックを矢口の足に叩き付けた。
ガクッと矢口は崩れかけたが、持ちこたえまた前に出てきた。
今度は逆の足に全力のローキックを放った。
ガードする余裕もないらしい。これも矢口の足を強烈に打った。
膝をつきかけてグッと矢口はこらえた。
顔を上げたところへ、肘をその顔に思いっきり叩き込んだ。

495 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:53 ID:PqVlYBZA
それでも矢口は倒れず、藤本の襟目掛けて右腕を伸ばしてくる。
思わず藤本は後ろに下がって避ける。
そこで彼女はちょっと驚いた。あれだけボロボロの体で、まだ自分を後ろに下げる矢口に。
(こいつはぁまいったな)
もう立つこともできないくらい重症のはずの矢口を、藤本は尊敬の眼差しで見た。
彼女が他人にそういう感情を抱くのは、安倍なつみを除けば初めてのこと。
(たいした女だ。矢口真里)
倒れない女の本性を垣間見た。これだけの相手には、全力で応じなければならない。

スッ……

この試合、初めて、藤本美貴が空手の構えをとった。
右の拳が正拳をつくり、腰の横にそえられている。
口から血を流したまま矢口もニィと笑みを浮かべた。そして突っ込んだ。

ッドン!!!

サンドバックに穴を開けるほどの藤本美貴の正拳突き。
なっちも認める完璧な正拳突きだ。
そいつが矢口真里の胸の真ん中を叩き、矢口真里の動きが止まった。
静かに、藤本が拳を引く。
前のめりに矢口の体が倒れ始めた。
その場の全員がこの激闘の終幕を感じた……そのとき、
唯一残った一本の腕―――その矢口の右腕の手が迫り来る地面を、止めた。

496 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:54 ID:PqVlYBZA
その右手を軸に、二本のヤグ足が上へと飛ぶ。
前転の要領である。
まるで手のように二本のヤグ足が藤本の襟と右腕を掴み取った。
(―――まさか)
藤本は思った。
(―――できるはずは!)
何かが!藤本の足首を挟み込んだ。
(右手は軸に、両足は上に、もう矢口には何も残されて―――)
見た。
間接の曲がった左腕が、ガッチリ藤本の足首を挟んでいる映像!
あの恐怖が蘇る。
片手逆立ちの体勢のまま矢口真里がブンと飛んだ。
藤本美貴の体ごと!

ヤグ嵐!!

一瞬で、天と地が入れ替わるあの衝撃。
最初の一発目に破壊されかけていた藤本の全身に、仰天の二発目が届く。
必殺!
まさにそう呼ぶべき脅威の技が、武道館を揺るがせた。

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!

会場の全員が立ち上がった。
あの安倍なつみすらその重い腰を上げ、リング上を活目した。

497 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 22:54 ID:PqVlYBZA
二人の女が横になっていた。
またしても両者ノックダウン。レフェリーがカウントを始める。
矢口がゴホッと口から血を吐く。仰向けだった為それらがベチャっと顔にかかる。
藤本は動かない。カウントが「スリー」まで進む。
矢口の右腕がブルブルと動き出す。
藤本はまだ動かない。レフェリーが「フォー」と叫ぶ。
ガバッと矢口が上半身を起こした。
藤本は動かない。カウントは「ファイブ」
右足、そして左足、徐々に力を込める矢口。
微動だにしない藤本。「シックス」と避けぶレフェリー。
気合を込め、一気に矢口が起き上がる。
藤本はまだ動かない。どうやら意識がないようだ。
レフェリーはカウントを止め、立ち上がった戦士の腕を大きく天に上げる。
それを受けた実況のアナウンスが激闘の終わりを叫ぶ。

『勝者!!矢口真里ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!』

瞬間、絶叫のような大歓声が武道館を支配した。
講道館の連中はもちろん、およそ観戦していたほとんどの人間が声を張り上げる。
夏美会館の関係者は信じられないといった表情を浮かべていた。物凄い決着であった。
たった145cmしかない小さな英雄が、ようやく心からの笑みを浮かべる。
唯一動く右腕でガッツポーズを作ると、そのままバタンと倒れ動かなくなった。

準決勝第二試合 勝者 矢口真里 18分20秒 KO

498 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 23:05 ID:HC8rjA2M
柱の奥でこの試合を観戦していた三つの人影。

「どう?なかなかやるもんでしょう」

手を叩きこの試合を動かした大きな人影が、残り二つの人影にそう言った。
二つの人影は無言であった。

「そんな刺す様な目で見るな。今の格闘技界トップクラスの実力ってのを、
キミたちに教えておきたかっただけ。特に、れいな、あなたにね」

謎の人影の一つ―――田中れいなは不機嫌そうに睨んでいた。
トーナメント1回戦で矢口真里に7秒で破れたあの田中れいなである。

「確かにわかったばい。80%やあ勝てなか」

それを聞いてもう一つの人影―――道重さゆみが口を開く。

「えっ?れいな80%だったの?なぁんだ、本気で負けたのかと思った」
「本気やったと。少なくとも80%内で本気やった。それであの様たい」
「でも100%だったら負けてないよね」
「決まっとー。うちが本当に本気やったら誰にも負ける訳なか」

そんな田中と道重の会話を聞いて大きな人影―――保田圭が相槌を打つ。

499 :名無し募集中。。。:04/04/16 23:05 ID:x5RrGTaI
あーあ

500 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 23:05 ID:HC8rjA2M
「そういうこと。キミたちが100%の力を出せば、どんな相手にも負けるはずはない。
 だけど油断をして少しでも力を抜くと、ああなる。それを教えたかったのよ」
「はい、わかりました師匠」
「ずいぶんと回りくどい手ぇ使うばいね」
「口で言うより体で教えた方が覚えるでしょう。キミ達は」
「フン」
「それくらい、これから行われる計画に失敗は許されないってことよ」

一瞬、保田圭の目に蛇のような狡猾さが走った。
田中は師匠のそういう所があまり好きではなかった。

「ところで、どうして私たち二人にだけ何ですか?エリは?」

道重の口から出た名前に、保田と田中は顔をしかめる。

「さゆみ、よく考えなさい。あのエリが油断なんてする訳ないでしょう」
「激しく同意たい。それにこげな騒がしか所連れて来よっても、面倒見きれん」

二人に否定され道重は押し黙る。
すると保田が出口の方へと歩き出した。

「ちょっと師匠、どこ行くばい」
「用が済んだから帰るのよ。ほら、キミ達も」
「決勝戦は見ないんですか?」
「決勝戦?」

501 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 23:06 ID:HC8rjA2M
保田が含み笑いを浮かべる。

「そんなものないわよ。矢口真里があの怪我で試合なんて出来る訳ないでしょ」

保田圭の言うとおり。
下の会場では藤本美貴同様、勝った矢口真里も仲間に肩を借りて退場していた。
自分一人では歩くこともままならぬ程の負傷、ものすごい激闘の証拠である。
それを見て田中と道重も、渋々保田の後に続く。

「師匠。今度は100%でやるけん、よかね」
「さゆもやりたい!」

二人の言葉に、振り向いた保田が影を帯びた笑みで応じる。

「安心なさい。存分に暴れさせてあげるわ、ンフフフ……」

それは怖いもの知らずの二人が思わず一歩身を引く程、強烈な笑みであった。
保田圭の復讐の炎がたぎる。
(安倍なつみ!今日の大会が最後の栄光だったと、いずれお前は知ることになる!)
(知ることになるのよ、オホホホホホホホ……)

誰にも悟られることなく、三つの人影は闇へと消えていった。

第21話「藤本美貴vs矢口真里」終わり

502 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/16 23:08 ID:HC8rjA2M
次回予告

「おいらと辻希美。どっちに勝ってほしい?」

あの日見た夢をもう一度……いっしょに叶えよう

(ハッピー♪)

「それじゃ聞こえないよ、もぅ」

訪れる二つの結末。
次回、トーナメント編完結!!

To be continued

503 :名無し募集中。。。.:04/04/16 23:22 ID:oQPvvhAP
ラッキーチャチャチャ。更新乙です。今日はPJですよ。

504 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/17 00:08 ID:J59GSuX8
>>503
PJ忘れてました。本気で感謝!

505 :ねぇ、名乗って:04/04/17 00:21 ID:kIj5t7Ac
>>480
当たらずとも遠からず、と思った

506 :名無し募集中。。。:04/04/17 00:50 ID:eoVmwX1x
川VvV从負けちゃった…
自分としては意外な結果に今後の展開にも目が離せません!

507 :名無し募集中。。。:04/04/17 06:16 ID:D0AAnWGL
辻対高橋、折れた肋骨叩かれるとマジでやばいらしいね
何年か前のミルコ対ホースト戦を思い出した

508 :ねぇ、名乗って:04/04/17 11:57 ID:j0vO5LMa
やっぱエピローグでの亀井は安倍との激闘で入院かな?エピローグっていうくらいだから本編のあとだろうし…

509 :名無し募集中。。。:04/04/17 16:39 ID:iekgPk7c
2対1とかの変則マッチでなっちがふたりとも殺しちゃうんだよ!
つまり皆殺しなんだよ!なっち皆殺し!!!!

510 :名無しさん募集中:04/04/18 06:45 ID:RitxT/0C
まさか矢口が勝つとは、
このまま夏実会館の戦いになるかと予想していたので驚きです。
でもこれで藤本は吉澤と戦いやすくなった気がする
是非、藤本と吉澤の再戦を!

511 :名無し募集中。。。:04/04/19 00:53 ID:i+n6+9MV
その前に藤本は安倍から制裁をくわえられそうな気がする・・・・。

512 :名無し募集中。。。 :04/04/19 02:44 ID:owEHI/SL
決勝戦は出来るのだろうか


513 :名無し募集中。。。:04/04/19 09:06 ID:skK28nwl
>>511
同感。逆になかったら、ハァ?ってかんじ。でもどんな制裁なんだろう・・・

514 :名無し募集中。。。:04/04/19 13:01 ID:AiylsR8b
やっぱり皆殺し

515 :名無し募集中。。。:04/04/20 20:01 ID:0EvwyJjc
皆殺し

516 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:50 ID:RVS63Kyc
第22話「携帯に出ない女」

準決勝第一試合の勝者は辻希美。
準決勝第二試合の勝者は矢口真里。
決勝戦の組み合わせはこの様になった。しかしその実現は微妙だ。

「常識的に言いましょう。このまま入院でもおかしくない体です」

医務室に講道館の一同がそろって、矢口の状態を伺いに来た。
担当医師の口から出た言葉がこれだ。試合などもってのほかだと。

「おいらは出るよ」

ところが当の矢口は頑なにそう言い続ける。
講道館の上層部たちがそんな彼女に説得を試みる。

「いいか矢口。よく聞いてくれ。ここで棄権しても誰も文句を言いはしない」
「そうだ。準決勝での死闘を眼にしている。ケガしていることはみんな承知だ」
「あの藤本美貴に勝った。それで十分だろ。柔道の、講道館の強さは世間に伝わった」
「それに、その体で決勝に出ても結果は見えとる。どうしてもわざわざ負けにいく?」
「ウム、決勝で空手に負けたら、せっかくの勝利が台無しだ」

決勝戦の出場に何のメリットもないと、講道館の上層部は叫んでいるのだ。
夏美会館の王者に勝ったという詠い文句の力は、それこそ計り知れないものがある。
ここで棄権すれば名誉の負傷とのイメージのまま無敗で終わると、そう説得しているのだ。

517 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:50 ID:RVS63Kyc
「確かに、棄権した方が得か」

矢口が言う。そしてベッドの上から体を起こした。

「だけどおいらは矢口真里だ。損得で動く女じゃあねぇんだなこれが」
「バカな…」
「おう、悪いけどバカなんだ。ほら、そこどけよ」

包帯グルグル巻きの体で、足をひきずりながら矢口は医務室を出て行く。誰にも反対させ
ないだけのオーラがそこにあり、講道館上層部の者たちも、もう追いかけることもできず
にいた。

「重症みたいね」

試合場へと独り歩む矢口に、一人の女が声をかける。

「安倍なつみぃ……。安心しな、こんなもんたいしたことねえよ」
「違うわよ。ここのこと」

そう言って、安倍は自分の頭部を指で指す。

「ああ、そっちは重症かもな。誰かさんのおかげでよ」
「矢口真里がバカでよかったよ。棄権されたらどうしようかと困っていたべさ」
「そうは見えねえけどな」
「エヘヘ」

518 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:51 ID:RVS63Kyc
スッと安倍なつみと矢口真里の間に、冷たい空気が流れる。

「矢口さん。もしかして、柔道が空手に勝ったって思っている?」
「思ってねえよ」
「そうね。あなたが勝利したのは藤本美貴個人。空手ではないわ」
「一応聞いておくけど。藤本より強い空手家はいるんだな」
「ええ。最低でも一人は確実にいるわよ。今あなたの目の前に、ね」

安倍なつみが涼しい笑みを浮かべる。

「そいつに勝ったら、空手に勝ったと言っていいのか」
「いいわよ。ついでに地上最強を語ってもいいわ」
「そりゃあ助かる。一石二鳥だ」

試合場へと向かおうとして、矢口はまた足を止めた。

「優勝者には安倍なつみと闘れる権利が与えられるんだったよな」
「ええ」
「おいらと辻希美。どっちに勝ってほしい?」
「あのねぇ……なっちは夏美会館の館長よ、答えは決まっているべさ」
「夏美会館の館長としてでなく、安倍なつみ個人の意見が聞きたい」
「個人的には……矢口真里」
「どうして?」
「ののは可愛くて大好きだから殴りたくないの。美貴が優勝すると思っていたし」
「確かに……個人的だ」

519 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:52 ID:RVS63Kyc

決勝戦

辻希美(夏美会館空手)18歳



矢口真里(講道館柔道)23歳

520 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:53 ID:RVS63Kyc
幾多の激闘を乗せたリングの上に、二人の娘が向かい合っている。
今日このリングで闘った者の中で唯一無敗の二人。つまり決勝戦。
これから確実に、どちらか一人に土がつくことになる。
試合を重ねるごとに上がってゆく観客のボルテージは今や臨界点へと達していた。
辻希美は右手をテーピングでグルグル巻きにしていた。
矢口真里に至っては、柔道着の下はほぼ全身が治療中である。
ここにこうして立っていること自体が奇跡とも言える。

『矢口選手が心配ですねぇ。不屈の精神は素晴らしいのですが、ケガの状態をみますと…』

実況の連中は身勝手なことを言いやがる。
(バカヤロウ…勝利の算段があるから、立ってるんだよ)
(辻は右の正拳を使えない。奇跡がなけりゃあただのパワーバカだ)
(一気に懐に入ってヤグ嵐を決める!あいつも限界は近い、その一発で間違いなく終わる)
矢口は柔道の構えをとる。
辻は空手の構えをとる。
勝った方が、一気に安倍なつみの位地にまで到達する。
決勝戦。
日本中のおよそ格闘技に関係する者たちが、会場で、自宅で、出先で、見届ける。
どちらが勝っても日本格闘技界の構図は大きく動くことになる。
時代の先駆者となる。

その運命のゴングが―――――――――今鳴った。

521 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:53 ID:RVS63Kyc
前に立って、初めてわかった。辻希美の発する圧力というものがどれほどかと。
まっすぐ向かってくる。
対抗するにはあまりにも矢口の体はガタがきていた。
(1回。たった1回だけでいい。おいらの体よ、もってくれ)
矢口も前に出た。
辻が左突きを打つ。
その辻の速度を矢口の速度が上回った。
左突きを寸前でかわして、ふところに飛び込む。
あのケガで、まさに神業と言ってよいだろう。
襟、右手、左足の三箇所をコンマ何秒の単位でもぎとる。
出るか!伝家の宝刀!

「ヤグあら……!!」

ズンッ!!
重み。巨大な岩石の塊のような重みを感じる。
これまで矢口は自分の三倍も体重がある選手を投げたことだってある。
『柔をよく剛を制する』
それこそが柔の精神、小さくても力自慢に負けないこと。
そんな精神を完全否定する規格外のパワー。パワーでヤグ嵐を受け付けない。
(こいつは――――!)
矢口は驚愕する。たった1回が、終わった。
辻希美の左の拳が、がら空きの背中に落ちる。

ドンッッッ!!!!!!!!!!

522 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:54 ID:RVS63Kyc
オリンピック48kg以下級、無差別級、金メダル。
世界女子柔道選手権、全階級制覇。
公式試合108試合無敗。オール一本勝ち。
かの小川五郎をして、自分より強いと言わしめた娘。
若干145cm。「柔を良く剛を制す」の体言。

国民栄誉賞を獲る娘。

夏美会館空手全国王者の藤本美貴を倒した娘。

「いいぜ。おいら格闘技ではまだ白帯のひよっこみてえなもんだ。
 一番下から昇っていってやるさ。安倍なつみ、お前の喉元に噛みつける場所まで!」

安倍なつみの寸前にまで手をかけた娘。

―――――――――――――――矢口真里が、たったの一撃で、散る。

523 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:55 ID:RVS63Kyc
その拳を矢口の体に当てた瞬間、辻希美はまだわかっていなかった。
矢口が地面に落ちて動かなくなっても、辻希美はまだわかっていなかった。
レフェリーが10カウントを数える。
その間、なんだかボーッとして何も考えられなかった。

「ナイン!」

ドキッとした。
ずっとずっと夢を追いかけていた。
共に死地から生き延びた相棒、あいぼんの夢を叶えることが希美の夢。
今の夢は、いなくなったあいぼんの最強を証明する為に、自らが最強になること。
果てしなく遠い遠い夢だと思っていた。
それがあとひと声で……

「テン!!!!」

『優勝は辻希美だああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』
「わあああああああああああああああああああああああああああああああ」

360度が悲鳴のような歓声をあげている。全部、自分に向けている声だ。
スポットライトとたくさんのフラッシュの中でキラキラと輝いている。
みんなが辻希美の強さに熱狂しているのである。
希美の眼も輝いていた。
優勝。
その二文字がまるで世界を包み込んでいるような心地がした。

524 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:56 ID:RVS63Kyc

この声が聞こえていますか?

あいぼん……

これだけの人が、みんなが私を認めてくれているんだよ……

一番強くなれるよね。

ののより強いあいぼんが一番強く、なるんだよ。

ねぇ、あいぼん。

この声、届いてる?

もし届いたのなら、帰ってきてよ。

ののの所に、帰ってきてよ

あの日見た夢をもう一度……いっしょに叶えよう

ねぇ、あいぼん……。

525 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/04/20 21:58 ID:RVS63Kyc
最強のなっちに並ぶ称号を手に出来るこのトーナメント。
優勝した希美が最初に思い描いたのは、何処かに消えた親友のことであった。
会場はそのまま閉会式にと流れる。
選手のほとんどが重症で参加できないことも、この大会の熾烈さを物語っていた。
高橋、藤本、矢口、田中、以上の選手が閉会式にはいない。

「優勝!辻希美!」

トーナメント主催者である安倍なつみの手から優勝杯が渡される。
お馴染みの顔から頂くそれにテヘテヘしながら、希美は優勝杯を受け取る。
盛大な拍手が贈られる。それから優勝賞金と副賞の授与である。

「副賞は、なっちと闘う権利だよ。なっちはいつでもいい」
「うん」
「なんなら、今これからでも……」
「ううん。当分いいよ。のの、なちみが好きだから」

たまらなく愛くるしい笑みで希美は言った。
なっちは思わず抱きしめたくなるのを我慢するのに大変だった。
こうして、激闘のトーナメントは幕を閉じる。
それはひとつの時代の終わりでもあり、新しい激闘の幕開けでもあった。

決勝戦 勝者 辻希美 15秒 KO

優勝 辻希美(夏美会館空手)

526 :名無し募集中。。。:04/04/20 23:41 ID:/5jEJ8vD
いくらなんでもそれは・・・
更新乙です

527 :名無し募集中。。。:04/04/21 08:21 ID:PjgshoGj
皆殺しへの序章ということですか!
なっち皆殺し

528 :名無し募集中。。。:04/04/21 08:54 ID:Y+rk7wPj
同感。

529 :名無し募集中。。。:04/04/21 09:19 ID:Y+rk7wPj
一気に醒めました。
トーナメントの決勝なんてそんなもんだけど、それでも・・・
高橋との準決勝から、辻ちゃんが活きてない気がします。

530 :ねぇ、名乗って:04/04/21 12:02 ID:Vq8ACXXx
>>526-529
あのなぁ作者はてめぇらだけの為に書いてるんじゃないんだよ
文句あるなら自分で何か書いてろカス野郎!

531 :名無し募集中。。。:04/04/21 14:01 ID:LJR0Rj2U
イメージ映像

    ノハヽヽ    ∬ 
  ♀( 辻豆) っ━~
_⊂||_   。||ノ__ 
    | /~),   | 
 ̄ ̄ ̄ .し'J ̄ ̄|

     ___
   _(__ ヽ(゚∀゚)ノ<なっち皆(ry
  ._(____  (  )
 (_____(( < ゝ))
  (____
     (___ノ ̄
       ↑
     辻豆の手

532 :名無し募集中。。。:04/04/21 14:11 ID:tkhuTT/U
熱くなる気持ちは判るが、まだ作品は完結してないよね
この文面自体がそういう心理描写演出かもしれない…もしくはまだ作品自体が序章かもしれない
とりあえず続きを見てみたいから、感想はまだ書かず、マターリ待ってみたい

読者の期待を裏切る…これが作者の作戦だったら、辻豆さんはニヤニヤしてるかも…
いつも更新乙です



533 :名無し募集中。。。:04/04/21 14:17 ID:LJR0Rj2U
>>531
・・・手が左右逆だった。ごめん。

534 :名無し募集中。。。:04/04/21 16:15 ID:7v6FEbwb
矢口はミキティ戦ですでに破壊されていたんだよ!

535 :529:04/04/21 16:38 ID:Y+rk7wPj
>>532

書き込んでから、今回のはたぶん確信犯だよなぁとは思いまつた。
辻豆さんの掌の上でに踊らされてると思うと余計腹が立ってきて・・・
正直熱くなってしまったのは反省。

536 :ねぇ、名乗って:04/04/21 17:14 ID:Tp3uP4nw
お約束と言えばお約束だがこれで新たな外敵(安田率いるジークンドー軍団?それとも例の地下組織?)が攻めて来るような事があれば

ベスト4は満身創痍
吉澤は行方知れず
と、なると残るは柴田や新垣や紺野が相手にって石川抜きのたんぽぽ?w
里田やみうなと言う選択肢もあるがそれなら小川もいるだろうし…
外敵の最初の被害者は誰でしょう?

PS 藤本のサンボはやはり石井の元でかつて少しやっただけで極めてしまったんでしょうか?



537 :ただすん:04/04/21 18:49 ID:hOq+0GG/
とりあえずまだ戦ってない人達。

安倍、後藤、市井、保田、亀井、道重、田中100%、吉澤、石川、(リストバンド外した)加護

暗黒武術大会でも開催される悪寒(;´Д`)

538 :名無し募集中。。。:04/04/21 19:14 ID:mSJRYqVf
魔界統一トーナメントじゃね?w

539 :ねぇ、名乗って:04/04/21 21:37 ID:tGXG2wWb
ここで五VS五のチーム戦ですよ

540 :ねぇ、名乗って:04/04/21 23:40 ID:atQUzEPs
辻豆さん更新乙です。

>>526-529
自分はあっけなすぎる決勝戦が準決勝の激しさを物語っていて好きだったんだけど
ま、感じ方は人それぞれってことで。

>>537
姐さんも入れてあげてよ〜

541 :名無し募集中。。。:04/04/22 04:45 ID:sAEE7FH0
正直あっけないなぁ・・とは思ったけど
>>531←これで笑ったんでマターリ待つよ

542 :名無し募集中。。。:04/04/22 17:06 ID:FY8jJXu9
>>540
姐さんはジョンソンにボコられて・・・

543 :名無しさん募集中:04/04/23 10:44 ID:taiN7+8/
>>537
そうだよきっと
加護ちゃんがサイボーグ化してたりとかさ、これから裏の世界の話になっていくんだよきっと。

544 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 18:43 ID:w/+tDS6q
>>526−538
(´ー`)y─┛~~ ニヤニヤ

>>539
(゚Д゚)y─┛~~ ヤバー!


トリップ変わりました。
では更新いきます。

545 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 18:45 ID:w/+tDS6q
地上のもっとも光の当る場所で新王者が誕生した頃、
はるか地下深き、闇の舞台では……

「ハァ…ッカハァ……ァハァ…ゼェァ……」
「ヒュー……ヒュヒュー…ヒュル……」

黒のマスクとピンク色のマスクが、何と今だ相対していたのである!

文字通りの死闘は、開始よりすでに六時間が過ぎようとしていた。一度は死んだと思われ
た白いマスクが、赤い血でマスクをピンク色に染め立ち上がった。そこからまた死闘が始
まり、今まで戦い続けていたのである。もはやヒトとヒトの戦いには思えなかった。

「そうまでして勝ちたいんやのぉ……クックック」

マスター寺田が悪悦な笑みでその戦いを見下ろす。豪華な観覧席は今やそのムードが一変
していた。飽きっぽい金持ちどもがこれだけ長時間に及ぶ死闘を、誰一人帰ることなく見
とれているのである。彼らはあらかじめ、吉澤ひとみとチャンピオンの関係を寺田から聞
かされていた。その内容は、反吐が出るほど残酷なその光景を、身を震わせ感動して観戦
し続ける程のことであった。

そんないつ果てるともない死闘にも終幕の刻が訪れる……

きっかけを造ったのは吉澤ひとみ。
限界を幾度も通り越して根こそぎかき集めた力を、そのパンチに乗せピンクのマスクに放
った。どんな力も吸収し破れない様にできているマスクが…切れた。

546 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 18:46 ID:w/+tDS6q
梨華ちゃん……
君と出遭ったのは帰国したばかりの空港だったね……
再会は偶然、プロレス会場で落とした財布をひろってくれた……
その晩、メロンにさらわれた君を助けに摩天楼で大暴れ……
それがきっかけで一緒に暮らし始めて……
トーナメントに挑む私を、心から応援してくれた……
本当に楽しかった……
もう一度、あの生活に戻りたい……
ううん、戻るんだ!
この化け物をぶっ倒して!
また梨華ちゃんといっしょに……

547 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 18:46 ID:w/+tDS6q
ピンク色のマスクが、ハラリとめくり落ちる。

―――――――――――――――――――――――――顔が見えた。

体内を燃やし続けていた炎が……フッと消えた。
獰猛な唸り声を上げていた野獣が……息を潜めた。
時間が……止まった。
吉澤ひとみを織り成すあらゆる要素が……止まった。

顔中が傷と腫れで真っ赤に染まっていた。刺すような視線でこちらを見ていた。
眼も鼻も口も耳も潰れている……のにあまりに美しすぎる。
見間違える訳がない。
こんな酷い顔しているのに、私にはわかる。
見間違いであってくれ、そんなジョークはよしてくれ。
そんなことはあってはいけない。あってはいけないんだ。
どうして…どうして…?

「どうして梨華ちゃ―――――――っ!!」

黒いマスクが叫んだ。
ザンッ!
チャンピオンの指が黒いマスクの心臓に突き刺さる音。
黒いマスクはピンク色のマスクの下にある顔を凝視しながら、終わった。

石川梨華の顔を見ながら、吉澤ひとみは終わった。

548 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 18:47 ID:w/+tDS6q
コロシアムのマスター寺田の趣味は、強い娘を育て上げること。
金と暴力で才のある幼子を集めては最強へと育て上げる。
アヤカや柴田あゆみもその生き残りである。
大半の娘はコロシアムの試合、もしくは過酷すぎる鍛錬の途中で死んでいった。
その数多き犠牲の中で完成した最強の存在が、石川梨華である。
あっというまにコロシアムチャンピオンの位地にまで駆け上がった。
彼女の強さは別格であった。
特異体質。天文学的確立で存在する常人とは異なる体質を持って生まれし種。
辻希美とは違う、本当に生まれながら神に与えられた存在。
石川梨華は痛みを知らない。
どんな破壊をされても彼女は永久的に負けることがない。無敵の王者。
しかし神はこの怪物に異なる性質も与えていた。
優しすぎる心である。
石川梨華は争いを嫌っていた。誰かを傷つけることに嫌悪を感じていたのである。
彼女は何度も寺田に訴えた。「もう戦いたくはない」と。
その度に寺田は訴える。
石川梨華の為に犠牲になった娘たちのこと、石川梨華に殺された戦士たちのこと。

「お前は一生、幸せになったらあかん女や。戦い続けなあかん」

それは自覚している。消えることのない血を吸ったこの両手を消すことはできない。
罪と罰を一生背負い続けなければいけないこと。それでも梨華はもう戦いたくはなかった。
そしてある日、決断する。
今まで誰一人成し遂げたことのない偉業、地下からの脱出。
彼女はこれに成功する。

549 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 18:48 ID:w/+tDS6q
地上に出ても無数の追っ手が迫ってきた。寺田が裏社会中の猛者に募った刺客である。
それでも無敵の王者である彼女に敵う者は存在しない。すべて蹴散らして逃げきる。
石川梨華に安堵の日が訪れることはなかった。
日本に居場所はない、海外へ逃げよう。
そう思って訪れた空港にて、運命の出会いが待っていた。

「キャ!」
「うわっ!」
「ご、ごめん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。こちらこそすいませんでした」

曲がり角で一人の女性とぶつかる。その女性を見て、石川は思わず目を見開いた。
闇で生きてきた自分にはない輝きに満ちた素敵な女性だった。
血を滲ます殺し合いの世界で生きる自分とは、およそ縁が無いであろう。

「じゃ、急いでいるから、ごめん」

石川はその女性の背中が見えなくなるまで見続けた。何故か眼を離せなかった。
やがて、傍にサイフが落ちているのに気付く。
結構な額のお金とカード類、証明書が入っていた。

「吉澤ひとみ…」

そこに書かれた名を呟く。胸が今まで感じたことのない高鳴りを打つ。
運命の歯車がゆっくりとまわり始めた。

550 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:01 ID:w/+tDS6q
結局、石川は海外に出ることをやめた。
(この吉澤ひとみさんに財布を返す為に残る、それだけ)
自分にそう言い聞かせる。不思議な胸のモヤモヤには気付かない。
逃亡生活の中で、吉澤ひとみが有名なプロボクサーだと知るのは容易かった。
ボクシングでチャンピオンになり、今度は総合格闘技で頂点を狙うという話も。
大きな格闘技の会場に行けばきっと会えると信じ、その願いは通じる。
超大型新人のデビュー戦もあるハロープロレスの一大イベント。

「吉澤ひとみさん…ですよね。これ」
「あ!私の!」
「君が拾って?まさか、わざわざ私を探してくれてたの?」
「うん、絶対困ってるって思ったから」
「あ、ありがと」
「それじゃ」

たったそれだけの会話で、自分から別れを切り出す。
別れたくなかった、もう二度と会えないかもしれない、でもどうしていいのか分からない。
そんなとき、例の追っ手がまたも姿を見せたのである。
簡単に振り払えるのに、石川は可愛らしい声で悲鳴をあげた。
(ああ、そのとき駆けつけてくれたあの人の顔を、私は一生忘れることはない)

「行くよ」
「はい」

あのとき差し出してくれた手のぬくもりも、一生忘れることはない!

551 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:01 ID:w/+tDS6q
運命の再会を果たした吉澤と石川はプロレス観戦をする。

「すっごーい!プロレスっておもしろいね〜」

凄惨な殺し合いしか知らぬ石川は、プロレスが本当に新鮮で魅力的なものに映った。
技をかけるのにわざわざオーバーアクションで、受ける方もオーバーアクション。
大勢の観客も楽し気に反応する。こんな世界があるのだ、と思った。
石川の育ったコロシアムでは無駄な動きをする余裕はない。
わずかな観客もそれをギャンブルや道楽としてニヤついているだけである。
外の世界を知るにつれ、あの世界がいかに間違っているかわかってきた。
(やっぱり、私はもう二度と戦いはしない)
隣で興奮している運命の人の顔を見て、そう誓った。

「ごめん、ちょっと用事ができちゃったんだけど…」
「ううんいいよ、じゃあ出よっか」

吉澤の都合でプロレス会場を出ると、彼女の後輩だという小川麻琴を紹介される。
当の吉澤は誰かを追って駆け出していってしまった。
すると妙な空気を放った四人組が、石川と小川の前に立ちふさがったのだ。
裏社会でも有名な四人組、摩天楼のメロンである。
石川が本気を出せばまとめて相手することもできた。だが吉澤の顔が浮かぶ。
(もう闘わない、そう誓ったばかりだよね)
結果、石川は捕えられる。

552 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:02 ID:w/+tDS6q
石川は柴田を知らないが、柴田は石川を知っていた。
柴田はオチコボレとして早々に脱落した存在、石川は常にトップにいた存在。
劣等感にも似た感情で柴田は石川と、彼女が慕う吉澤に敵愾心を持つ。

「どうかしたの?」
「侵入者らしい」
「そう…」
「三人組だが、その内の一人はボクシングのチャンピオンだって」
「えっ!」
「やっぱり君の知り合いか」
「どうして?会ったばかりの私なんかの為に…吉澤さんが…」
「残念だけど生きて帰す訳にはいかないな」
「やめて!あの人は関係ないでしょ!」
「関係?あるよ。彼女達は君を助けに来たのだろ。それで十分だ」

捕らわれの身の石川は、ただ吉澤の無事を願う。
メロンの4人が吉澤を倒す為に降りていったエレベーター。
次に上がってくるのが吉澤かメロンか?石川は願った。
(お願い、吉澤さん……)
しかし、上がってきたエレベーターから顔を覗かせたのはメロンのボスであった。
つまり吉澤がやられたということ。
石川の中で何かがキレた。信じられない速度で飛び出すと、指一本でメロンのボスを倒す。
メロンのボス斉藤は何が起きたのかもわからぬまま意識を失った。
我に返った石川は、闘わないと誓ったばかりでもう力を使ったことを嘆き、泣き始めた。
そこへ、かっけーあの人がやってきたのだ。石川は彼女の胸に飛び込んだ。

553 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:04 ID:w/+tDS6q
こうして、二人はひとつ屋根の下で暮らし始めた。
それは殺し合いしか知らなかった石川にとって、どうしようもなく幸せな日々だった。
メロンの件以来、追っ手もパタリと姿を消した。
(きっともうあきらめたんだ、うん、そうに違いない)
石川はポジティブに考え、いつしかそのことを忘れ始めていた。
そして、運命の歯車が狂い始めるあの日――――

「えろうひさしぶりやのぅ」

その男が現れた。
思えば、運命の出会いと思っていた二人の関係も、すべてこの男に操られていたのかもし
れない。石川に抵抗の余地はなかった。ここがバレているということは、自分が歯向かえ
ば吉澤にまで危険が及ぶということ。それだけはできなかった。大好きな吉澤には、夢を
追っていてほしかった。彼女は表の世界で頂点に立てる程の器である。この石川梨華がそ
う思うのだから、間違いない。
(ありがとう、あなたといる間だけ私も人間になれたよ、ヨッスィー)

深き地下に、石川梨華が戻る。
だが二度と闘うつもりはない。たとえ殺されても……。

「交換条件でどうや、梨華」

頑なに闘いを拒む石川に、寺田はやさしい声でそうもちかけてきた。

「戦うのは一試合だけ。勝ったら自由にさせたる、吉澤の所へ戻ってもええで」

554 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:05 ID:w/+tDS6q
石川はその条件に飛びついた。
寺田は残虐な男だが嘘だけはつかない。それは知っている。
二度と闘わないと誓った、その印を解く。
(あと一回だけ勝って、またヨッスィーの所へ戻るんだ!絶対に勝つ!)
悲壮な覚悟で、石川梨華は白いマスクを被った。

寺田があんな条件を持ち出すだけはある。
今まで殺しあった相手の中でも間違いなく最強の敵だった。
恐ろしい強さで、その執念も尋常ではない。物凄い勢いで殴りつけられた。
それでも痛みを感じない石川は何度も立ち上がる。
しかし相手の黒マスクは普通に痛覚をもっているはずである。
どうしてこれだけ向かってこれるのか?これだけの打撃に耐えられるのか?
単に自分の命が惜しいだけではここまでの戦いはできない。
この黒マスクはなにか命よりも大切なモノの為に戦っているのだと悟った。
しかし自分だって負けられない理由がある。絶対に勝たなければいけないのだ!
執念と執念の激突。
それはあまりに壮絶すぎる愛と愛のぶつかり合いであったのだ。

死闘の決着は突然であった―――――――
石川は自分のマスクが破られるのを感じた。そのとき、黒マスクが止まった。
あれほど強烈な殺気が、瞬間に消え去ったのだ。
無痛と共に与えられた石川梨華のもう一つの武器、それが指力である。
指をがら空きになった黒マスクの胸に突き刺す。
やった!と石川は思った。
人を殺して、生まれて初めて歓喜した瞬間であった。

555 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:05 ID:w/+tDS6q
『おめでとう梨華。勝者は君だ』

死闘の果てに、コロシアムに設置されたスピーカーからマスター寺田の声が流れる。
ピンクのマスクを完全に脱ぎ捨てて、梨華は微笑んだ。
人を殺して笑うなんて尋常でないとも思ったが、嬉しくて嬉しすぎて笑みが隠せないのだ。
(あぁ、これで、これで、ようやくヨッスィーの元へ)

『約束だ。君はもう自由の身、好きなように生きたまえ』
「はい、お世話になりました。寺田さん」

数分後、この男に礼をしたことを死ぬほど後悔することになる。
今はただ嬉しくて幸せだった。
(今いくよヨッスィー♪)
(ハッピー♪)
石川梨華はスキップしたいくらいに浮かれて、コロシアムを出ようとした。
そこで寺田から石川へ最後の言葉が贈られる。

「おいおい梨華。お前、せっかく勝ったのにヨッスィーを置いていくんかい」

出口のそばで、足を踏み出す格好で、ピタリと動きが止まった。
見えない鏡の向こうでは、集った金持ち達が吐き気のする笑みで彼女を見下ろしている。
静止したまま石川梨華は動かない。
寺田から贈られた言葉の意味を考えているのかもしれない。
ゆっくり…ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、自分が殺した黒マスクが転がっていた。

556 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:16 ID:w/+tDS6q

「まだ梨華ちゃんに言ってないことがあったな〜」

「なぁ〜に?」

「あーもう、恥ずかしくて言えねえって!」

「なんだよ〜ヨッスィー」

「言うから耳閉じてて」

「それじゃ聞こえないよ、もぅ」

「梨華ちゃんが大好……」

………………………………………………………………………………………………プツン


557 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/23 19:17 ID:w/+tDS6q

チャ〜チャチャチャ〜チャ〜ラララ〜チャララ〜ラララ〜♪

コロシアムの控え室に、携帯電話の着信音が鳴る。
持ち主がもういなくなった携帯電話である。

…………………………
同時刻、夜の成田空港に一人の娘が降り立つ。

「んあ〜、あいつ何で出ないわけぇ」

誰もが振り返るほど美貌とスタイルの娘であった。
荒々しく携帯を閉じると、美貌の娘はウ〜ンと大きく伸びをした。

「帰ってきたぞぉ〜!」

その美貌からは想像つかない様な子供っぽい声で娘は叫んだ。
…………………………

吉澤ひとみの携帯着信履歴に「ごっちん」と残った。


第22話「携帯に出ない女」終わり

558 :ねぇ、名乗って:04/04/23 19:18 ID:4dXLjtGx
よっすぃ〜はほんとに死んだのか?
まだミキティーともごっちんとも約束が残ってるから大丈夫だとは思うが。

559 :529:04/04/23 20:49 ID:EsJHOE4t
     ___
   _(__ ヽ(゚∀゚)ノ<続きをください。
  ._(____  (529)
 (_____(( < ゝ))
  (____
     (___ノ ̄
       ↑
     辻豆さんの手

ID変わりましたが529です。
見栄も外聞も気にしません。恥ずかしい奴と罵っていただいても構いません。
続きが読みたいです。

560 :ねぇ、名乗って:04/04/23 21:02 ID:BOuXMCG1
予想していたとは言え……人間て悲しいね


561 :219:04/04/23 23:33 ID:jStWyBGE
辻豆さん乙です。
梨華ちゃんがチャンピオンなんて…。
( T▽T)<人間って悲しいね

219のチャンプ予想の答えです
>チャンピオン候補は4人思い付いたけど、
>Aはいまいちキャラが合わなそう。(世俗を離れて独り山奥で修行していそう)
A:福田。実力的には問題ないだろうと予想。

>Bはありそう。ただ、自分はこの人のことあまり知らないので実はキャラが合ってないのかも。
B:平家。ロックボーカリストオーディションの勝者なのでこのくらい強くても文句ないだろうと予想。

>Cは最初、この人しか無いと思ったけど矛盾が生じる(何か設定があるのかもしれないけど)
C:石川。つんくが勝者は絶対って言ってたので、自由の無い石川は違うと予想。見事にやられた。

>Dはこの人であって欲しいけど無理があるかなぁ?
D:中澤。年齢的にきついか?その後の消息が分からないので地下で復活を期待。
  石川吉澤二人掛かりで倒すも、中澤に「飯田は自分より強く、安倍はさらに強い」なんて捨て台詞を言われると予想。

562 :名無し募集中。。。:04/04/24 01:13 ID:z+2K0DKm
>>558
「殺した」っていってるから死んだんだろ
当て身ならともかく心臓に指が入ったら即死だよ

なんかどうでもいい話になってきた

563 :987:04/04/24 02:37 ID:PW+VngLx
なぜ!後藤が出てきてこれからだろ。

564 :ねぇ、名乗って:04/04/24 02:48 ID:8pG1uksh
王大人がいるはずだと俺は信じてる

565 :名無し募集中。。。 :04/04/24 06:52 ID:ZOMnBV71
――――――同時に、血の海の中、松浦亜弥はその鼓動を止めた。
と書いてあった松浦が生きていたわけで


566 :名無し募集中。。。:04/04/24 09:36 ID:uRunLAgo
だから、言ってんだろ
辻豆さんは誰も殺す気ないって…

567 :ねぇ、名乗って:04/04/24 12:03 ID:QPKHF2uB
これから後藤の復讐が始まるんだろ、吉澤は生かし切れないまま終わったな

568 :ねぇ、名乗って:04/04/24 12:18 ID:DKeF6I7T
吉澤の胸に石川からもらったロザリオでもあってそれでわずか数_のところで致命傷を免れた…
なんて聖闘士星矢の氷河みたいな助かり方なんじゃないのかな?


569 :名無し募集中。。。:04/04/24 13:05 ID:83ayJdWj
あれだよ、ラッキーマンみたいに心臓が右にあるとか。

570 :名無し募集中。。。 :04/04/24 22:12 ID:ZOMnBV71
藤本・亀井・田中・道重で作戦会議
http://tv4.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1082737959/


571 :名無し募集中。。。:04/04/25 06:09 ID:4bAs2PNP
吉澤。・゚・(ノД`)・゚・。

572 :名無しさん募集中:04/04/25 07:49 ID:IbiDkct4
よっちゃんもこれからサイボーグ化や〜。

573 :名無し募集中。。。:04/04/25 18:59 ID:TQZvDnmE
死んだら死んだで・・・これで生きてたってなったら・・・

574 :名無し募集中。。。:04/04/26 09:55 ID:LQztxMHn
死んじゃえ。とにかく死んじゃえ。

575 :名無し募集中。。。:04/04/26 12:42 ID:cW6HYonW
高橋は松浦に巡り会えない
辻は加護に巡り会えない
吉澤は後藤に巡り会えない


同じパターン使いすぎ

576 :ねぇ、名乗って:04/04/26 16:13 ID:uZeUqu/y
>>572
保田じゃあるまいし・・・いくら小説でも、ジブンの道は現実的だから・・・

577 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/26 19:48 ID:1SeeCN1y
【トーナメント編あとがき】

吉澤が石川にやられるシーンと後藤の登場シーンを重ねるというのは、この小説を描き
始める前の構想段階から決めていました。一番描きたかったシーンのひとつです。
ここで吉澤は舞台を降りることに決まっていたので、前半は主役以上に活躍してたかも
しれません。というか主役なのに影が薄すぎる高橋が問題ですね(本物みたいだ)

大会の方も、辻の優勝とベスト4の組み合わせは構想段階から変わっていません。
矢口の大会にしよう!くらいの意気込みで当初はもっと矢口が目立ちまくるはずでしたが。
ただベスト8の残り4人が書きながらどんどん変化していました。
最初は柴田も石黒もミカも田中も出場せず、紺野とか里田とか夏美会館中心でした。
高橋vs里田、矢口vs紺野みたいな感じです。それから吉澤の出場表明も後付けです。
結果的にこうなって良かったかなと思っています。
特に辻vs高橋の試合は全娘小説の中でもベストバウトと自負しています。
(格闘技の小説自体ほとんどないんですけど…)

最後にこの先の展開ですが、簡単に説明すると
『なっち率いる表の格闘家vsつんくの作り上げた闇の戦士』が中心になります。
どっちにも属さない娘もいるから、一概には言えませんが。

では、応援も批判も含め、たくさんの感想ありがとうございます。
これからもご愛読いただければ嬉しい限りです。

578 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/26 19:49 ID:1SeeCN1y
高橋愛 対戦成績

vs松浦亜弥(プロレス) △
vs斉藤みうな(空手) ○
vs谷絵瑠(相撲) ○
vs紺野あさ美(空手) ○
vs吉澤ひとみ(ボクシング) 中断
vs柴田あゆみ(フリー) ○
vs石黒彩(プロレス) ○
vs辻希美(空手) ×

8戦5勝1敗1引き分け1無効試合

579 :名無し募集中。。。:04/04/26 20:00 ID:meuiHnnQ
ということはなっち皆殺し説は消えたのか?

580 :名無し募集中。。。:04/04/26 20:33 ID:2EiEQOQb
楽しみ♪楽しみ♪

581 :名無し募集中。。。:04/04/26 21:12 ID:0Vj2tbh7
なんだか軍鶏チックな展開に……。
楽しみにしていますので、どうかがんがってください。

582 :名無し募集中。。。 :04/04/26 22:19 ID:1h4m2tKY
>>539
これが正解?


583 :名無し募集中。。。:04/04/26 22:19 ID:A9Ov0W7+
やっぱりあいぼんさんが気になるな。

584 :名無し募集中。。。:04/04/26 22:25 ID:l/S7seQT
ののたんが光ならあいぼんは闇だろ普通

585 :名無し募集中。。。:04/04/26 22:57 ID:vsgdIS+N
と見せかけてですよ

586 :名無し募集中。。。 :04/04/27 00:56 ID:1M/098qy
今回は男塾と見た
次が8vs8
その次が16vs16

587 :名無し募集中。。。.:04/04/27 02:12 ID:d8k0U658
辻豆さんが楽しいと思っているのならイッツオーライ。
これからもほどほどにがんばってくらはい。

588 :名無し募集中。。。:04/04/27 05:12 ID:DX1D4K7i
>>557の着メロって何よ?

589 :名無し募集中。。。:04/04/27 13:11 ID:/X2oPfMl
5vs5なら表は、なっち+ベスト4かな?


590 :名無し募集中。。。:04/04/27 16:31 ID:McYvYoTz
死刑囚は出ますか?

591 :ねぇ、名乗って:04/04/27 18:34 ID:i/TQvgjc
>>591
海王が一杯出ます

592 :名無し募集中。。。:04/04/27 19:38 ID:y/tAc2DZ
でもなっち皆殺しは捨てがたいな・・・

593 :名無し募集中。。。:04/04/27 20:27 ID:OSOhiWu2
>>591
自己レス乙

594 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/27 22:38 ID:/VhEfx8o
>>588
作者の着メロです。
鬼束ちひろの「Castle imitation」
物語とは全然関係ありません。


今日はプライドがおもしろかった。
ちなみに3強ではヒョードル派です。新旧チャンピオン対決は燃えました。

595 :名無し募集中。。。:04/04/27 23:31 ID:jqnKMAR8
>>594
ほんとにプライド面白かった(俺もヒョードル派)
特にコールマン&ランデルマンのハッスル2コンビが良かった
小川の強さ、横井&高橋の頑張り、日本勢も良かった

小説に関係なくてゴメン

596 :名無し募集中。。。:04/04/28 10:06 ID:S+uGlJB2
いつ誰が死んだって同じ
最後はなっちに皆殺(ry

597 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 21:58 ID:MxGb6pNu
第23話「終わりの始まり」

のどかな風景に似つかぬ罵声が飛ぶ。

「いないんです!」
「ハァ?いないってどういうことだよ!」

大会の翌朝。
ふもとの民宿に泊まっていたソニンは再び松浦亜弥の見舞いに訪れた。
すると中年の医師と受付の老婦が何やら騒いでいる。
そこで何事かと尋ねて、出た罵声であった。

「朝起きるともう、もぬけの殻だったんですよ」

ソニンは病室を見て、愕然とした。
昨日、確かに松浦が座っていたベッド、本当にいなくなっているのである。
そしてソニンは昨日最後に見た松浦亜弥の顔を思い出した。

石黒彩と高橋愛の試合を見つめる、松浦亜弥の表情。

「あいつ、一体どこへ?」

松浦亜弥が消える……
終わりの始まり……

598 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 21:59 ID:MxGb6pNu
救急病院から市井宛てに電話があったのはトーナメント翌日の早朝だった。
その昼に、市井のもとへ後藤真希からの電話があった。
市井は再会の挨拶もそこそこに切り上げ、後藤に病院への交通手段を告げた。
後藤真希がその病室に訪れたのは結局、その日の夕刻になった。

「どういう事?」

数年ぶりの再会、開口一番がそれだ。
集中治療室前のイスに座っていた市井が頭を振る。
現れた後藤真希は怒りを抑えきれないといった顔つきで震えていた。

「何でヨッスィーが手術してんのよ!!!」
「静かにしろ。病院だぞ」
「――っ」
「今、奥で吉澤の御家族が先生と面談している」
「死なないよね…」
「いつ息を引き取ってもおかしくないと…言われた。というか一度は死んだそうだ」

一度止まった心臓を物凄い指力で強引に動かした痕跡がある、と医師は語ったのだ。
後藤真希の表情が徐々に冷酷なものへと変化してゆく。

「……誰がやった?」
「わからん。昨日突然消息を絶ち、夜中に病院へ身元不明の女性から電話が入ったそうだ。
確かなことは誰かと戦っていたらしいということだって。…そういう傷だって」
「それは……ヨッスィーが誰かに負けたってこと?」

599 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 21:59 ID:MxGb6pNu
市井は歯をかみしめて頷いた。
信じたくはない。あの吉澤ひとみが何者かに殴り殺されたという事実。

「いちーちゃん。そいつ、ごとーが殺してもいいよね」

ポツリと後藤が呟いた。市井は驚いて彼女の顔を見る。

「どうやって探す気だ?アテはあるのか?救急隊員が言うには、駆けつけた現場には
死にかけの吉澤が残されて、電話の女が誰だったのかは全く分からないらしいぞ」
「ヨッスィーより強い奴なんて、日本に何人もいないよ」
「真希?」
「最強と云われる奴を順に倒してゆけば、いずれ辿り着くでしょ」

確かに吉澤をこんな風にできる実力者など、数える程もいない。
理屈は間違っていないが、それでも狂っているとしか思えない発想だった。

「やめろ真希!警察に任せておけ」
「無理だよ、いちーちゃん。だってごとーは約束したんだもん」

視線が凍っている。冷静ではあるが、後藤真希は狂っている。

「帰ったらヨッスィーと決着をつけるんだって、約束したんだもん。
 だから、それを邪魔した人は、お仕置きしなきゃいけないでしょう?」

当たり前、といった顔で言い残し、後藤真希は病院を去った。

600 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:00 ID:MxGb6pNu
市井は亡くなった片腕に痛みを覚える。
この腕は、ブラジルで修行中、真希によって奪われたものである。
(あいつを狂わせたのは……私だ)

その昔、市井紗耶香は安倍なつみに破れた。
完膚なきまでの敗北。この先どれだけ修行しても届かないとまで思える敗北であった。
最強へのジブンの道を絶たれた市井は、まだ幼い天才にその夢を託す。
それが後藤真希。
13歳にして市井流柔術の免許皆伝を習得。
中学卒業後、市井は彼女をブラジルへと連れてゆく。あの国は怪物どもの集りだった。
だが市井は後藤を地上最強へと育て上げる夢を諦めることができなかった。
後藤にもまた、吉澤との約束があった。約4年間を二人は共に修行して生活した。
そして市井は成長した後藤に過酷な試練を与えたのである。
ブラジリアン柔術の怪物たちとも共に後藤を襲ったのだ。
極限にまで追い込まれた後藤は覚醒する。
市井の想像を遥かに超えた存在へと。
その場の全員を再起不能にまで叩きのめし、師である市井の腕ももぎ取ったのだ。
(あそこで真希は……人を超えた)
それから二人は形上の和解をしたが、市井は腕の治療の為に帰国。
やがて後藤真希はブラジルで最強の座を手にする。

(吉澤なら……真希を戻せるかもと思ったのだが…こんなことになるなんて)
(あいつの狂気を刺激するだけだった)
(もう誰にも真希を止めることはできない……)

601 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:01 ID:MxGb6pNu
小さな居酒屋であった。
テーブルが二つと、あとはカウンターに八つほどイスが並んでいる。
洒落た店構えで客層は学生や若いサラリーマンが中心の店らしい。
女性でも入りやすい雰囲気のある居酒屋だ。

そんな店に、明らかに異質な空気を纏った女が暖簾をくぐる。
飲んでいた客が思わず見とれる程の美女が、たった一人でカウンターの一番奥に座した。
思わず声をかけたくなる程の美しさであったが、そんな勇気の持ち主はいなかった。
美しさ以上に得たいの知れない怖さが、全身から滲み出ていたからだ。

女はあっという間に生ビールの中ジョッキを飲み干し、また同じものを頼む。
それが三回ほど続いたあと、新しく入店した一人の客が隣のイスに腰掛けた。
他にも席は空いているのにわざわざこの女の横に座ったのである。
女はチラリと横目で隣に座した客を見た。
20代後半か30台か?見たことのない女性であった。
蛇のような鋭い目つきをした女だ、こんな奴は一度見たら忘れない。

「大明神の水割り。グラスは2つね」

蛇の目の女が注文すると居酒屋の主人が小粋に返答する。
不気味な銘柄の日本酒が、グラスになみなみと注がれてカウンターに置かれた。
蛇の目の女はその一つを隣の美女に送る。

「どうぞ、藤本さん」

602 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:02 ID:MxGb6pNu
まったく見覚えのない女性からであったが、藤本は無言でこれを受け取る。
国民的ヒロインの矢口ほどではないが、自分もある程度の知名度があることは知っている。
自分を知っている格闘技好きの女性かもしれない。
相手が男ならば断ったが、同姓ということで藤本も気を許した。

「一昨日の大会、観戦しました」

最初の一口をグイッと飲み、蛇の眼の女が言った。
やっぱりと藤本は思い、頂いた日本酒に口をつける。まだ一言も発していない。
見事な敗北を喫した大会である。
負ける気はなかったし、負けるとも思っていなかった。
小さい頃から何でも一番だった藤本が生まれて初めて味わった敗北。
どうしていいのかも分からないし、誰にも合わせる顔がない。
特に安倍なつみや辻希美といった夏美会館の連中には、会いたくなかった。
だからこうして、一人で夜の居酒屋に繰り出しているのである。
とにかく飲みたい気分だった。

「ケガはもういいんですか?」

二杯目を注文した後、蛇の目の女はそう問いかけてきた。
ここでようやく藤本も口を開く。

「酒ぇ飲むのにケガは関係ねえだろ」
「ごもっとも」

603 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:02 ID:MxGb6pNu
「もう一杯、いいか?」
「どうぞ。お好きなだけ」

しばらく二人は無言で飲み続けた。
ときおり串焼きやホッケの開きに箸を伸ばす以外は、だいたいグラスは握っていた。
二人合わせて十杯ほど飲んだところで、また蛇の目の女が口を開く。

「強いんですね」
「負けた奴に言うか」
「お酒」
「ああ、そっちならまだ無敗だ」

これだけ飲んでいるのに、藤本はまだ平然としている。
それは蛇の目の女も同じだった。

「じゃあ今日、負かしちゃおうかな」
「やめとけ、金がいくらあっても足りねえぞ」

藤本はまた飲み干すと、グラスの氷をカランと鳴らした。
蛇の目の女はニィ〜と笑うと、自分の酒も喉に流し込んだ。
空のグラスが下がり、また新しいグラスが二つカウンターに並ぶ。
そこで唐突に蛇の目の女が言い放った。

「もう一回やったら、矢口真里に勝てると思う?」

604 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:03 ID:MxGb6pNu
素人が負けた選手に面と向かって聞く質問とは思えなかった。
酔った勢いで言わせているのだろう。藤本は笑ってあいまいに流す。

「さぁな」
「勝てないね」
「?」
「何度やってもあんたじゃ矢口には勝てないよ、藤本」

いつの間にか敬語じゃなくなっている。
どう見ても年上だからそれは別にいいが、内容がよくない。

「どうして、そう思う?」
「向き合うあんた達を見て思ったのさ。矢口真里の方が怖い。勝利への執念がある」
「私は怖くないとでも?」
「ええ。あなたには欠けているものがある。それに気付かない内は絶対に勝てない。
 まぁこのまま安倍なつみの下にいるんじゃ、永久に気付かないでしょうけど」

パリンと藤本の握り締めたグラスが割れた。
平凡な居酒屋にたちまち険悪な空気が立ち込める。
店の主人が割れたカウンター越しに顔を出す。

「お客さん、大丈夫ですか?」
「悪い」

605 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:04 ID:MxGb6pNu
割れたグラスを片付け、侘びを入れて居酒屋を出る。蛇の目の女も一緒だ。
繁華街を二人は並んで歩き、人気のない裏路地まで行くと向き合って止まった。

「てめぇ、何者だ?」

この口ぶり、素人ではないと藤本は悟る。蛇の目の女は強烈な笑みを浮かべた。

「保田圭」
「聞いたことがあるなぁ」
「フフ…」
「思い出した。えらい強い八極拳の使い手が昔いたと…」
「あら、知ってるの」
「安倍なつみにボコボコに負けたっていう」

ギンッ!と保田圭の蛇の目がさらに釣りあがった。
どうやら言ってはいけないポイントを突いた様である。
保田はなんとか自我を保つように深呼吸を繰り返し、また元の目つきの戻った。

「……私の話はいいの」
「よくねえよ。未だに復讐でも考えているんじゃねぇだろうな」
「もちろん。片時も忘れたことはないわ」
「お前じゃ無理だよ、安倍なつみは」
「それはどうかしら。だけどね、この手で倒すだけが復讐じゃないわ」
「何?」
「この手で育て上げた私の代わりが安倍なつみを倒す!それも復讐よ」

606 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/04/28 22:05 ID:MxGb6pNu
保田の両目が血走っていた。
恐ろしいまでの執念を、藤本は感じる。

「藤本美貴。あなたはいいの?このまま安倍なつみの飼い犬で」
「誰が犬だって!」
「番犬でしょ。安倍なつみの!ご主人様には逆らえない!ワンワンワン……」
「てめぇ殺すぞ」
「やめておきなさい。私はあなたを壊したくないの」
「ああ!?」
「さっき怖くないと言ったわ。でもそれは飼い犬の藤本美貴のことよ。
 私はあなたの才能を誰よりも買っている。あなたは最強になれる器をもっているわ」
「てめぇに言われるまでもねぇ」
「でもその才を開花するには優秀な師が必要。安倍なつみは確かに凄い武術家だけれど
 指導者向きではない。安倍なつみ流は彼女以外に真似できないもの」
「てめぇがその優秀な指導者だって言うのか?」
「そうよ」

保田圭はまだ蛇のような目で藤本を見つめていた。
藤本は黙ってその目を睨み返す。

「もうすぐ私の弟子が動き出す。それで判断すればいいわ。ンフッ」
「……」
「また会いましょう、藤本美貴さん」

そう言い残して、保田圭は闇へと消えていった。

607 :名無し募集中。。。.:04/04/28 22:15 ID:AQdn4+IF
更新乙でっす。いやー、楽しい。

608 :名無し募集中。。。:04/04/28 22:55 ID:+y5YyP98
いよいよ館長の出番ですか?


609 :名無し募集中。。。:04/04/28 23:11 ID:gZwKHzdq
はぁ・・・一番・・ないパターンに・・

610 :名無し募集中。。。:04/04/29 02:23 ID:JbTod7Gl
なんだかんだでこんなパターンが大好きだ。

611 :ねぇ、名乗って:04/04/29 05:22 ID:pghAeTc6
更新乙です
そろそろ先読みは控えたほうがよさそうですね

612 :ねぇ、名乗って:04/04/29 14:29 ID:TapUYRSh
六期が保田の元に集結したな・・・
さすが辻豆さん。

613 :名無し募集中。。。:04/04/30 17:30 ID:NPrUawYl
なっち皆殺しのお膳立てが整いましたね!さすが辻豆さん

614 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:30 ID:TMJOLo04
トーナメントから二週間が過ぎた。
ここは東京の都心部にある夏美会館道場本部。
今日は四半期に一度の合同練習の日であり、全国から支部長クラスが集っている。

「全員、構え!」

前に立ち指揮するのは本部の戸田と北海道支部の木村である。
ともに全国大会で毎年ベスト4か8に食い込む強豪であり、門下生で知らぬ者はいない。
突き、蹴り、受け、型など一通りの基礎練習を終えて休憩に入る。
めいめい久しぶりに会う同胞やライバルと声をかけあっている。
そんな中、道場の壁に珍妙な三人組がいた。
静岡支部の斉藤みうなと北海道支部の紺野あさ美、そして東京本部の辻希美であった。

「あ〜つかれた〜」
「このくらいでへたれるなんて練習が足りませんわよ。辻さん」

みうなが辻をたしなめる。
この二人は大会で選手とセコンドの関係をもち親しくなったのだ。
紺野は無言で手製のドリンクを飲んでいる。

「なにを飲んでらっしゃるの、紺野さん?」
「青汁豆乳。斉藤さんも飲みます?」
「ウッ!遠慮しときますわ」
「おいしいのに……」

615 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:31 ID:TMJOLo04
この合同練習には通常、支部長や全国大会常連クラスの者しか参加できない。
そんな中この若手三人はその実力にて異例で参加を認められた。
十台の娘はこの三人しかいないため、一緒に休憩しているのである。

「紺ちゃんって変わってるね〜」
「辻さんの方がおかしいですよ。もう右手はいいんですか?」
「ううんまだ。なちみに一ヶ月は安静にしてなって言われた」
「あの怪我が一ヶ月で直るってのが、私からすればそもそも間違っていますわ」
「禿同」
「ウズウズしてしょうがないんだから。早く闘いたいなぁ〜」
「あなた、こないだあんな激しい試合したばかりでしょう。あきれた」
「ヘヘ…ところで紺ちゃん。高橋さんはどうしてる?」

ここで辻は紺野に高橋愛の話題を切り出した。やはり少し気になっていたのだ。
紺野が高橋のセコンドについていたことはもちろん知っている。
お咎めは覚悟の上だったが、安倍は何の文句も紺野に言わなかった。
むしろ好敵手をあそこまで鍛えたことを、褒めかねない勢いすらあった。

「まだ入院中ですよ。かなり哀ちゃんになってますけど」
「哀ちゃん?何それ?」
「落ち込んでいるってことです」
「フ〜ン。もう一回闘いたいなぁって思ったんだけど」
「辻さん。ケガが完治したら、私の挑戦受けてもらえますか?」
「え!いいの、紺ちゃん!」
「……まったく。あなたたちの病気にはついていけませんわ」

616 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:32 ID:TMJOLo04
休憩が終わり、試合形式の組手練習が始まった。
順番に前に出て向かい合った相手と拳を交える。
紺野は全国大会常連の猛者を相手に一方的な組手を演じてみせた。
ベテランの空手家たちが、噂の紺野あさ美を生で見て感嘆の声をあげる。
ケガのため組手は見学の辻も驚いた。

「ふぇ〜紺ちゃんって、めちゃくちゃ強いんれすね〜」
「あなた、知りませんでしたの?あの里田さんに勝ったこともあるのよ、彼女」
「人は見かけによらないもんだ」
「そういうあなたが一番、見かけによりませんけど」

斉藤がつっこむ。そこへ紺野が緊張感の抜けた顔で戻ってきた。
(こんな顔して、あの強さ。まったく夏見館は本当にバケモノの集りですわね)
組手は進み、「犬ぞり重戦車」の異名をとる北海道支部の木村あさみが立つ。
彼女の闘い方は単純で、岩石のような体を丸めまっすぐ直進してくる。
一度走らせたら誰も止められない為、こんな異名が付いたのだ。
対して、東京本部の戸田りんねは演舞のような流れる空手の使い手である。
その技のキレは鋭く、なっちも信頼する生粋の空手家だ。
しかしそんな二人でも全国優勝の経験はない。
「怪物」里田まいと「天才」藤本美貴がいたからである。
さらに館長の安倍なつみはその上の実力を持つといわれる。もはや雲の上だ。
この層の厚さが夏美会館を最強と云わしめる。
(私の同世代には辻希美と紺野あさ美というバケモノがいるし…)
(不足はないですわね。それでもいつか必ず私が全国王者になってみせますわ)
斉藤みうなはひそかに誓った。

617 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:33 ID:TMJOLo04
合同練習は進む。そして、それは組手が二順目に入りかけたときであった。
ストレートの茶髪に、柄のTシャツ、ももの付け根まで切り込まれたジーパン。
空手道場にどう見ても不釣合いな女が、道場の扉を開いて入ってきた。
そしてこう言った。

「安倍なつみってどいつ?」

場の空気が変わる。すべての人間の注目が、この不思議な空気を持つ女にうつった。

「館長は今、留守です」

入り口付近にいたベテランの女が答える。
口調は丁寧だが、明らかに威圧のこもった声色である。
しかしその不釣合いな女は平然と返す。

「じゃあ、安倍なつみが戻って来るまで待つよ」
「誰を呼び捨てにしとんのやコラ」

気性の荒い大阪支部長がグイッと女の肩を引っ張った。
次の瞬間、パァンという音がして大阪支部長は床に崩れ落ちる。

「触んなよ」

不釣合いな女―――――後藤真希が冷たくこぼした。

618 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:34 ID:TMJOLo04
「貴様!何をする!」
「ここがどこかわかっているのか!」

たちまち夏美会館本部道場に騒然とした空気が流れる。
これだけ名が売れていれば、腕試しの道場やぶりみたいな者も来たことはある。
最近ではあの吉澤ひとみが乗り込んできたのが記憶に新しい。
しかし、この女は他の誰とも違う。道場やぶりなんて生やさしい感じがしない。

「よせ、お前たち」

師範役の戸田が、吼える同門をさえぎり後藤の前に立った。

「先に手を出したのはこちらだ。だが、館長は留守と言ったはずだ」
「いつ帰ってくんの?」
「なんなら、用件を聞いておこうか?」
「ザコに言う必要ないし」

戸田は冷静を保ってはいるが、まわりの者は明らかに殺気立っていた。
そこでもう一人の師範役木村も前に出てきた。

「戸田さん。彼女は明らかに喧嘩を売りにきています。任せてください」
「おい、木村。しかし館長の留守に」
「このまま放っておく方が、夏美館の名折れですよ」

夏美会館の誇る「犬ぞり重戦車」が牙をむく。

619 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:34 ID:TMJOLo04
「ふえ〜。のの、道場やぶりって初めて見たのれす」
「完全にギャルですね。なんか道場やぶりのイメージ狂いますよ」
「あなた達ってこんなときでも本当にのんきね」
「大丈夫ですよ。木村先輩に任せておけば」

紺野は北海道支部長の木村あさみという空手家に絶大な信頼を寄せていた。
彼女がここまで成長したのも、この偉大な先輩の指導が大きい割合を占める。
その木村あさみが後藤真希と向かい合った。

「誤るなら、今のうちだよ」
「だ〜か〜ら〜、ザコに用無いって言ってんじゃん」
「ならば遠慮はしない」

ドドドッと木村あさみが後藤真希に向かって突進した。
勢いをつけたら誰にも止められないと言われる重戦車の破壊力が…!!

パァン!

重戦車の顔が後藤の手前で跳ね上がった。続いて…

パパパァン!

閃光。表現するならばその単語が適切かもしれない。
後藤と木村の間に複数の閃光が走ったのだ。
重戦車がまたたくまに崩れ落ちる。後藤真希は優雅に立ち尽くしていた。

620 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:35 ID:TMJOLo04
(何が起きた!)
全国に名を轟かす一流の空手家たちが、顔をそろえて驚嘆した。
余裕を浮かべて様子を伺っていた斉藤・紺野・辻の三人も思わず目を見張る。
何が起きたのかもわからぬ間に、木村あさみが倒されてしまったのだ。

「辻さん、今の見えましたか?」

紺野の質問に辻は首を振った。
全日本トーナメントの優勝者が首を振ったのである。

「うざいよ」

後藤真希はあくまで淡々と呟く。本当に煩わしそうにしている。
数十人の一流空手家たちが、あっという間に押し黙ってしまった。
木村あさみはこの中でも間違いなくトップクラスの実力者であった。
この女はそれを秒殺したのである。
館長の留守を預かるもう一人の師範役、戸田りんねの顔色も変わっていた。
(なんてことだ…くそっ。よりによって藤本も里田もいない……こんな時に)
藤本美貴はトーナメント以来、道場に顔を出していない。
里田まいは海外支部の遠征に出かけていた。

「で、安倍なつみはいつ来るの?」
「……夕方まで戻らん」

なっちは多忙である。今日は格闘技番組のゲスト出演依頼があったのだ。

621 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:36 ID:TMJOLo04
「あぁそう。じゃあ夕方頃また来るよ」

あくまで淡々と。後藤真希はクルリと背を向ける。
それを誰も止めることができない。
全国クラスの猛者が集って。これだけのことをされて。誰も止められない。
逆に実力があるからわかってしまうのである。
この不適な女の力がどれほど凄まじいものかを。どう足掻いても勝ち目がないこと。
(情けないですわ)
みうなは思った。最強を語る夏美会館がたった一人の女にこのザマ。
(100%負けるのが分かっていても、立ち向かうべきなのです)

「待て!!」

……と。みうなが叫ぼうと立ち上がる先に、立ち上がる影があった。
道場中の注目がその声の主に向かう。
後藤真希も振り返り、不適なまなざしでその声の主を見た。

「そのまま返すわけにはいかねーのれす!!」

そうだ。
なっちが留守でも、藤本がいなくても、里田がいなくても……
今の夏美会館にはまだこの娘がいるのである!
総合格闘技トーナメント優勝者!辻希美!

「ののが相手だ!!」

622 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:37 ID:TMJOLo04
ところが、そんなことは知らない後藤はため息をこぼす。

「なぁに?ここってお子様もいるわけ?勘弁してよね」
「あー!待てー!お子様じゃないやい!」

追いかけようとした辻をみうなが止める。

「待ちなさい!辻さん、あなたまだケガがしているでしょう」
「でも、だからってこのままあいつを…!」

そのときであった。いつのまにか紺野の姿が見えないことに辻が気付いたのは。
なっちが留守でも、藤本がいなくても、里田がいなくても……。
辻が戦えなくても―――そう、夏美会館にはまだバケモノがいるのである。

「ん?」

出口の扉にかけた後藤の手が止まった。
その先に、一人の娘が立ちはだかっていたのである。

「だから〜ウザイって」

後藤が顔をしかめる。そして例の閃光を放つ。
ところが、今度は小気味よいパァンという音の変わりに空を切る音が響く。

「んあ?」

623 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:37 ID:TMJOLo04
「閃光の正体は高速のハイキックですね。あまりにも速すぎるせいで、音だけが後で聞こえてしまうのです。正体がわかれば回避は不可能ではありません」

説明どおり、避けてみせた。

「私の友人にも、スピード自慢の子がいまして」
「…」
「こないだまでその子と山篭りしてましたから、早さには慣れてるんです」

支部長や全国常連の者たちが「おおっ」とどよめきをあげる。
淡々としていた後藤真希の声色が変わる。

「あんた、名前は?」
「夏美会館空手3段。紺野あさ美」
「へぇ、ここにはザコや子供しかいないのかと思ったよ」

後ろで「子供じゃなぁ〜い」と叫ぶ声が聞こえたが後藤は無視した。
怒りを込めた表情で紺野が猛る。

「夏美館を見下す人は私が許しません!」
「あ〜そぅ」

深い深い狂気を潜め、後藤真希は無表情のまま呟いた。

第23話「終わりの始まり」終わり

624 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/01 00:46 ID:TMJOLo04
次回予告

後藤真希vs紺野あさ美
夏美会館に吹き荒れる暴風!!そしてさらに……
『狂気の天才』は『全格闘技界の頂上』を動かす!!

「……お前を殺しに来た者だ」
「殺すのはこっちだべさ」

To be continued

625 :名無し募集中。。。:04/05/01 09:09 ID:WDw+n//P
相手がごっちんではなぁ・・・
こんこん、良い咬ませ犬になってくれよ

626 :名無し募集中。。。:04/05/01 10:21 ID:kf71EK3X
ここにきて紺野の神の拳が(ry

627 :名無し募集中。。。:04/05/01 11:39 ID:mDPMTRzf
修羅の門かよ・・・ガクリピュー

628 :名無し募集中。。。:04/05/01 11:41 ID:mDPMTRzf
後藤がかませ犬だな!そのままだとありきたりすぎ

629 :名無し募集中。。。.:04/05/01 13:45 ID:Mhw1XpBE
更新乙です。
リアル紺野は後藤を尊敬してるところから、
この戦いを通して紺野は後藤サイドにつきそうな気も。

630 :名無し募集中。。。:04/05/01 16:49 ID:mDPMTRzf
なにがなんだか

631 :名無し募集中。。。:04/05/02 01:28 ID:MUJ4l+VE
やっぱりなっちがみなg(ry

632 :ねぇ、名乗って:04/05/02 03:08 ID:NPlQgAX/
強さのインフレが始まるとDBのように話に萎えるが、天井になっちがいるからジブンのみちは大丈夫な気がする。

633 :名無し募集中。。。:04/05/02 13:10 ID:WUL7FVar
なんか物語の核がなくなったな

今の話書きたかったなら前半をちゃんと完結して
第二部として始めればよかった
細部を書ききれてないのにどんどん筋だけ進めようとするからこうなる

634 :名無し募集中。。。 :04/05/02 21:41 ID:6bH6DG2U
紺ちゃんって。。。

最近になってミニモニの活動休止がつらくなったのは俺だけですか?

635 :名無し募集中。。。:04/05/02 22:03 ID:Xi/omUEH
高橋等に続いて、今度は紺野がかませ犬化か…
あまり障害の残らない負け方をしてくれるのを祈るだけか……

636 :名無し募集中。。。:04/05/03 03:28 ID:OxTpWXwX
後藤はいらないかも・・・

637 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:01 ID:PDkVWBfF
第24話「頂上が見えた日」

「これが……あのアニキだってのか……」

生命の中枢である脳幹のみ活動し、それ以外の脳機能が死滅している状態。
動くことや食べることなどの動物的機能が消失している為、これを「植物状態」と呼ぶ。
そんな植物状態の吉澤ひとみを前にして、見舞いに来た小川麻琴は泣いた。

(へーそっかぁ。ピーマコもちゃんと柔道やってんのか。そりゃ良かった)
(ピーマコ!いつまでそんなのにてこずってる!)
(ピーピーうっせーぞ!ピーマコ!)
数々の思い出が蘇ってくる。

「ア、アニキィ…」
「う、嘘だ、嘘だって言ってくれよぉ……」

吉澤ひとみの生命は奇跡的に死を免れた。
しかしそれだけであった。ただ死んでいないだけのモノ。
いつも元気に暴れ輝いていた「吉澤ひとみ」は、なくなっていた。

「アニキィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

静かな病室に麻琴の叫びが響くが、それが吉澤に届くことはない。
機械的な呼吸ポンプ音だけがいつまでも鳴り続けていた。

638 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:01 ID:PDkVWBfF
(強すぎる。次元が違う。背負っているものが違う?)
(本当に同じ人間なのだろうか?)

パパパパパパパパァパパァン!!

マシンガンのような打撃が身を打ち砕く。
結局避けることができたのは最初の一発だけ。
後藤真希はそれからさらに速度を上げ、フェイントをかけ、連携を織り交ぜる。
なにもかもが違いすぎていた。
(勝てなくても…せめて一撃!この正拳突きを一撃)
(せめてそれだけは…じゃないと、館長に合わせる顔がない!)
気力をふりしぼり紺野は前に突進した。
マシンガンの打撃の中、すべてをかけた最強の正拳突き。
最強にあこがれていた幼き日より一日も欠かすことなく打ち続けた自慢の……

ガシッ!

なんだろう?
突きを放った右腕に彼女の左足が絡みついている。そんなことが可能なのか?
左足で右腕を捻りながら、もう一方の足で回し蹴り。そんなことが可能なのか?
防御と間接と打撃を、ワンモーションで。そんなことが……

後藤真希の長い手足がバラバラの思考を持つ生物の様に動く!

スクランブル(混合技)!

639 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:02 ID:PDkVWBfF
ドサッと紺野は崩れ落ちた。何もできずに…倒された。
国内最大の格闘技団体、夏美会館空手の上位集団が戦慄に固まっていた。
「犬ぞり重戦車」の異名をとるトップファイター木村あさみを一瞬で…
「秘密兵器」紺野あさ美を一方的な実力差でねじ伏せてしまったのだ。

「弟子がこの程度じゃ、安倍なつみってのもあんまし期待できないね」
「……」
「それじゃあ失礼」

後藤真希は傍若無人に言い放つ。なのに誰も言い返すことができない。
それほどにこの女の強さはケタ外れであった。
この世界にこれほどの者が存在したのかと、その場の全員が凍りつく。

「もう、止めないでくらはい」

たったひとり。たったひとりだけが熱を帯びた。
ケガをしていようが、敵がケタ外れの強さだろうが、
仲間を倒されて、安倍なつみをバカにされて、黙っていられる訳がない!
辻希美が立ち上がる。
誰が止められるか、と斉藤みうなは思った。

(熱を帯びた辻希美を誰が止められるものか!!)

640 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:03 ID:PDkVWBfF
後藤は近づいてくる辻を見て、呆れた。

「ちょっと〜、私って子供を痛ぶるほど、非道じゃないからさ〜」
「子供らない!」
「舌足らずで言われても説得力0」
「もう許さな……あっ!」

辻の表情からたちまち熱が消えた。また、道場内に残る全員にも一様の変化が起きる。
後藤真希もその変化に気付く。振り返るとそこに一人の女が立っていた。

「お取り込み中みたいね」
「なちみ!!」「館長!!」
「合同練習に参加したくて、予定繰り上げてもらったんだけどさ。お客さん?」

安倍なつみの視線が後藤真希を捕えた。
その足元に転がる紺野あさ美と、奥で倒れている木村あさみも含めて。

「…じゃあ、なさそうね」
「お前が安倍なつみか」
「そういう貴女は何処のどなたかしら?」
「なちみ!気をつけて!そいつが木村さんと紺ちゃんを!!」

辻の声に、安倍なつみの表情が変わる。

「……お前を殺しに来た者だ」

641 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:04 ID:PDkVWBfF
ブン!と後藤が動いた。
スーツ姿のなっちは、瞬時に腰を落とす。

パパパパパパパァパパパパッパパァパッ!!!!!!!!!

幾重もの閃光がなっちに降り注ぐ。信じられないスピード。
高橋愛の速さがやわらかく流れる風の様だと表現するならば、
後藤真希の速さは一切の無駄を省いた直線的な光の線。
(人間じゃない……)
戸田りんねは思った。
しかしなんと、なっちはその閃光の一つ一つを正確にさばいているのである!
(…どっちも)

パパァン!!

通じないと判断した後藤が一旦、下がる。
それに上手くタイミングを合わせてなっちが前に踏み出す。
絶妙の呼吸であった。大概の相手なら完全に虚を突くその間合いでの正拳突き。
(決まっ…!)
夏美館の者たちは誰しもそう思った。
ところがここで、後藤真希の手足がそれぞれ4つの意思をもつ様に動きだす。
左足を支点に、左手が正拳突きを受け、右手がその間接を狙い、右足が閃光のハイキック!
紺野を倒した絶技!スクランブル!

「なちみぃーーーーーーーーーー!!!」

642 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:05 ID:PDkVWBfF
恐ろしい光景が浮かび、辻希美は叫んでいた。

「でかい声出すなよ、のの。びっくりするべさ」
「なちみ!」

膝をついた状態で、なっちは笑みを浮かべていた。
さらに方言も出ている。安倍なつみは興奮すると方言が出てしまう。
つまり本気に近いということだ。

「誰だか知らんけど、とんでもない奴だべ」

一方の後藤真希は少し離れた所に下がっていた。
なっちの正拳突きが予想以上に強かったため、決めきれず下がったのだ。
それでも安倍なつみの膝を地に付けたのである。
はっきり言って、安倍なつみに膝をつかせた奴などかつて存在しない。

「どうしてなっちを狙うのかも知らないけど」
「……」
「お前はなっちの大事な門下生に手をかけた」
「フッ」
「殺すのはこっちだべさ」

かつてないほど恐ろしい表情の安倍なつみがそこにいた。

643 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:15 ID:PDkVWBfF
辻は倒れている紺野を安全な場所にまで運び、揺り動かす。

「紺ちゃん、紺ちゃん、大丈夫?」
「うぅ、あ、あ…辻さん?あれ、私……負けた」
「今、なちみが闘っている」
「えっ!館長が!」

そんな若い二人に、昔からのなっちを知る戸田が語る。

「滅多に見れんから、よぅく見ておけ、お前たち」
「え?」
「頂上(てっぺん)の景色を」

辻と紺野は顔を見合わせて、そしてジブン達の目指す先を見つめた。
全格闘技界の頂上。
安倍なつみの本気の闘いが、今これから始まろうとしている。
対するはブラジルで最強を極めた狂気の天才、後藤真希。

「いくべさ」

今度は安倍なつみが前に出た。
閃光のミドルキックで返り討ちを狙う後藤。
すると、なっちの手足四本がまるで別々の生き物の様に動き出した。
左手で閃光を止め、右足と左足でアキレス腱を絞め、右手が裏拳を放つ!
(これって…!)

644 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/03 13:16 ID:PDkVWBfF
天性の勘と身のこなしで避ける後藤。
いや後藤真希でなければ、勝負はついていた。
(この女…)
無表情のまま、安倍なつみを睨みつける。安倍はニヤニヤと笑っていた。

「こんな感じでいいんだよね。次はちゃんと決めるべさ」

後藤真希の絶技スクランブルを、たった一度見ただけで再現してしまった。
そんな生易しい技ではない。
達人クラスの使い手を百人集めて、その中で一人習得できるかどうかの絶技だ。
どんなに才があっても見様見真似でできるものではない。
それをたった一度で……

「パーフェクト・ピッチ」

なっちがニィと笑った。本当に太陽みたいな笑顔を秘めた女である。

「どんな技でも一度見たらできちゃうんだよねぇ、なっち」

サラリと恐ろしいことを言ってのけた。
修行者が何年も掛けて会得する奥義を、この怪物は数秒でマスターするということ。
強ければ強い相手と戦う程、安倍なつみという女はさらに強くなっていくこと。
驚愕の事実に、辻も紺野も言葉をなくしていた。
自分が追い求める道の先は、さらに凄いスピードで遠ざかっていたのだ。
これが最強!

645 :ただすん:04/05/03 13:42 ID:FA3ESvHD
ん、どこかで見たような…そうだ!モー娘最大トーナメントの加護と同じ能力だ!

次は時を止めるヤツもお願いします!

646 :名無し募集中。。。:04/05/03 13:57 ID:OxTpWXwX
これだけじゃないですよね!なっちぃ!!!!!もっと強いとこ見せて!!
タイムリーネタ乙です!

647 :ねぇ、名乗って:04/05/04 02:17 ID:OYWoVclG
技を真似るのはいいのだがそれに体がついてかないなんて
WJのテニプリみたいなヲチはなっちに限ってないと思うがちと心配w


648 :名無し募集中。。。:04/05/04 04:21 ID:DPX81MPI
>>647
それはさすがにないでしょう・・

649 :名無し募集中。。。:04/05/04 04:50 ID:i4vHXaFu
ここで覇極流超奥義 宇呂悄淡瀦ですよ。

650 :ねぇ、名乗って:04/05/04 16:07 ID:CaMWrb8Z
> 「バカね。言ったでしょ積み重ねって。なっちや美貴でもこれができる様になるまで
> 3年はかかったんだから。ののはとりあえず形だけでも覚え…」

これは

651 :名無し募集中。。。:04/05/04 16:12 ID:AqtBfdjw
>>650
技を見切って真似るのはすぐ出来るけど、
編み出すのには時間がかかるのでは

652 :ねぇ、名乗って:04/05/04 19:02 ID:OYWoVclG
地下組織と言って簡単に思いつくのがクローンと強化改造
そしてそこから抜け出して組織を反抗するヒーローいやここではヒロインかな?
もし地下組織側で
松浦&加護&アヤカ&中澤&平家でチームを組むなら寺田と共通点が薄いながらあるから面白いけど…

653 :名無し募集中。。。:04/05/04 20:27 ID:EFBxLzJB
なっちは寸剄を覚えるのにも必死でしたが

654 :名無し募集中。。。.:04/05/04 22:18 ID:bGYew4fe
>>650
本当のこと言ってたら辻への励ましにならないからでしょ。
実際藤本も余裕で会得してそうだし。

655 :名無し募集中。。。:04/05/04 22:37 ID:DPX81MPI
保田軍団はすぐやられそう・・っていうかやられないと・・強いやつ多すぎ

656 :名無し募集中。。。:04/05/05 01:58 ID:/15ZBTmo
インフレはインフレで楽しまないと。
でも、インフレしすぎてバキの死刑囚編みたく急にデフレになるのだけは勘弁。

657 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:02 ID:mHWUQtWX
>>645
超能力ものではなく、あくまで格闘技小説ですので
時を止めるとか非現実的すぎるものは出しません。

>>646
なっちはパーフェクトピッチ無しでも、圧倒的に強いんですけどね。

>>647
それはないと思います。

>>649
マヌケヤロウ

>>650
空手だけは誰かの真似ではなく基礎からしっかり積み上げたものです。
真似だけで強くなれる訳でないことは過去の出来事でなっち自身よくわかっているので。
その辺はまたそのうち「番外編なっち」で。

658 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:03 ID:mHWUQtWX
>>651>>654
そういう解釈もできますね

>>652
…半分くらい当たってるかも

>>653
それも「番外編なっち」のvs保田戦で。

>>655
あと2,3回の更新後に意見が逆転しているかもしれない

>>656
とりあえず安倍なつみがいる限り、メチャクチャなインフレは無いと思います。

659 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:04 ID:mHWUQtWX
「なるほど、ね」

そんな脅威的事実を聞いても、後藤真希は淡々としていた。
なっちがどれだけ強くなろうが、負けない自信があるのかもしれない。

「そうやって、ヨッスィーのボクシングも盗んだのか?」
「ハ?なんのこと?」
「とぼけるなよ。ヨッスィーを殺せたのはお前しかいないんだよ!安倍なつみ!」

再び高速の速さで襲い掛かる後藤真希。
なっちといえど、一瞬でも気を抜いたらやられかねない。
ギリギリで避けながら、誤解を解く。

「待って!待ちなさい!ヨッスィーって?吉澤ひとみのこと?」
「そうだよ!お前が殺した吉澤ひとみだ!!」
「知らない知らない!あなた、誤解よ!」

ピタっと後藤の拳が鼻先で止まった。安倍はニコ〜と苦笑いを浮かべている。

「誤解?」
「そうよ。ていうか、どうしてなっちなの?」

後藤は悩んだ挙句、渋々返答する。吉澤に勝てる程強い奴をアチコチで聞きまわった所、
帰ってくる答えはだいたい二つ。「安倍なつみ」か「飯田圭織」。その内の一人、飯田圭織
は当時、都内の病院で療養していた為、犯人は一人に絞られた。

660 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:05 ID:mHWUQtWX
「それで殺人犯にされちゃ、たまったもんじゃないわね」
「……」
「その日は一日中トーナメントの主催で大忙しだったのよ。なっちな訳ないでしょ!」
「先に言え」
「あんたが言う前に襲ってきたんでしょ!」
「そっちだって、殺すとか言ってたじゃん」
「それは…うちの木村と紺野に手を出したからよ」
「正当防衛じゃん」

なっちは言葉を濁らす。何を言ってもこの娘は素直に聞きそうにない。
まわりの門下生は珍しいものを見る目で、二人の会話を見守っていた。
あの「最強」安倍なつみが、たとえ口でも言い負かされているのが何となく面白いのだ。

「とにかく、日本中の強い格闘家はだいたいその日トーナメント会場にいたの」
「じゃあ、誰だよ」
「だから知らないって。知ってたらなっちが叩き潰してるわ」

なっちは吉澤と藤本の試合を本気で楽しみにしていたし、バカみたいに一本気の吉澤を、
夏美会館に敵対する存在ながら気に入っていたのだ。だから吉澤をあんな目にした奴に
本気でムカついていた。

「ヨッスィーの仇をうつのは私。勝手に手ぇだしたら殺すよ」
「わかってる。なんなら犯人探し協力しようか。こう見えてもなっち結構顔広いのよ」
「余計なお世話だ」
「あーそう。だけど格闘家じゃないとすると一体……?」

661 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:06 ID:mHWUQtWX
スッと後藤は立ち上がると、出口へと歩き出した。

「あら、続きはしないの?」
「ヨッスィーの仇が最優先。違うとわかった今お前と遊んでいる暇は無い」
「まって。名前くらい聞かせてよ」
「後藤真希」

名乗ると、後藤はあっという間に走り去ってしまった。
夏美会館一同が声をかける暇すら与えなかった。
やがて、起き上がった大阪支部長と木村と紺野になっちが声をかける。

「あいつを黙って逃がしたこと、恨んでいる?」
「恨むなんてとんでもありません。一対一で卑怯なことは何もされていない。
 完全な実力で負けたのに、恨むなどというのはお門違いです」
「必ず追いついて、追い越してみせます。あの後藤さんも、館長も」

木村と紺野の言葉になっちは頷いてみせた。
その横で辻は体を震わせていた。
安倍と後藤の闘いを見ていたら自分も早く闘いたくてウズウズしてきたのだ。
(あいぼん、地上最強はやっぱり高いよ。でも、ようやく見えた)
そんな辻に、なっちが本当に楽しそうな笑みで声を掛ける。

「後藤真希。吉澤を倒した奴。どうやら知らない所で色々動き出しているみたいだね」
「へい」
「何だかおもしろくなってきたじゃない、ねぇ」

662 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:07 ID:mHWUQtWX
それから、三ヶ月後。
季節は秋となっていた。
トーナメント以後、格闘議界は特に大きな話題も事件もなく平穏に過ぎる。
語っておくべきこととしては、精力的に活動を続けたハロープロレスのニュースくらいだ。

ジョンソン飯田が復帰戦で、あらためて最強神話の健在を証明したこと。
ヒールレスラーのデビルお豆こと新垣里沙が、初勝利を収めたこと。
それからデビルお豆は連勝街道をまっしぐら一躍ニューヒーローとなったこと。
もっともこれらは全て用意された筋書きによることではあるが。

一番話題にあがったのは、長きにわたりハロープロレスとジョンソン飯田を支え続けた
パートナー、クロエ石黒の引退試合である。引退の理由は表向き上、トーナメント敗北の
責任を取るということ。しかし本当の所は体内に新しい命が宿ったから。そう、石黒彩は
結婚することになったのだ。旦那は巨漢レスラーしんや。さぞや強い子が生まれるであろ
うと今から評判である。

クロエ石黒の引退試合は、プロレス史に燦然と輝く最強タッグ飯田石黒の最後のお披露目
ということもあって、空前の超満員となった。その相手をつとめたのは、対立をし続けた
他団体T&Cの生き残り、稲葉・小湊タッグである。思えばもう何年も前のこと、飯田と
石黒がブレイクするきっかけとなったのもこのT&C戦の乱入からである。実に粋な計ら
いといえた。往年のプロレスファンは感涙物のこのカードは、実にプロレスらしい見ごた
えある試合を演じ、最後はクロエ石黒の必殺技ノーズフックで決着がついた。

以後、石黒は裏方に徹してこれからもハロープロレスを支えていくことを名言。
ひとつの時代が終わったのである。

663 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/05 22:08 ID:mHWUQtWX
舞台を去る者があれば、新たに舞台へ上がる者もいる。

トーナメントから三ヶ月。
選手のケガもほぼ治り、皆が新たな道へ走り出した頃だ。
まるでそれを待っていたかの様に動き出す影。

まず、小さな事件が起きた。
故郷のアメリカへ戻り、ボクシングに専念することを明言したミカ=トッド。
彼女が帰国予定の前日に何者かに襲われて全治1ヶ月の重症を負ったのである。
当人のイメージ問題もあり、このニュースは報道されることはなかった。
一部裏事情に詳しい者だけにそれは流れた。

ただの傷害事件。
まだ誰も不審に思うことはなかった。
三日後、次の事件が起きるまでは。

次の事件の現場は「日本のスラム街」と呼ばれ、近づく者も少ないミダラ摩天楼。
そこに怪しい二人組が降り立った。
二人組の狙いは、そう―――――――――――柴田あゆみ。

664 :名無し募集中。。。.:04/05/05 23:57 ID:7OxPY9z2
>>663
更新乙です。リアルの出来事を絡めたストーリーがいいですね。

665 :ねぇ、名乗って:04/05/06 00:14 ID:D1VITbSs
二人組・・・誰だ?

666 :辻豆保全隊隊長。。。:04/05/06 01:31 ID:7Eqv2tEU
辻豆さん更新乙です!
二人てもしかして、田中れいなとシゲさん?

667 :ねぇ、名乗って:04/05/06 02:57 ID:+eZ1DZ/o
妊婦に試合やらせるなんて

668 :名無し募集中。。。:04/05/06 09:22 ID:ShXCxtmm
二人組って事はアレか、チワワの歌唄ってるあの。

669 :名名名無し:04/05/06 15:52 ID:jQDRb/ym
辻豆さん乙。2日で一気に追いつきました。今までミステリかエロネタ(6期)しか見ない鬼畜野郎が初めて格闘モノにコスモを感じております。辻豆さんの作品からは古き良き時代の格闘マンガの臭いがします。ガンバフライハイ。

670 :ねぇ、名乗って:04/05/06 19:37 ID:ll/ljtre
更新乙です
・石黒の夫の必殺技は「太鼓の乱れ打ち」と「御輿担ぎバックブリーカー」ですかw

・もし松浦と加護が影の組織側についたら石川含めて三人祭?

以上勝手に感じた感想です。これからも面白いストーリー期待してます。

671 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:20 ID:drtI98SS
>>663
リアル歴史も少し混ぜて、脱退メンから現役引退みたいな…

>>667
そこはまぁプロレスなんで

>>668
チワワの唄って誰ですか?

>>669
古き良き時代の匂い。
作者自身はそんなに古い人じゃないですよ。新しくもないけど。

>>670
ムダな裏設定A【巨漢レスラーしんや】
ビジュ格時代に一世を風靡したプロレス団体「ル・ナシー」の一員。
しんやはル・ナシーでも特に凶暴で「破壊王」の異名を持っていたが、
数年前に惜しまれながら解散し、現在メンバーは個々でフリー活動中。
必殺技には「太鼓の乱れ打ち」「御輿担ぎバックブリーカー」等がある。

672 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:21 ID:drtI98SS
摩天楼に悲鳴が鳴り響く。そこは今地獄と化していた。
トンと、ただ触れただけ。構えもタメもない。
その少女が触れただけで大谷が十メートル近く吹き飛んだのだ。
気絶する大谷を見て、ボス斉藤が叫ぶ。

「柴田、逃げろ!」

信じられない出来事であった。
スカーフで顔を隠してはいるが、その背格好はどう見てもまだ少女。
そんな少女二人に摩天楼の荒れくれどもが全滅。
そして、裏社会最怖を誇っていたメロンも今、全滅の危機に陥っている。
せめて柴田だけでも、と思い斉藤は呼びかけたのだ。しかし遅かった。
大谷を吹き飛ばした方と別の少女が、柴田の目の前にまで迫っていたのだ。

「私は逃げない!」

柴田は歯を食いしばった。ようやくトーナメントの傷が癒えた。
これからまた格闘技の世界で再出発だと奮起していた所である。

フリージア!

自慢の必殺技を繰り出す。現格闘技界においてもトップクラスの破壊力を秘めた技だ。
その蹴り技が真芯で少女の顔面を捉えた。

673 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:22 ID:drtI98SS
ガギン!

ところがダメージを受けたのは柴田であった!まるで金属の塊を思い切り蹴った感触。
少女は右手を槍のような形にすぼめ、足を押さえ屈む柴田の肩に突き刺した。

「あああああああっ!!」

今度は金属の槍で刺されたような感触。一体どうなっているというのか?
少女の右手が本当の槍みたいに突き刺さっていたのだ。
ズンと右手を抜くと大量の血が噴出し、柴田は意識を失って倒れた。

「柴田ぁ!!」

駆け寄る斉藤にもう一人の少女が立ちふさがり、そっと触れた。
それだけで斉藤は車に轢かれたみたいに、弾き飛んで意識を失った。
メロンの残り一人、村田は恐怖で身動きがとれなくなっていた。
あまりにも圧倒的な恐怖。そんな村田を残して、二人の少女は闇に消えた。

「ば、バケモノだ…」

この事件、摩天楼は無法地帯ということもあり表立ったニュースにはならなかった。
しかし一部報道関係者の間では、ミカ=トッド傷害事件との関係性が囁かれ出す。
『トーナメント出場者が狙われている!』
そんな見出しで取り上げるB級雑誌も出るほど。
しかしその記事は、あながち間違いでもなくなる。

674 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:23 ID:drtI98SS
「なんだよ、これー!」

夏美会館の館長室にて、例のB級雑誌を投げ飛ばす辻。
例の事件記事を見ての反応である。
雑誌を見せた安倍は怒る辻に尋ねる。

「同じトーナメント選手がやられて、怒った?」
「違うよ。どうして襲うならまず優勝したののに来ないのかってこと!
 こっちは暴れたくてウズウズしてるって言うのにさ!もう!」
「そっちかよ」

相変わらずマイペースの辻は別として、安倍なつみは少し心配していた。
(もしこの雑誌が言うとおり、トーナメント選手が狙われているとしたら?)
石黒は強固なハロープロレスの一員だ、そう簡単に手出しできないだろう。
同じ理由は講道館の矢口にも言える。田中に関しては消息も掴めない。
(もし次に危険があるとすれば高橋か…美貴か?)
藤本美貴はトーナメント以来、ばったり道場に顔を出さなくなった。
(一応、声かけておいた方がいいかな)
安倍はこの心配が杞憂に終わることを願う。
しかしこれはまだ、これから始まる闇の侵略のほんの序章に過ぎなかったのである。

675 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:24 ID:drtI98SS
「これで、二人目っと」

マジックペンで名前の上をキュッキュっと塗りつぶす。
その紙には、七つの名前が縦に連ねられていた。

柴田あゆみ
辻希美
石黒彩
高橋愛
ミカトッド
藤本美貴
矢口真里

三ヶ月前に開催されたトーナメント出場選手の一覧である。
すでにその内の二つ「柴田あゆみ」と「ミカトッド」はマジックで塗りつぶされている。

「残りは…え〜と、5人か」
「意外と早く終わりそうばい」

ミカと柴田を襲った二人の少女―――田中と道重は満足気にはしゃいでいた。
ここは田中たちが育ったいつもの修練場である。

676 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:24 ID:drtI98SS
「ところで、エリにはバレてなかね?」
「大丈夫。しゃべってないから」
「うちらの獲物が減るばい、当分秘密。よかね?」
「うん」

おしゃべりしていると、保田圭が家屋から現れこちらへ向かってきた。

「順調のようね」
「あ、師匠。さゆに任せればいつも完璧です」
「言われた通り、トーナメント選手は全員叩き潰すと、心配なか」

そう、この事件の黒幕は復讐鬼と化した保田圭であった。
安倍なつみへの復讐はすでに、表の格闘技界全てへの復讐へと膨れ上がっていた。
なっちを中心として動く今の女子格闘議界を潰すことこそ、なっちへの復讐に繋がる。
それで弟子の田中れいなと道重さゆみに皆殺しを命じたのである。
(ケガを理由にされたくないから、全員が完治するまで猶予を与えたわ)
(もう止まらないわよ!安倍なつみ!)
自らの手で育て上げた脅威の弟子たちを、するどい目で見守る。

「心配はしていないわ、ウフフ」

677 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:26 ID:drtI98SS
3人の弟子の中でもっとも八極拳の才に恵まれたのが田中れいなである。
その力を100%発揮したとき、彼女は発勁を意のままに操ることが可能になる。
通常の八極拳で弱点視される間合いや溜めの心配が無くなる。
ただ触れただけで、相手を吹き飛ばしてしまう怪物。

そして、3人の中でもっとも才に恵まれなかったのが道重さゆみ。
いくら教えても彼女はなかなか八極拳の技術を身につけることができなかった。
八極拳において重要な気の流れがまったくのリズム音痴なのだ。
体全体に一定の気を保つことができず、体の一部だけに爆発的に気を溜めたりしてしまう。
しかしそれが彼女の真の能力だったことに気づいたのは最近のこと。
爆発的気の集中により、体の一部を硬質化できる怪物。

この2人以外にもうひとり弟子はいる。
ただその娘だけは、師の保田でさえも掴みきれていない。
才があるのかないのか?強いのか弱いのか?何を考えているのか?
実際、なっち率いる表の格闘技界を潰すのなら田中と道重だけで十分だと思う。
この二人はそれほどの怪物である。
先のトーナメントを見て、敵の力は大体把握した。
現時点で田中と道重に勝さる奴はいなかった、というのが感想だ。
だがもし何か――――――――――予定外の分子が計画の邪魔に入ったとき。
そのときは切らなければいけないであろうと思う。
予測不能なもう一枚のカードを。

678 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:27 ID:drtI98SS
「さぁ、存分に暴れてきなさい!れいな!さゆ!」
「言われんでもやるばい。さゆ、行くよ!」
「あーちょっと待ってよ〜」

道重はあわてて出場選手を記した紙をポケットにしまい、田中を追う。
あまりに急いだため、紙はポケットにうまく収まらず落ちてしまった。
しかし道重は気付かず田中を追いかけて走り去っていった。
保田圭もすぐに家屋に引き返した為、気付かない。
リスト用紙が地面に落ちて残った。

トコトコ……

そこへ誰かが近づいてきた。
田中でも道重でも保田でもない。
その誰かは落ちている紙に気付くと、拾い上げて中を見た。

「ん〜?」

第24話「頂上が見えた日」終わり

679 :辻っ子のお豆さん ◆No.NoSexe. :04/05/08 00:28 ID:drtI98SS
次回予告

次々と襲われるトーナメント戦士。
果たして次に犠牲となるのは?そして…

「とっちゃいましたぁ」

史上ちゃいこーの娘、ついに降臨。

To be continued

680 :名無し募集中。。。.:04/05/08 00:46 ID:7iN9JMLP
>>679
お疲れ様でした〜!!いやーーー!!


  や  っ  と  き  ま  し  た  か  !  !


散々待たされましたよ・・・(遠い目)

681 :ねぇ、名乗って:04/05/08 02:57 ID:Ba+BV3jV
乙ですよ?
ちゃいこークルー?

682 :名無し募集中。。。:04/05/08 13:09 ID:yE1aW2Si
「ん〜?」キタキタ━(゚∀゚)━!!

683 :ただすん:04/05/08 15:26 ID:CMGpkUtQ
予想
☆光 安倍、辻、高橋、市井、飯田、矢口、
★闇 石川、保田、亀井(ラスボス?)、田中、道重、松浦、加護
中立 後藤、藤本
活躍なし 吉澤、小川、その他大勢の皆さん
ノノ*^ー^)と田中120%に期待w

684 :名無し募集中。。。:04/05/08 16:02 ID:A5kaMTFY
クルのか?キタのか?とにかくキタ━━━━!!!

685 :名無し募集中。。。:04/05/08 16:52 ID:tGx60lMq
ごとーさんも闇ですか・・・?

686 :名無し募集中。。。:04/05/08 20:56 ID:4w70x7vI
亀井あっさりやられてくれ
バランスが・・・保田っ軍団次回で全滅に1000ノノタン

687 :ねぇ、名乗って:04/05/08 21:03 ID:xs26UqGv
瑞鶴レス続×89 U F A も う だ め ぽ sage作戦進行中

688 :ねぇ、名乗って:04/05/08 23:14 ID:lT10ZKP5
柴ちゃん・・・
。・゚・(ノД`)・゚・。

689 :名無し募集中。。。:04/05/09 19:31 ID:rIYB63qD
僕の予想

☆光    ★闇
高橋 VS 松浦
辻   VS 加護
矢口 VS 藤本
後藤 VS 石川
安倍 VS ?(6期衆?)

690 :名無し募集中。。。:04/05/09 19:37 ID:XLyG3RHB
>>689
それ書いちゃったら・・・
これでめちゃくちゃな展開になりそう・・・まあ順当になっち皆殺しかな?ウフッ

691 :名無し募集中。。。:04/05/09 19:53 ID:+/H59YGq
藤本には、ここらで亀井に負けてプライドスタズタになって欲しい
で、松浦と一緒に這い上がって欲しい

692 :名無し募集中。。。:04/05/09 23:56 ID:zuUF0zl2
亀井よりも、狂った石川にずたぼろにされたあげく、
精神的にいびられてほしい。
そこでスーパーサイヤ人化して・・・


693 :名無し募集中。。。:04/05/10 12:58 ID:rrQIm8cN
「無粋な予想はよそう」って偉い人が言ってた

694 :名無し募集中。。。:04/05/10 14:20 ID:e2EKmVv1
辻豆さんは、大筋のストーリーをもう決めてるっぽいから
予想もアリかなって思わなくもない。
ここで先が読まれたからって、奇をてらってストーリーを曲げたりするような人ではないと思う。
でも、過度の予想は確かに嫌かもね。って、どっちなんだ、俺。

695 :名無し募集中。。。 :04/05/10 15:24 ID:oGG8sAys
光と闇とかじゃなくて四組くらいにわかれるんじゃない?
保田 六期
安部 辻 紺野 誰か 誰か
飯田 新垣 ソニン 誰か
石川 誰か 誰か 誰か
高橋 誰か 誰か
キンニクマンの最後の方であっじゃん?
何にしろ、超楽しみです。辻豆さん、がんばってください。

696 :名無し募集中。。。:04/05/10 17:31 ID:LN5DimcA
ここでタッグトーナメントですよ

高橋&松浦
辻&加護
安倍&飯田
田中&道重

後藤は車椅子の吉澤をつれて

697 :ねぇ、名乗って:04/05/10 17:34 ID:H7GliLj3
あげないほうが

698 :名無し募集中。。。:04/05/10 19:31 ID:sKyPDAVG
でもやっぱ話の流れ上、なっちは別格扱いにして欲しいな・・頂点ということで
高橋オタなのでせつなくはありますが・・・

699 :名無し募集中。。。:04/05/10 21:36 ID:5517Fdxt
いやいや、6人タッグですよ

700 :ねぇ、名乗って:04/05/11 01:51 ID:gU5qJNJa
スレを復活させます

701 :ねぇ、名乗って:04/05/11 02:18 ID:8T91tF6E
さっき狼でちょっと話題にあがってたよ

498 :名無し募集中。。。 :04/05/11 00:16
今の羊って辻豆知ってる人も少なそうだな


702 :ねぇ、名乗って:04/05/11 23:13 ID:U6aw8Olp
読む度に自分との格の違いを思い知らされます。自分も精進せねば・・・。

703 :名無し募集中。。。 :04/05/13 04:10 ID:gzUhdv06
>>701
羊でこれだからね。
    ↓
今、あえて羊小説について語りたい
http://tv4.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1081388963/

10 名前:ねぇ、名乗って 投稿日:04/04/11 20:23 ID:6CDhvTRF
確かに2年位前は盛り上がっていた。
辻豆タンどうしているかにゃ?
11 名前:名無し募集中。。。 投稿日:04/04/12 08:23 ID:QMYX063y
>>10
辻豆は現役じゃないか。
12 名前:ねぇ、名乗って 投稿日:04/04/12 12:55 ID:K+zVIgf3
>>10
IDがCDハブられたTRF
>>11
いまだに書いてるの?<辻豆氏
13 名前:ねぇ、名乗って 投稿日:04/04/13 12:09 ID:ESYjt4AU
>>12
ジブンのみち
14 名前:ねぇ、名乗って 投稿日:04/04/14 02:45 ID:HR0xs/oP
>>13
久々に読んだ。サンクス
15 名前:名無し募集中。。。 投稿日:04/04/14 03:16 ID:RoeBOsr0
モームス最大トーナメントを読んだ後、ジブンの(ryを読むと
辻豆は腕を上げたな〜って思った。


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